91 / 150
91話
しおりを挟む
「リッ……ゴードンさん、どうやら今日はあそこの宿で一泊するみたいですね」
「では私たちも今日は休むとしよう。よいな、アンジェロ?」
「……ワフッ?」
もう少し声を低く……いや、あまりやりすぎるとわざとらしいか。
俺のイメージするゴードンさんは剣一本で逞しい姿だ。これくらいすれば万が一俺を知ってる人間に出会っても誤魔化せるはず。
とりあえず予行練習をしてみたが案の定、ニエは出だしで即アウトだ。やはりぶっつけ本番というのはできる限りやめたほうがいい、頭で考えるのも大事だがやってみなければわからないということもあるのだ。
「うぅー、リッツ様がリッツ様じゃないです」
「ニエよ、そんな顔をするな。これも作戦のためだ」
日もすっかり落ち馬車の止まった宿に向けて歩いていると男が走ってくる。
「邪魔だどけえええええええ!」
「泥棒ーー! だ、誰かそいつを捕まえてくれーー!!」
なるほど、そういうことか。
俺は避けるふりをして足をかけると男は盛大にこけ、遅れて小太りの男がやってきた。
「はぁはぁはぁ……君たち、ありがとう。――おい、それを返してもらうぞ!」
「く、くそッ!!」
男は奪ったであろう袋を拾い立ち上がると不慣れそうにナイフを取り出した。
いきなり刃物って、ここまで治安悪かったっけ。
「そんな物騒なモノはしまって大人しく盗んだ物を返しなさい」
「うるせぇ! ここじゃ盗られるほうが悪いんだ!」
何そのスラム街みたいな言い方……。
「あっ、衛兵がきたぞ」
「ッ!!」
男が視線を逸らした瞬間、俺はナイフと袋を奪った。
「あっ――」
「奪われるほうが悪いんだったよな?」
「……く、くそ、覚えてろよぉ!!」
今は顔バレするわけにはいかないからこの辺が限界だろう。
「ほら、返すぞ。次は盗まれないよう気を付けるんだな」
「いや~助かったよ。噂には聞いてたがここまで治安が悪くなっていたとはねぇ」
「どういうことだ?」
男に袋を渡すと中身を確認しながら口を開く。
「あんたら旅の人かい。お礼に一杯どうだ?」
「すまないが連れもいる、気持ちだけ受け取っておこう」
「そうか、それじゃさっきの話だが、最近【ブレーオア】全域で犯罪が増えてるらしい。噂じゃ『紅蓮の風』がいなくなり、兵たちの怠慢が明るみに出たのが原因と言われてる」
「この国の王は対策をしないのか?」
「それがどうも『白金師団』とかいう連中が『紅蓮の風』に代わって兵をまとめてるらしいんだが、王国の騎士団と相当揉めているようなんだ。しかも王様はどうやら『白金師団』の肩を持ってるらしくてね、騎士団内でも相当不満が溜まってるらしい」
あの王様はアホなのか……騎士団がいなければ誰が国を守るってんだよ。下手したら反乱が起きるぞ。
一通り話を聞くと男と別れ、俺たちは宿に向かった。
「あらぁ? 今日はやけにお客さんが多いこと」
「一晩泊まりたいのだが、その様子だと空きはないか」
「今は一部屋だけしかないわ。どうする?」
「それで構わない」
俺は少し多めに硬貨を出した。
「あら、三名様ご案内ね!」
案内された部屋はベッドが一つで辛うじて二人が寝れそうではある。
「明日はいつ出発になるかわからないから夕食をとったら二人は先に休んでてくれ。俺は情報をもらいに行ってくる」
「わかりました。アンジェロ、明日に備えて食べるわよ!」
「ワン!」
宿を出て馬車の周囲を探っていると男たちが集まっていた。
「おいおい、少しくらい飲んでもいいだろうが」
「飲んだくれを連れていくほど暇じゃない」
「俺にとっちゃ命の水なんだ! いいだろうが一杯くらいよ!」
「喚くな、人が集まる……。明日遅れたら薬草だけもらってお前を置いていくからな」
「大丈夫だっての。そんじゃ俺は飲んでくるぜ」
男が一人で酒場へ向かうと、俺は少し間を空け後を追って酒場に入った。
「では私たちも今日は休むとしよう。よいな、アンジェロ?」
「……ワフッ?」
もう少し声を低く……いや、あまりやりすぎるとわざとらしいか。
俺のイメージするゴードンさんは剣一本で逞しい姿だ。これくらいすれば万が一俺を知ってる人間に出会っても誤魔化せるはず。
とりあえず予行練習をしてみたが案の定、ニエは出だしで即アウトだ。やはりぶっつけ本番というのはできる限りやめたほうがいい、頭で考えるのも大事だがやってみなければわからないということもあるのだ。
「うぅー、リッツ様がリッツ様じゃないです」
「ニエよ、そんな顔をするな。これも作戦のためだ」
日もすっかり落ち馬車の止まった宿に向けて歩いていると男が走ってくる。
「邪魔だどけえええええええ!」
「泥棒ーー! だ、誰かそいつを捕まえてくれーー!!」
なるほど、そういうことか。
俺は避けるふりをして足をかけると男は盛大にこけ、遅れて小太りの男がやってきた。
「はぁはぁはぁ……君たち、ありがとう。――おい、それを返してもらうぞ!」
「く、くそッ!!」
男は奪ったであろう袋を拾い立ち上がると不慣れそうにナイフを取り出した。
いきなり刃物って、ここまで治安悪かったっけ。
「そんな物騒なモノはしまって大人しく盗んだ物を返しなさい」
「うるせぇ! ここじゃ盗られるほうが悪いんだ!」
何そのスラム街みたいな言い方……。
「あっ、衛兵がきたぞ」
「ッ!!」
男が視線を逸らした瞬間、俺はナイフと袋を奪った。
「あっ――」
「奪われるほうが悪いんだったよな?」
「……く、くそ、覚えてろよぉ!!」
今は顔バレするわけにはいかないからこの辺が限界だろう。
「ほら、返すぞ。次は盗まれないよう気を付けるんだな」
「いや~助かったよ。噂には聞いてたがここまで治安が悪くなっていたとはねぇ」
「どういうことだ?」
男に袋を渡すと中身を確認しながら口を開く。
「あんたら旅の人かい。お礼に一杯どうだ?」
「すまないが連れもいる、気持ちだけ受け取っておこう」
「そうか、それじゃさっきの話だが、最近【ブレーオア】全域で犯罪が増えてるらしい。噂じゃ『紅蓮の風』がいなくなり、兵たちの怠慢が明るみに出たのが原因と言われてる」
「この国の王は対策をしないのか?」
「それがどうも『白金師団』とかいう連中が『紅蓮の風』に代わって兵をまとめてるらしいんだが、王国の騎士団と相当揉めているようなんだ。しかも王様はどうやら『白金師団』の肩を持ってるらしくてね、騎士団内でも相当不満が溜まってるらしい」
あの王様はアホなのか……騎士団がいなければ誰が国を守るってんだよ。下手したら反乱が起きるぞ。
一通り話を聞くと男と別れ、俺たちは宿に向かった。
「あらぁ? 今日はやけにお客さんが多いこと」
「一晩泊まりたいのだが、その様子だと空きはないか」
「今は一部屋だけしかないわ。どうする?」
「それで構わない」
俺は少し多めに硬貨を出した。
「あら、三名様ご案内ね!」
案内された部屋はベッドが一つで辛うじて二人が寝れそうではある。
「明日はいつ出発になるかわからないから夕食をとったら二人は先に休んでてくれ。俺は情報をもらいに行ってくる」
「わかりました。アンジェロ、明日に備えて食べるわよ!」
「ワン!」
宿を出て馬車の周囲を探っていると男たちが集まっていた。
「おいおい、少しくらい飲んでもいいだろうが」
「飲んだくれを連れていくほど暇じゃない」
「俺にとっちゃ命の水なんだ! いいだろうが一杯くらいよ!」
「喚くな、人が集まる……。明日遅れたら薬草だけもらってお前を置いていくからな」
「大丈夫だっての。そんじゃ俺は飲んでくるぜ」
男が一人で酒場へ向かうと、俺は少し間を空け後を追って酒場に入った。
23
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる