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72話
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ここ最近俺の忙しさは異常だ。船の周りを整備する必要があったり、教会のために畑を拡張する必要があったりと手が足りない。
「リッツ様、もう少し周りを頼ってみてはどうでしょうか?」
「ん-そうは言ってもみんなには十分助けてもらってるしなぁ」
基本的に何かあれば『紅蓮の風』に協力してもらえるが、彼らだって暇なわけじゃない。最近は街にうまく溶け込んで仕事を得ているらしいから非常時以外は頼りたくないのだ。
「どれ、私が一つ知恵を貸してやってもいいぞ」
リヤンが得意気に腰へ手を当て俺をみる。
「お? 是非とも教えてくれ」
「そうだな、前に売り切れだった絶品パフェが食べたい。お子様用ではなく普通のサイズのやつを」
「……落ち着いたら連れてってやる」
「約束だぞ。よし、まずお主は自分の立場を理解していない」
「立場って守護者のことか?」
「それは私たち一族からみた場合、この国でのリッツは聖人でありすでに貴族並みの存在になっているみたいじゃないか」
「そんなつもりはなかったんだがなぁ」
「そうはいっても聖人であるお主は国の顔でもある、人々に良い印象を与えねばならない」
「別に崇められたいなんて思ってないぞ」
「そんなことはどうだっていいんだよ。成り行きとはいえお主が人々を助けたからこそ今の立場がある。だからいつも通り困ってる人々を助ければいい」
「困ってる人なんてそんなにいないだろ」
人々がしょっちゅう困ってる国だって問題だと思うが。
どういうことかわからず考えているとニエが手を叩く。
「リッツ様、人を雇えばいいんですよ。街には仕事がたくさんありますが、村では作物を育てているためこの時期は手が空いてる方もたくさんいるはずです!」
「なるほど、収穫時期がくれば忙しくなるから、それまでの期間だけにすれば迷惑も掛からないな。よし、さっそく村に話を聞きに行こう!」
リヤンによる素晴らしい案のおかげで俺も時間が作れそうだ。外にでる支度をしていると教会からシスターがやってくる。
「リッツさん、今からお出掛けでしたか」
「村に行こうと思っててね。何か用だった?」
「教会に見掛けない方が起こしでして……裏の屋敷で人を募集していると聞いてきたと仰ってて、遠方から来たため少し教会で休んでいるのですが、リッツさんは何か知りませんか?」
「いや何も…………あ? あーまさか!」
俺は急いで教会に向かうと、後ろの席に座り汗を拭いているハリスさんを見つける。
「ハリスさん!」
「おぉ、またあなたにお会いできるとは! 頂いた薬のおかげですっかり体が治りまして、あのときは本当にありがとうございました」
「気にしないでください。それよりここに来たってことは――」
「お恥ずかしい話ですがレブラント家を辞職しまして、あなたのお言葉を聞き最後の仕事をやれればとここへ来たのです」
「やっぱりそうでしたか!」
「あなたは屋敷の者と知り合いのようでしたが、まだ人手は必要そうでしたかな?」
「あぁ実は――」
待てよ……そういえばバトラさんに教えてもらったことがいくつかあったな。
俺は鞄から紙を取り出してチェックする。
「ハリスさんは何が得意ですか?」
「私は屋敷や使用人、敷地内の管理など一通り携わってましたのでそういったものであれば……もしや、すでに試験は始まっておりますかな?」
「ふふふ、実は屋敷の主に採用試験を任せると言われてまして」
「左様でしたか。それで、私は何をすればよろしいのですか?」
「まず、試験を受けるにあたっていくつか条件があります。一つ目は屋敷の主について探らない、これは主が目立つのを嫌うお方だから。二つ目はどこまでやれるかを判断したいので先に成果をあげてもらう必要があって――それまでは街の宿を使ってもらいますが経費はすべて持ちますので安心してください」
俺が説明をしていると遠くでシスターとニエたちが口元を隠し笑っている。リヤンがやれやれというように両手を横にあげているが、これは俺にとっても初の雇用になるかもしれないのだ、ミスはできるだけしたくない。
「なるほど、私が信用に足るかを見られるわけですな」
思ったより察しがいい……もう少し無理を言ってみても大丈夫か?
「それで何をしてもらうかなんですが、屋敷の敷地内を整備するために人を集めてほしいんです。ただし、街で人を募集するのではなく、少し離れてるけど村に行って手の空いた人たちを集めてください」
「ふむ……一つお聞きしますが、人手を集める際も屋敷からの依頼だとは話さぬほうがよろしいですかな?」
「そうですね、この国では少しばかり有名な方なので騒ぎになりかねません。大変だとは思いますが、試験が終わるまではとある貴族からの依頼だと言ってください」
「労働者に対する年齢や給金に関してはどのように?」
やばっ……そこまで考えてなかった。
「……主はそれも含めて実力をみたいと言っていたので、ハリスさんが考えるようにしてみてください。ある程度目処が立ったところで一度紙にまとめて報告をしてもらえればと思いますが、どうでしょうか?」
「ふ~むっ、これは久々に腕がなりますな! この試験お受けさせて頂きます!」
「それじゃあまず、経費はこれで済ませてください」
俺は金貨を一枚出すとハリスさんへ渡す。なぜ金貨一枚なのかは経費がどのくらいかかるのかまったくわからないためだ。
「足りなければ教会を通して俺に言ってください。すぐに補填しますので」
「……そうきましたか。これは気を引き締めねばなりませんな」
いったいなんのことかさっぱりだがハリスさんの表情からは笑顔が消えていた。
「では私はこれにて。ご準備ができましたらこちらの教会へご連絡致します」
ハリスさんは別人のようにピリッとした雰囲気で教会を出て行った。
……もう少し気楽にって言っておいたほうがよかったかな。
「リッツ様、もう少し周りを頼ってみてはどうでしょうか?」
「ん-そうは言ってもみんなには十分助けてもらってるしなぁ」
基本的に何かあれば『紅蓮の風』に協力してもらえるが、彼らだって暇なわけじゃない。最近は街にうまく溶け込んで仕事を得ているらしいから非常時以外は頼りたくないのだ。
「どれ、私が一つ知恵を貸してやってもいいぞ」
リヤンが得意気に腰へ手を当て俺をみる。
「お? 是非とも教えてくれ」
「そうだな、前に売り切れだった絶品パフェが食べたい。お子様用ではなく普通のサイズのやつを」
「……落ち着いたら連れてってやる」
「約束だぞ。よし、まずお主は自分の立場を理解していない」
「立場って守護者のことか?」
「それは私たち一族からみた場合、この国でのリッツは聖人でありすでに貴族並みの存在になっているみたいじゃないか」
「そんなつもりはなかったんだがなぁ」
「そうはいっても聖人であるお主は国の顔でもある、人々に良い印象を与えねばならない」
「別に崇められたいなんて思ってないぞ」
「そんなことはどうだっていいんだよ。成り行きとはいえお主が人々を助けたからこそ今の立場がある。だからいつも通り困ってる人々を助ければいい」
「困ってる人なんてそんなにいないだろ」
人々がしょっちゅう困ってる国だって問題だと思うが。
どういうことかわからず考えているとニエが手を叩く。
「リッツ様、人を雇えばいいんですよ。街には仕事がたくさんありますが、村では作物を育てているためこの時期は手が空いてる方もたくさんいるはずです!」
「なるほど、収穫時期がくれば忙しくなるから、それまでの期間だけにすれば迷惑も掛からないな。よし、さっそく村に話を聞きに行こう!」
リヤンによる素晴らしい案のおかげで俺も時間が作れそうだ。外にでる支度をしていると教会からシスターがやってくる。
「リッツさん、今からお出掛けでしたか」
「村に行こうと思っててね。何か用だった?」
「教会に見掛けない方が起こしでして……裏の屋敷で人を募集していると聞いてきたと仰ってて、遠方から来たため少し教会で休んでいるのですが、リッツさんは何か知りませんか?」
「いや何も…………あ? あーまさか!」
俺は急いで教会に向かうと、後ろの席に座り汗を拭いているハリスさんを見つける。
「ハリスさん!」
「おぉ、またあなたにお会いできるとは! 頂いた薬のおかげですっかり体が治りまして、あのときは本当にありがとうございました」
「気にしないでください。それよりここに来たってことは――」
「お恥ずかしい話ですがレブラント家を辞職しまして、あなたのお言葉を聞き最後の仕事をやれればとここへ来たのです」
「やっぱりそうでしたか!」
「あなたは屋敷の者と知り合いのようでしたが、まだ人手は必要そうでしたかな?」
「あぁ実は――」
待てよ……そういえばバトラさんに教えてもらったことがいくつかあったな。
俺は鞄から紙を取り出してチェックする。
「ハリスさんは何が得意ですか?」
「私は屋敷や使用人、敷地内の管理など一通り携わってましたのでそういったものであれば……もしや、すでに試験は始まっておりますかな?」
「ふふふ、実は屋敷の主に採用試験を任せると言われてまして」
「左様でしたか。それで、私は何をすればよろしいのですか?」
「まず、試験を受けるにあたっていくつか条件があります。一つ目は屋敷の主について探らない、これは主が目立つのを嫌うお方だから。二つ目はどこまでやれるかを判断したいので先に成果をあげてもらう必要があって――それまでは街の宿を使ってもらいますが経費はすべて持ちますので安心してください」
俺が説明をしていると遠くでシスターとニエたちが口元を隠し笑っている。リヤンがやれやれというように両手を横にあげているが、これは俺にとっても初の雇用になるかもしれないのだ、ミスはできるだけしたくない。
「なるほど、私が信用に足るかを見られるわけですな」
思ったより察しがいい……もう少し無理を言ってみても大丈夫か?
「それで何をしてもらうかなんですが、屋敷の敷地内を整備するために人を集めてほしいんです。ただし、街で人を募集するのではなく、少し離れてるけど村に行って手の空いた人たちを集めてください」
「ふむ……一つお聞きしますが、人手を集める際も屋敷からの依頼だとは話さぬほうがよろしいですかな?」
「そうですね、この国では少しばかり有名な方なので騒ぎになりかねません。大変だとは思いますが、試験が終わるまではとある貴族からの依頼だと言ってください」
「労働者に対する年齢や給金に関してはどのように?」
やばっ……そこまで考えてなかった。
「……主はそれも含めて実力をみたいと言っていたので、ハリスさんが考えるようにしてみてください。ある程度目処が立ったところで一度紙にまとめて報告をしてもらえればと思いますが、どうでしょうか?」
「ふ~むっ、これは久々に腕がなりますな! この試験お受けさせて頂きます!」
「それじゃあまず、経費はこれで済ませてください」
俺は金貨を一枚出すとハリスさんへ渡す。なぜ金貨一枚なのかは経費がどのくらいかかるのかまったくわからないためだ。
「足りなければ教会を通して俺に言ってください。すぐに補填しますので」
「……そうきましたか。これは気を引き締めねばなりませんな」
いったいなんのことかさっぱりだがハリスさんの表情からは笑顔が消えていた。
「では私はこれにて。ご準備ができましたらこちらの教会へご連絡致します」
ハリスさんは別人のようにピリッとした雰囲気で教会を出て行った。
……もう少し気楽にって言っておいたほうがよかったかな。
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