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123話
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並べられる料理をみんなで取り分けていく。
これは俺が『紅蓮の風』で食事をしていたときの癖だが、ギルバートさんはそれを使用人との食事会をする際に取り入れた。
初めはみんなも困惑していたが「小さくとも日頃の感謝を知るいい機会だ」と、非公式の場限定だがやり始め、それが今では俺がきたときの定例のようになっていた。
「ティーナ、最近ユリウスを見掛けないけど元気にしてる?」
「修行のために数日あけると言っておりました。なんでも、以前見たリッツさんの鍛錬からずっと何か考え事をなさっていたと」
担当はウェッジさんだから無茶はしていないはず……きっと無事だろう。
「心配なら俺が見てくるから遠慮なくいってくれ」
「いえ、ユリウス様が必死に強くなろうとしているのはわかっております。なので私は信じて待つ、それだけです」
ティーナも随分と成長したようだな。これならユリウスも安心して――。
「お嬢様、何をおっしゃいますか」
「あ、エレナさん」
「ユリウス様は、荷馬車から荷物を降ろそうとしたところをお嬢様に助けられたのです。そして皮肉にもお嬢様はユリウス様に力の差を見せつけてしまい――」
「だ、だってあれはユリウス様がふらふらして危なかったからッ!」
「……ティーナ、まさか何かやってる?」
「えっ、リッツ様を手助けするため鍛錬をしてるくらいで別に何も……」
ティーナが首をひねりながら応えるとエレナさんが俺をみた。
「お嬢様は、リッツさんがユリウス様に教えていたことを真似して覚えたんです。それからというものお転婆に拍車がかかってしまい……さすがの私もそろそろ手に負えなくなりそうです」
「エレナがいったんでしょ!? それくらいやらなきゃいざというとき足手まといになるって!」
「まさか実行に移すとは思ってもおりませんでしたので」
「こ、こりゃあユリウスも大変だなぁ」
恐るべし才能とでもいうべきだろうか……。
談笑し一通り料理を食べ終えるとエレナさんはキャレットさんを連れてみんなの前に出た。
「皆様、それでは評価のほうをお願いします」
「料理は問題ない、足りない部分もちゃんと気づいている。配膳も偏りがないし合格だ」
「こちらも問題ありません~。器にゴミはありませんでしたし、空いた食器の交換もスムーズでした。なんなら私たちよりも完璧かもしれませんね~」
「ギルバート様、メリシャ様、何か気になった点などは?」
「美味しく楽しい食事をすることができたよ。ありがとう」
ギルバートさんが応えるとエレナさんとキャレットさんは一礼した。
「さて、最後に私からです。リッツさん」
「はい?」
「キャレットさんは家事だけでなく、使用人として一番大事なルールを守ることができていました。試験は合格、あとはあなたの判断です」
「え、俺も別に問題はないから合格でいいんだけど……。なんかあったっけ?」
「あなたにとって一番重要なことです。使用人は雇用主の情報を漏らさない、これが徹底してるかどうか」
そういえば……ハリスのときも余計な詮索はしないことを第一条件にしたんだった。
「ギルバート様の推薦という要素も含めれば間違いはないかと。最終的な判断はリッツさんが決めることですが」
「それなら合格でいいよ。ニエも問題ないよな?」
「はい、お料理も美味しかったし今度教えてもらおうと思います!」
「よし! ということでキャレットさん。実は雇用主って俺なんですけど大丈夫ですか?」
「あの……私には問題があります」
「問題?」
「お話をお聞きした限り、あなた様には秘密が多い。しかし、私は御覧の通り図体でかく、何度か街にいけばすぐに目立ってしまう。そうすれば雇い主であるあなた様が特定されてしまうのも時間の問題でしょう」
「ああ、それだったら大丈夫です。街ではもう十分目立ってるので」
俺は聖人扱いされてることを説明した。
ギルバートさんもところどころ補填して話を繋いでくれたため、有名だが貴族には目を付けられたくないという俺の意向を、キャレットさんはすぐに理解してくれた。
「なるほど……。もう一点よろしいでしょうか」
「なんでしょう?」
「有名ということは恨みを持つ者も少なからずいるはずです。そこで、私の身にもしものことがあった場合はどうなりますか?」
「そんなことをする奴が現れたら大変なことになりますね。どのくらいかっていうと――そうだな、この国を敵に回すことになると思ってもらえばいいかと」
「……色々と規格外のようですね」
キャレットさんはなぜか観念したように肩を落とすとギルバートさんが笑った。
「はっはっはっは! だからいっただろう、今度は大丈夫だと!」
「まったく賑やかな職場になりそうです。これからよろしくお願い致しますね」
キャレットさんはかなり腕が良いみたいだしこれでハリスの負担も減らせるだろう。
屋敷に戻ったら色々と知ってもらうことも多いが、とにかく無事に使用人が見つかってよかった!
これは俺が『紅蓮の風』で食事をしていたときの癖だが、ギルバートさんはそれを使用人との食事会をする際に取り入れた。
初めはみんなも困惑していたが「小さくとも日頃の感謝を知るいい機会だ」と、非公式の場限定だがやり始め、それが今では俺がきたときの定例のようになっていた。
「ティーナ、最近ユリウスを見掛けないけど元気にしてる?」
「修行のために数日あけると言っておりました。なんでも、以前見たリッツさんの鍛錬からずっと何か考え事をなさっていたと」
担当はウェッジさんだから無茶はしていないはず……きっと無事だろう。
「心配なら俺が見てくるから遠慮なくいってくれ」
「いえ、ユリウス様が必死に強くなろうとしているのはわかっております。なので私は信じて待つ、それだけです」
ティーナも随分と成長したようだな。これならユリウスも安心して――。
「お嬢様、何をおっしゃいますか」
「あ、エレナさん」
「ユリウス様は、荷馬車から荷物を降ろそうとしたところをお嬢様に助けられたのです。そして皮肉にもお嬢様はユリウス様に力の差を見せつけてしまい――」
「だ、だってあれはユリウス様がふらふらして危なかったからッ!」
「……ティーナ、まさか何かやってる?」
「えっ、リッツ様を手助けするため鍛錬をしてるくらいで別に何も……」
ティーナが首をひねりながら応えるとエレナさんが俺をみた。
「お嬢様は、リッツさんがユリウス様に教えていたことを真似して覚えたんです。それからというものお転婆に拍車がかかってしまい……さすがの私もそろそろ手に負えなくなりそうです」
「エレナがいったんでしょ!? それくらいやらなきゃいざというとき足手まといになるって!」
「まさか実行に移すとは思ってもおりませんでしたので」
「こ、こりゃあユリウスも大変だなぁ」
恐るべし才能とでもいうべきだろうか……。
談笑し一通り料理を食べ終えるとエレナさんはキャレットさんを連れてみんなの前に出た。
「皆様、それでは評価のほうをお願いします」
「料理は問題ない、足りない部分もちゃんと気づいている。配膳も偏りがないし合格だ」
「こちらも問題ありません~。器にゴミはありませんでしたし、空いた食器の交換もスムーズでした。なんなら私たちよりも完璧かもしれませんね~」
「ギルバート様、メリシャ様、何か気になった点などは?」
「美味しく楽しい食事をすることができたよ。ありがとう」
ギルバートさんが応えるとエレナさんとキャレットさんは一礼した。
「さて、最後に私からです。リッツさん」
「はい?」
「キャレットさんは家事だけでなく、使用人として一番大事なルールを守ることができていました。試験は合格、あとはあなたの判断です」
「え、俺も別に問題はないから合格でいいんだけど……。なんかあったっけ?」
「あなたにとって一番重要なことです。使用人は雇用主の情報を漏らさない、これが徹底してるかどうか」
そういえば……ハリスのときも余計な詮索はしないことを第一条件にしたんだった。
「ギルバート様の推薦という要素も含めれば間違いはないかと。最終的な判断はリッツさんが決めることですが」
「それなら合格でいいよ。ニエも問題ないよな?」
「はい、お料理も美味しかったし今度教えてもらおうと思います!」
「よし! ということでキャレットさん。実は雇用主って俺なんですけど大丈夫ですか?」
「あの……私には問題があります」
「問題?」
「お話をお聞きした限り、あなた様には秘密が多い。しかし、私は御覧の通り図体でかく、何度か街にいけばすぐに目立ってしまう。そうすれば雇い主であるあなた様が特定されてしまうのも時間の問題でしょう」
「ああ、それだったら大丈夫です。街ではもう十分目立ってるので」
俺は聖人扱いされてることを説明した。
ギルバートさんもところどころ補填して話を繋いでくれたため、有名だが貴族には目を付けられたくないという俺の意向を、キャレットさんはすぐに理解してくれた。
「なるほど……。もう一点よろしいでしょうか」
「なんでしょう?」
「有名ということは恨みを持つ者も少なからずいるはずです。そこで、私の身にもしものことがあった場合はどうなりますか?」
「そんなことをする奴が現れたら大変なことになりますね。どのくらいかっていうと――そうだな、この国を敵に回すことになると思ってもらえばいいかと」
「……色々と規格外のようですね」
キャレットさんはなぜか観念したように肩を落とすとギルバートさんが笑った。
「はっはっはっは! だからいっただろう、今度は大丈夫だと!」
「まったく賑やかな職場になりそうです。これからよろしくお願い致しますね」
キャレットさんはかなり腕が良いみたいだしこれでハリスの負担も減らせるだろう。
屋敷に戻ったら色々と知ってもらうことも多いが、とにかく無事に使用人が見つかってよかった!
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