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79話 ミレイユサイド
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城にある会議室でシリウス、ミレイユ、ウェッジの三人は机を囲むように座っていた。
「まずは兵の配置が決まり次第、主要場所に一人ずつ団員を送ってほしい」
「オーケー、大枠はそちらさんに任せる。俺たちは被害が出ないよう尽力するさ」
「事態によっては『紅蓮の風』には自由に行動をしてもらって構わない。判断力に関しては我々よりも経験豊富な君たちのほうが上だろうからな」
二人が頷くとシリウスは続けた。
「次にヴェーダに関してだが、捕らえた者たちは全員組織について知らされていなかった。そちらは何か掴めなかったか?」
「俺からは残念なお知らせが一つ。買い手の痕跡を追ってみたがどうやら奴ら、【ブレーオア】から国境を越えて来ていたようだ。隠すように複数の道があったがどれも何度か使用した形跡があった。裏で通じている奴がいるのは間違いないだろう」
「ふむ……。尻尾を掴めると思ったがどうやら今回も撒かれたようだな」
「そうでもないわ、私からは朗報よ。『リモン商会』というのを知っているかしら? 最近街で勢力を拡大している黒い噂が絶えないところよ」
「聞かない名だな。名のある商会ならば私の耳にも入るはずだが」
「帳簿を調べてみたけど怪しい取引がいくつかあってね。その中に【ブレーオア】でみた名前がいくつかあったの。そしてそこに送っていたのは全て薬草や薬関連だったわ」
シリウスは顎に手を当て眉をひそめた。
「昔から【ブレーオア】には一定数の薬草を通していたはず……。私の父、先代国王は年々多くなる薬草の輸出を危惧し、草類や薬関連の売買には制限を設けていたのだ。目先の儲けにとびつき自然や身を滅ぼさぬよう民にも呼びかけ、今では国の承認なしで輸出した場合は刑罰が定められている」
話を聞いたウェッジがハッとしてミレイユをみる。
「なぁ団長、もしかして俺らがいた頃にリッツの仕事が増えた理由って――」
「……可能性は高いわね」
「何か思い当たることでもあるのか?」
「私たちがまだ【ブレーオア】にいた頃、リッツはポーションの製造を手伝っていたの。知っているかもしれないけどリッツが作った薬は普通のよりも効果が高く、すぐに取引先だった【エナミナル】から倍以上の取引が持ちかけられたわ」
「それほどの技術が【ブレーオア】にはあったというのか」
シリウスの言葉にウェッジは鼻を鳴らすと苦虫を嚙み潰したように顔をしかめた。
「ちげぇよ、あいつらが作れるのなんざ精々普通のポーションの色を濃くするくらいだ。……全部あのバカが一人で作ってたんだよ」
ウェッジが吐き捨てるように言うとミレイユは補足するようにシリウスをみた。
「リッツが草を前にすると盲目的になるのはわかるかしら?」
「……そういえば前に一度、教会で会う約束をしていたときリッツは庭の草をみていて、いくら声を掛けても見向きすらしなかったな」
「あれには訳があってね…………とにかく、一度あぁなるとリッツは誰かに止められない限りほぼ丸一日は草を触り続けるわ。それが原因でポーションを作り続けさせられていたのよ」
「疲れてんのに草は触れるんだから、一種の中毒みてぇなもんかも知れねぇな」
「それが原因で薬草類の闇取引が横行し始めた可能性があるということか」
「だがリッツのいない今、いけ好かねぇ錬金術師の連中がポーションを作っているがやはり作れるのはただの薬程度、そのおかげで俺たちは尻拭いさせられたわけだ」
シリウスはウェッジの話に何度か頷いたが、途中でふと何かを考え首を傾げた。
「待て、リッツはエリクサーを作らされ追放されたと言っていた。そもそもエリクサーの情報はどこから出てきたというのだ」
「あのときは王から突然指示が出され、やっと認められるとリッツと私は意気込んでエリクサーの製作に取り組んでいたわ。だから出所がどこかまではわからないけど、一つだけ『白金師団』――さっきウェッジが言った錬金術師たちの一人がエリクサーの存在を知っていたの。もしかするとそのあたりが繋がっているのかもしれない」
「なるほど……まだ決定付けるには材料が少ないが、にらみを利かせておくに越したことはないようだな」
「商会についてはもう少しこちらで探ってみるけど、たぶん、勝負は収穫祭でしょうね」
「こちらもあらゆる手を考えておかねばならんな。できるだけ奴らの目的を絞りたい、いくつかパターンを考えてみよう」
それから数時間かけ三人はあらゆる事態を想定し対策を話し合っていた。
「まずは兵の配置が決まり次第、主要場所に一人ずつ団員を送ってほしい」
「オーケー、大枠はそちらさんに任せる。俺たちは被害が出ないよう尽力するさ」
「事態によっては『紅蓮の風』には自由に行動をしてもらって構わない。判断力に関しては我々よりも経験豊富な君たちのほうが上だろうからな」
二人が頷くとシリウスは続けた。
「次にヴェーダに関してだが、捕らえた者たちは全員組織について知らされていなかった。そちらは何か掴めなかったか?」
「俺からは残念なお知らせが一つ。買い手の痕跡を追ってみたがどうやら奴ら、【ブレーオア】から国境を越えて来ていたようだ。隠すように複数の道があったがどれも何度か使用した形跡があった。裏で通じている奴がいるのは間違いないだろう」
「ふむ……。尻尾を掴めると思ったがどうやら今回も撒かれたようだな」
「そうでもないわ、私からは朗報よ。『リモン商会』というのを知っているかしら? 最近街で勢力を拡大している黒い噂が絶えないところよ」
「聞かない名だな。名のある商会ならば私の耳にも入るはずだが」
「帳簿を調べてみたけど怪しい取引がいくつかあってね。その中に【ブレーオア】でみた名前がいくつかあったの。そしてそこに送っていたのは全て薬草や薬関連だったわ」
シリウスは顎に手を当て眉をひそめた。
「昔から【ブレーオア】には一定数の薬草を通していたはず……。私の父、先代国王は年々多くなる薬草の輸出を危惧し、草類や薬関連の売買には制限を設けていたのだ。目先の儲けにとびつき自然や身を滅ぼさぬよう民にも呼びかけ、今では国の承認なしで輸出した場合は刑罰が定められている」
話を聞いたウェッジがハッとしてミレイユをみる。
「なぁ団長、もしかして俺らがいた頃にリッツの仕事が増えた理由って――」
「……可能性は高いわね」
「何か思い当たることでもあるのか?」
「私たちがまだ【ブレーオア】にいた頃、リッツはポーションの製造を手伝っていたの。知っているかもしれないけどリッツが作った薬は普通のよりも効果が高く、すぐに取引先だった【エナミナル】から倍以上の取引が持ちかけられたわ」
「それほどの技術が【ブレーオア】にはあったというのか」
シリウスの言葉にウェッジは鼻を鳴らすと苦虫を嚙み潰したように顔をしかめた。
「ちげぇよ、あいつらが作れるのなんざ精々普通のポーションの色を濃くするくらいだ。……全部あのバカが一人で作ってたんだよ」
ウェッジが吐き捨てるように言うとミレイユは補足するようにシリウスをみた。
「リッツが草を前にすると盲目的になるのはわかるかしら?」
「……そういえば前に一度、教会で会う約束をしていたときリッツは庭の草をみていて、いくら声を掛けても見向きすらしなかったな」
「あれには訳があってね…………とにかく、一度あぁなるとリッツは誰かに止められない限りほぼ丸一日は草を触り続けるわ。それが原因でポーションを作り続けさせられていたのよ」
「疲れてんのに草は触れるんだから、一種の中毒みてぇなもんかも知れねぇな」
「それが原因で薬草類の闇取引が横行し始めた可能性があるということか」
「だがリッツのいない今、いけ好かねぇ錬金術師の連中がポーションを作っているがやはり作れるのはただの薬程度、そのおかげで俺たちは尻拭いさせられたわけだ」
シリウスはウェッジの話に何度か頷いたが、途中でふと何かを考え首を傾げた。
「待て、リッツはエリクサーを作らされ追放されたと言っていた。そもそもエリクサーの情報はどこから出てきたというのだ」
「あのときは王から突然指示が出され、やっと認められるとリッツと私は意気込んでエリクサーの製作に取り組んでいたわ。だから出所がどこかまではわからないけど、一つだけ『白金師団』――さっきウェッジが言った錬金術師たちの一人がエリクサーの存在を知っていたの。もしかするとそのあたりが繋がっているのかもしれない」
「なるほど……まだ決定付けるには材料が少ないが、にらみを利かせておくに越したことはないようだな」
「商会についてはもう少しこちらで探ってみるけど、たぶん、勝負は収穫祭でしょうね」
「こちらもあらゆる手を考えておかねばならんな。できるだけ奴らの目的を絞りたい、いくつかパターンを考えてみよう」
それから数時間かけ三人はあらゆる事態を想定し対策を話し合っていた。
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