エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

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91話

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「リッ……ゴードンさん、どうやら今日はあそこの宿で一泊するみたいですね」

「では私たちも今日は休むとしよう。よいな、アンジェロ?」

「……ワフッ?」

 もう少し声を低く……いや、あまりやりすぎるとわざとらしいか。

 俺のイメージするゴードンさんは剣一本で逞しい姿だ。これくらいすれば万が一俺を知ってる人間に出会っても誤魔化せるはず。

 とりあえず予行練習をしてみたが案の定、ニエは出だしで即アウトだ。やはりぶっつけ本番というのはできる限りやめたほうがいい、頭で考えるのも大事だがやってみなければわからないということもあるのだ。

「うぅー、リッツ様がリッツ様じゃないです」

「ニエよ、そんな顔をするな。これも作戦のためだ」

 日もすっかり落ち馬車の止まった宿に向けて歩いていると男が走ってくる。

「邪魔だどけえええええええ!」

「泥棒ーー! だ、誰かそいつを捕まえてくれーー!!」

 なるほど、そういうことか。

 俺は避けるふりをして足をかけると男は盛大にこけ、遅れて小太りの男がやってきた。

「はぁはぁはぁ……君たち、ありがとう。――おい、それを返してもらうぞ!」

「く、くそッ!!」

 男は奪ったであろう袋を拾い立ち上がると不慣れそうにナイフを取り出した。

 いきなり刃物って、ここまで治安悪かったっけ。

「そんな物騒なモノはしまって大人しく盗んだ物を返しなさい」

「うるせぇ! ここじゃ盗られるほうが悪いんだ!」

 何そのスラム街みたいな言い方……。

「あっ、衛兵がきたぞ」

「ッ!!」

 男が視線を逸らした瞬間、俺はナイフと袋を奪った。

「あっ――」

「奪われるほうが悪いんだったよな?」

「……く、くそ、覚えてろよぉ!!」

 今は顔バレするわけにはいかないからこの辺が限界だろう。

「ほら、返すぞ。次は盗まれないよう気を付けるんだな」

「いや~助かったよ。噂には聞いてたがここまで治安が悪くなっていたとはねぇ」

「どういうことだ?」

 男に袋を渡すと中身を確認しながら口を開く。

「あんたら旅の人かい。お礼に一杯どうだ?」

「すまないが連れもいる、気持ちだけ受け取っておこう」

「そうか、それじゃさっきの話だが、最近【ブレーオア】全域で犯罪が増えてるらしい。噂じゃ『紅蓮の風』がいなくなり、兵たちの怠慢が明るみに出たのが原因と言われてる」

「この国の王は対策をしないのか?」

「それがどうも『白金師団』とかいう連中が『紅蓮の風』に代わって兵をまとめてるらしいんだが、王国の騎士団と相当揉めているようなんだ。しかも王様はどうやら『白金師団』の肩を持ってるらしくてね、騎士団内でも相当不満が溜まってるらしい」

 あの王様はアホなのか……騎士団がいなければ誰が国を守るってんだよ。下手したら反乱が起きるぞ。

 一通り話を聞くと男と別れ、俺たちは宿に向かった。

「あらぁ? 今日はやけにお客さんが多いこと」

「一晩泊まりたいのだが、その様子だと空きはないか」

「今は一部屋だけしかないわ。どうする?」

「それで構わない」

 俺は少し多めに硬貨を出した。

「あら、三名様ご案内ね!」

 案内された部屋はベッドが一つで辛うじて二人が寝れそうではある。

「明日はいつ出発になるかわからないから夕食をとったら二人は先に休んでてくれ。俺は情報をもらいに行ってくる」

「わかりました。アンジェロ、明日に備えて食べるわよ!」

「ワン!」

 宿を出て馬車の周囲を探っていると男たちが集まっていた。

「おいおい、少しくらい飲んでもいいだろうが」

「飲んだくれを連れていくほど暇じゃない」

「俺にとっちゃ命の水なんだ! いいだろうが一杯くらいよ!」

「喚くな、人が集まる……。明日遅れたら薬草だけもらってお前を置いていくからな」

「大丈夫だっての。そんじゃ俺は飲んでくるぜ」

 男が一人で酒場へ向かうと、俺は少し間を空け後を追って酒場に入った。
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