エリクサーは不老不死の薬ではありません。～完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ～

102話

　神獣と少年は下にいる女性を前に微動だにしなかった。目を逸らせばどちらかがやられる――本能がそう感じとっていた。

　俺とリヤンが辿り着くと師匠はこちらに振り返る。

「まだ戦えるわね？」

「もちろんです！」

　短いやりとりのなかで思い出す。師匠がまだ・・とつけるときは、大抵の問題が問題じゃないというときだ。

　つまり、ここで俺がヘマをすればあとでしばかれるかもしれないということ……。

「ウムト兄さん！　もうやめて！」

「誰だお前は――うぅっ！？」

　ウムトと呼ばれた少年は頭を抱える。

「記憶が……封印の影響かも、穢れをとれば思い出してくれるかもしれないわ」

「わかった。多少荒くなるが見逃してくれよ」

　俺は世界樹の葉を取り出すと師匠の横に立つ。

「師匠、神獣を抑えたらアンジェロに合図を。あとこれ――穢れが取れたらすぐに飲ませてやってください」

　エリクサーを出すと師匠は頷き受け取る。

「全開でいくわよ」

「はい！」

　先に動いたのは師匠だ。ウムトたちが立っていた岩場を素手で殴ると亀裂が入り、ガラガラと音を立てて崩れる。

　神獣が着地すると同時に、師匠はアンジェロのいる方向へ神獣を投げ飛ばす。そのまま後を追いかける早業に、取り残された俺たちは静まり返る。

「……まさか、あっちが守護者だったか？」

「……言われてみれば普通そうだよな……お前とは気が合いそうだ」

　外装を取ったウムトの姿は黒髪にリヤン同様、まだ幼さの残る顔立ちをしていた。肉腫のついた腕が鋭くなるとこちらに走り出す。

「今度こそ殺してやる」

「残念だがそれは無理だ。短時間だが今の俺は――師匠を越える」

　ウムトの攻撃を避け殴ると、ウムトは吹き飛び岩壁に激突した。

　やりすぎのように見えるが相手は不死だ、本気を出しても大丈夫だろう。

　師匠に続きごり押しでウムトをアンジェロまで近づけていくと、師匠の合図があったのかアンジェロの遠吠えが響きウムトが苦しみ始めた。

　肉腫が身を守る盾のように硬化したが、今の俺には無意味だ。肉腫を叩き潰すと浄化され消えていく。

「リヤン、エリクサーを！　俺は周りの魔物を片付けてくる！」

「わかった！　あとはまかせて！」

　師匠も加わり前線に迫っていたすべての魔物を片付けると、アンジェロに乗ったニエがやってくる。

「リッツ様、これで終わりです」

「犠牲者は？」

　ニエは笑顔のまま首を横に振った。今度こそ本当に終わったようだ。

「ふぅ、師匠のおかげで助かりました」

「礼なら一緒に戦ったみんなに言わなきゃ。それに、あなたもよく頑張ってくれたわ」

　リヤンの下に戻ると顔に呪いは残っているが元気そうなウムトと黒い毛並みの神獣が側に座っていた。

「リヤン……この人たちはいったい？」

「兄さんを助けてくれたのよ」

「僕を？　……そうだ、身体は大丈夫なのか！？　すぐ薬を探しに――」

「兄さん、それならもう大丈夫。見て、病気は治ったの。この人たちのおかげでね」

「あれは治らないはずじゃ――ってその口調はどうしたんだ！　お兄ちゃんって呼んでたのに、急に大人ぶって……それに少し落ち着いたような、何があったんだ！？」

「あの頃からもう随分経ったのよ。私も兄さんも、ずーっと長い間眠ってたみたいに……これからゆっくり教えるわ」

　ウムトに話しかけるリヤンの姿は少し寂しそうにみえた。