90 / 150
90話
しおりを挟む
「そんじゃ俺たちは戻るからな」
「お前らの手柄だってことも伝えてやるから安心しろ」
二台の馬車が積み荷を替え終えると男は【ブレーオア】から来た馬車に乗り出発した。取り残された男性は恐る恐る男たちに声を掛ける。
「あ、あの……私はこれで解放されるんですか。妻と娘は――」
「あー!? んなこと知るかよ!」
「くそ、イライラしてきたぜ……。もうこいつは用済みだ。殺してもいいんじゃねぇのか」
「リモン様は逃げるようなら殺せっていったんだ」
「逃げたから仕方なく殺したってことにすりゃバレねぇよ!」
男がそういうと男性を見てナイフを取り出す。
「や、やめろッ! 私は逃げる気なんてない!」
「仕方ねぇ、お前の家族は俺たちが可愛がってやる」
「――それは無理だ。お前らが行くのは牢屋だからな」
「ッ!? てめぇ、なぜここにいる!」
俺の後に続きニエが出てくると男の一人が指差した。
「後ろの女、あのガキと同じ髪だ。聖人に女がいたとはな」
「噂には聞いてたが、こりゃあガキと同じで上玉じゃねぇか!」
「あーすまんがお前らに付き合ってる暇はないんだ。アンジェロ、やれ」
影が差すと上からアンジェロが降ってくる。男たちがアンジェロに倒されると俺は気絶した二人を手早く縛り馬車の中に放り込む。
「よし、これで完了っと」
「あの……家族は無事なんでしょうか」
「帰る頃には『リモン商会』は無くなってるよ。家族も護衛がついてるから安心してくれ」
「よかった……戻ったらすぐに自首します。聖人様、本当にありがとうございました」
「あぁ、こいつらを出すのも忘れずにな。それと――いや、なんでもない。気を付けてな」
男性は馬車を走らせ戻っていった。
「リッツ様、サプライズですね」
「彼だってある意味被害者だったんだ。少しくらい良いことがあっても罰は当たらないだろ。さ、俺たちも先を急ごう」
ここへ来る前、男性の奥さんが病と聞いていた俺は護衛に向かった『紅蓮の風』の団員にエリクサーを渡しておいた。
それにシリウスは真実を知ることができる。無罪とは言わないが、きっと刑も軽くしてくれるはずだ。
俺たちはアンジェロに乗ると【ブレーオア】に向かった馬車を追った。
◇
「お~なんだか懐かしいなぁ」
この国は城に続く街道すべてが整備され城下町もなかなかの規模がある。それもこれも先代の国王が残した素晴らしい功績なのだが、現国王はいったい何をしているのやら……。
「リッツ様はここで生まれ育ったのですね」
「…………俺は師匠に拾われてここへ来た。だから、生まれは違うんだ」
「そうだったのですか、失礼しました」
俺の気を察したのかニエは笑顔を残したままほんの少しだけ表情を曇らせた。
「悪いな、今度時間があったときにでも話すよ」
「無理に聞こうとは思っていません。リッツ様はリッツ様ですから――それより馬車が街道に入りました。どうやら城下町には行かないようですね」
森から街道に抜けた馬車は城とは真逆のほうへ走っていく。
「おっとそうだった。ここからは追う前に……これを上に着てくれ」
あらかじめ準備しておいた外装を取り出しニエに渡す。
「俺は追放された身だからどう噂されてるかわからない。注意して行動してくれ」
「でしたら呼ぶときの名も変えた方がよろしいでしょうか」
「それもそうだな、念のため変えておこう。なんでもいいから決めてくれ」
「うーん――それじゃあゴードンさんでいきましょう!」
……なんかすごいのがでてきたな。
「ちなみにそれは誰の名前?」
「リッツ様を探していたとき食事を分けてくださった旅の方がいたんです。その方がゴードンさんという名でした!」
めっちゃいい人じゃん、見直したぞゴードンさん。
「よし、それでいこう。アンジェロもその姿のときは人目につかないようにな」
「ワフッ」
さぁ、俺は今からゴードンさんだ!
「お前らの手柄だってことも伝えてやるから安心しろ」
二台の馬車が積み荷を替え終えると男は【ブレーオア】から来た馬車に乗り出発した。取り残された男性は恐る恐る男たちに声を掛ける。
「あ、あの……私はこれで解放されるんですか。妻と娘は――」
「あー!? んなこと知るかよ!」
「くそ、イライラしてきたぜ……。もうこいつは用済みだ。殺してもいいんじゃねぇのか」
「リモン様は逃げるようなら殺せっていったんだ」
「逃げたから仕方なく殺したってことにすりゃバレねぇよ!」
男がそういうと男性を見てナイフを取り出す。
「や、やめろッ! 私は逃げる気なんてない!」
「仕方ねぇ、お前の家族は俺たちが可愛がってやる」
「――それは無理だ。お前らが行くのは牢屋だからな」
「ッ!? てめぇ、なぜここにいる!」
俺の後に続きニエが出てくると男の一人が指差した。
「後ろの女、あのガキと同じ髪だ。聖人に女がいたとはな」
「噂には聞いてたが、こりゃあガキと同じで上玉じゃねぇか!」
「あーすまんがお前らに付き合ってる暇はないんだ。アンジェロ、やれ」
影が差すと上からアンジェロが降ってくる。男たちがアンジェロに倒されると俺は気絶した二人を手早く縛り馬車の中に放り込む。
「よし、これで完了っと」
「あの……家族は無事なんでしょうか」
「帰る頃には『リモン商会』は無くなってるよ。家族も護衛がついてるから安心してくれ」
「よかった……戻ったらすぐに自首します。聖人様、本当にありがとうございました」
「あぁ、こいつらを出すのも忘れずにな。それと――いや、なんでもない。気を付けてな」
男性は馬車を走らせ戻っていった。
「リッツ様、サプライズですね」
「彼だってある意味被害者だったんだ。少しくらい良いことがあっても罰は当たらないだろ。さ、俺たちも先を急ごう」
ここへ来る前、男性の奥さんが病と聞いていた俺は護衛に向かった『紅蓮の風』の団員にエリクサーを渡しておいた。
それにシリウスは真実を知ることができる。無罪とは言わないが、きっと刑も軽くしてくれるはずだ。
俺たちはアンジェロに乗ると【ブレーオア】に向かった馬車を追った。
◇
「お~なんだか懐かしいなぁ」
この国は城に続く街道すべてが整備され城下町もなかなかの規模がある。それもこれも先代の国王が残した素晴らしい功績なのだが、現国王はいったい何をしているのやら……。
「リッツ様はここで生まれ育ったのですね」
「…………俺は師匠に拾われてここへ来た。だから、生まれは違うんだ」
「そうだったのですか、失礼しました」
俺の気を察したのかニエは笑顔を残したままほんの少しだけ表情を曇らせた。
「悪いな、今度時間があったときにでも話すよ」
「無理に聞こうとは思っていません。リッツ様はリッツ様ですから――それより馬車が街道に入りました。どうやら城下町には行かないようですね」
森から街道に抜けた馬車は城とは真逆のほうへ走っていく。
「おっとそうだった。ここからは追う前に……これを上に着てくれ」
あらかじめ準備しておいた外装を取り出しニエに渡す。
「俺は追放された身だからどう噂されてるかわからない。注意して行動してくれ」
「でしたら呼ぶときの名も変えた方がよろしいでしょうか」
「それもそうだな、念のため変えておこう。なんでもいいから決めてくれ」
「うーん――それじゃあゴードンさんでいきましょう!」
……なんかすごいのがでてきたな。
「ちなみにそれは誰の名前?」
「リッツ様を探していたとき食事を分けてくださった旅の方がいたんです。その方がゴードンさんという名でした!」
めっちゃいい人じゃん、見直したぞゴードンさん。
「よし、それでいこう。アンジェロもその姿のときは人目につかないようにな」
「ワフッ」
さぁ、俺は今からゴードンさんだ!
22
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる