異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
34 / 158
学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~

57

しおりを挟む


「で、結局何で私を呼んだの貴方」


そういえばなんで話がしたい、なんて言われたんだろう。接点なんて本当にないのに。
王子殿下付きの執事さんに紅茶を入れ直してもらい、私はそれを飲みながら聞く。

カーク王子殿下はふう、とため息をついた。
そんな姿も絵になるんですね、本当に王家の血ってイケメンを排出する何か呪いでもあるのかしら。


「一度きちんと話をしてみたかったんだよ」

「私と?」

「俺の周りはいつも『お嬢様』な女性しかいない。美しく笑うその裏で何を考えているのかわからない。だからアリシアやお前と話してみたくなるんだ。・・・アリシアは俺を『王子殿下』と呼ぶが、ちゃんと目を見て話してくれる。自分が嫌だと思うことは嫌だと言う。いつでも『殿下のお好きなように』と言われるのは辛いんだぜ?」


それは王族であるが故の悩みなのだろう。
でもそれがなんだと言うのだろう。それだけのものを彼は皆から貰っているというのに。

自分を自分として見て欲しい。その気持ちはわからなくもない。でもそれは、彼が『彼の役目』を果たす方が先なのでは?


「ふうん」

「・・・それだけかよ」

「ではアリシアさんとお好きなように話をしてはいかがですか、殿下」

「っ、お前、」


わざと彼の周りにいる『お嬢様』のように告げる。
それは彼にもすぐにわかったようで、私に対して苛立ちを隠すことはなかった。

せめてシリス殿下くらい、王国の為に尽くしている姿を見れたなら、私も彼に優しくできるかもしれないけど。
私には彼はまだ『甘やかされたお坊ちゃま』に見えて仕方がない。


「それだけなら私はお暇申し上げてもよろしいですか?」

「・・・ああ、手間を取らせて悪かった。下がって構わない。クロード、彼女を下へ案内してくれ」


お互いに『他人行儀』な態度になる。
私は席を立ちながら、エドに対したものと同じ問いを放つ。


「カーク王子、貴方、エドワード・サヴァンとは知り合いかしら」

「エドワード?彼は私の側近候補の1人だが」

「そうですか。では『高貴なる者に伴う義務ノブレス・オブリージュ』という言葉について聞いてみてはどうですか?」

「・・・なんだ、それは」

「カーク王子、貴方がその言葉について答えを持っているのなら、もう一度私とお茶をしましょう」

「お前と、茶だと?」


はん、と鼻で笑う。そんな彼に構わず私は言葉を繋げる。


「その時、先程の貴方の問いかけに私の答えをお返しします。きっとどうして私が『他人行儀』になったのかお分かりいただけると思いますから」


彼の言葉は待たない。
どんな表情をしているのかさえ見ない。
彼がエドに話を聞くかどうかすらわからない。
…きっとシリス殿下ならば彼なりの答えを返してくれるんだろうな、なんて思いながら私はカフェを後にした。





********************





期待していた。
そう、俺は彼女に期待していたんだ。

異世界から来た女性。父上から聞いてから、あの日夜会の後、 父上と踊る彼女を見てからずっと。

俺の周りにいる『女』達とは違う物が見られるんじゃないかと思った。アリシアも俺の周りにいる『女』達とは少し違う。身分差があるから壁を感じるのは仕方がないが、アリシアはきちんと自分の考えを聞かせてくれる。俺にはそれが心地いい。

あの女、コズエ・ヤマグチもそうだった。俺を『王子』という肩書きだけで見ていないような気がして。
だから話をしてみたかった。自分が『自分』でいられるような気がしていた。

だが、あいつから感じたのは拒絶。
空いていた窓がピシャリと閉められた、そんな気がした。

数日後、エドワードと話す機会が持てた。
学園の貴族専用カフェの一室。


「悪いな、来てもらって」

「いんや、別に構わねえさ。珍しいな、カーク殿下がオリヴァーを連れず俺だけを呼ぶなんざ」

「ちょっと聞きたい話があってだな」


芸術祭があるから学園内がザワザワしているが、ここのカフェは静かだ。準備で人が教室の方に集中しているからともいえるが。

俺は躊躇したが、とりあえずコズエに言われたと言う事を伏せて、エドワードに『高貴なる者に伴う義務ノブレス・オブリージュ』という言葉に聞き覚えはあるかと聞いた。
エドワードは口に運んでいた珈琲カップをぴたり、と止めて俺を見た。目には真剣な色が灯る。


「カーク王子、それを聞かれたんだ?」

「誰に、と言うかだな」

「・・・なるほどな。それでカーク王子はコズエにその答えを返せたのか?」


誰に、とはっきり言えなかったが、エドワードはあっさりあの女の名前を出した。言葉に詰まる俺に、エドワードは同情するぜ、と苦笑する。


「俺もな、答えなんか返せなかったんだ。参るよな、あんな質問不意打ちもいい所だろ」

「済まない、エドワード。俺はその言葉の意味も教えてもらってねえんだ。お前に聞いてみろ、答えがあるのなら聞かせてくれって言われてな」

「はあ!? ・・・おいおいカーク王子あんたコズエに何言ったんだ?そこまで怒らせたのか?」


いやこの場合呆れさせた、か?とエドワードは呟く。
呆れた、だって?俺は喧嘩を売られたのかと思ったが。

そしてエドワードはコズエの言う『言葉』について、エドワードとコズエの会話の内容を聞いた。それは、俺も思いもよらなかった内容で。


「俺達貴族がどれだけ『持てる者』として『持たざる者』へと還元できているのか聞かれて、何も言えなかったよ、俺はな」

「それは・・・俺達だってまだ力の足りない子供だろうが」

「と、俺も思ったさ。でもよ、この事を帰って親父殿に言ってみた訳だ。もちろんコズエに言われたなんて言ってねえぞ?そしたら何て言われたと思う?
・・・『ようやく貴族としての自覚に芽生えたか?』と来たもんだ。参ったぜ本当に」

「っ!」

「親父殿に言わせると、兄上達もまだまだその域に達しないだそうだ。お前は気付いただけマシな様だなと言われたよ。俺は気付いたんじゃなくて『気付かされた』んだがな」

「そんな、お前がそうなら俺はどうなる!?
王国の王子である俺は・・・それ以下かよ・・・」


お互い頑張ろうぜ、とエドワード。
俺はどうやって城まで戻ったのか記憶にないくらいだ。
部屋で呆然としていれば、扉を叩く音。返事をすると入ってきたのは兄上だった。


「あ、兄上!?どうしました」

「どうかしたのかい、カーク?侍女達がお前が元気がないと言っていたから少し顔を見に来たんだが」

「っ、そ、そうですか」


何を言われても上の空だったんだろう。
そこで父上や母上に言わず兄上に言うあたりが察しの良いというかなんというか。

俺はぽつりぽつりと兄上に全て話した。コズエに言われたという事は隠して。もしかしたら兄上には隠しても意味が無いかもしれないが。


「また手厳しいものだね」

「いえ、俺が、不甲斐ないのです」

「確かに、そろそろカークも『王族として』この国に何ができるのかを考え始めてもいいと思うよ。私は次期王太子として責任を負う覚悟をしたのも君くらいの歳の頃だったし」

「そう、なのですか」

「ああ。私の時はゼクスレン殿からだったなぁ。もっと分かりにくくキツい言い方だったよ?『貴方はこの国をどうなさるおつもりか?』とね。国の未来さきを見据え、何ができるのか考えなされ、ってね。父上は隣で黙って私を見るだけだったし。・・・今思えば、父上もきっとゼクスレン殿に同じ問いをされたのだと思うよ」

「なぜ、そんな事を?」

「カーク、君も知っているだろう?ゼクスレン殿は本来国王陛下となる方だった。けれど、自分が国を導くよりももっとこの国の為になる方法を選んだ」

「それが、王権委譲だと?」


兄上は、こう言った。

国王であってもできない事はある。国王は常に光の道を歩かねばならない。しかし国を照らせば照らすほど深い闇ができる。それはどうしようもない事だと。


「『ならば我等がその闇を祓う剣となろう。愛する国を護れるならばタロットワークの全てで支えよう』・・・そう言ってゼクスレン殿の父上、ジェムナス陛下はお爺様に御代を譲られた。その時、影となる事ができる貴族は他にいなかったとされている」

「何故、それは他の貴族達は知らないのですか?」

「皆、そうすることができなかった自分達を恥じたんだよ、カーク。考えてごらん。自分達が戴いていた王自らが国の礎となるべく臣下へと下ったんだ。彼等は・・・いや、私達はを支える事ができなかったんだから」


その通りだ。自分達の護るべき王が、自分達を護るべくその身を投げ打ったのだから。だから貴族達は口を噤んだ。敬愛すべき王がそうしたのならば、自分達もまたそうあらねばならないのだから。

コズエが気分を害したのがわかった。彼女もまた、異世界から来たとはいえ、『タロットワーク一族』と似た考えを持つのだろう。
何も成せていない俺が、何を甘えた事を言っているのかと思った事だろう。

俺はきちんと答えを返さないとならない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...