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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む「で、結局何で私を呼んだの貴方」
そういえばなんで話がしたい、なんて言われたんだろう。接点なんて本当にないのに。
王子殿下付きの執事さんに紅茶を入れ直してもらい、私はそれを飲みながら聞く。
カーク王子殿下はふう、とため息をついた。
そんな姿も絵になるんですね、本当に王家の血ってイケメンを排出する何か呪いでもあるのかしら。
「一度きちんと話をしてみたかったんだよ」
「私と?」
「俺の周りはいつも『お嬢様』な女性しかいない。美しく笑うその裏で何を考えているのかわからない。だからアリシアやお前と話してみたくなるんだ。・・・アリシアは俺を『王子殿下』と呼ぶが、ちゃんと目を見て話してくれる。自分が嫌だと思うことは嫌だと言う。いつでも『殿下のお好きなように』と言われるのは辛いんだぜ?」
それは王族であるが故の悩みなのだろう。
でもそれがなんだと言うのだろう。それだけのものを彼は皆から貰っているというのに。
自分を自分として見て欲しい。その気持ちはわからなくもない。でもそれは、彼が『彼の役目』を果たす方が先なのでは?
「ふうん」
「・・・それだけかよ」
「ではアリシアさんとお好きなように話をしてはいかがですか、殿下」
「っ、お前、」
わざと彼の周りにいる『お嬢様』のように告げる。
それは彼にもすぐにわかったようで、私に対して苛立ちを隠すことはなかった。
せめてシリス殿下くらい、王国の為に尽くしている姿を見れたなら、私も彼に優しくできるかもしれないけど。
私には彼はまだ『甘やかされたお坊ちゃま』に見えて仕方がない。
「それだけなら私はお暇申し上げてもよろしいですか?」
「・・・ああ、手間を取らせて悪かった。下がって構わない。クロード、彼女を下へ案内してくれ」
お互いに『他人行儀』な態度になる。
私は席を立ちながら、エドに対したものと同じ問いを放つ。
「カーク王子、貴方、エドワード・サヴァンとは知り合いかしら」
「エドワード?彼は私の側近候補の1人だが」
「そうですか。では『高貴なる者に伴う義務』という言葉について聞いてみてはどうですか?」
「・・・なんだ、それは」
「カーク王子、貴方がその言葉について答えを持っているのなら、もう一度私とお茶をしましょう」
「お前と、茶だと?」
はん、と鼻で笑う。そんな彼に構わず私は言葉を繋げる。
「その時、先程の貴方の問いかけに私の答えをお返しします。きっとどうして私が『他人行儀』になったのかお分かりいただけると思いますから」
彼の言葉は待たない。
どんな表情をしているのかさえ見ない。
彼がエドに話を聞くかどうかすらわからない。
…きっとシリス殿下ならば彼なりの答えを返してくれるんだろうな、なんて思いながら私はカフェを後にした。
********************
期待していた。
そう、俺は彼女に期待していたんだ。
異世界から来た女性。父上から聞いてから、あの日夜会の後、 父上と踊る彼女を見てからずっと。
俺の周りにいる『女』達とは違う物が見られるんじゃないかと思った。アリシアも俺の周りにいる『女』達とは少し違う。身分差があるから壁を感じるのは仕方がないが、アリシアはきちんと自分の考えを聞かせてくれる。俺にはそれが心地いい。
あの女、コズエ・ヤマグチもそうだった。俺を『王子』という肩書きだけで見ていないような気がして。
だから話をしてみたかった。自分が『自分』でいられるような気がしていた。
だが、あいつから感じたのは拒絶。
空いていた窓がピシャリと閉められた、そんな気がした。
数日後、エドワードと話す機会が持てた。
学園の貴族専用カフェの一室。
「悪いな、来てもらって」
「いんや、別に構わねえさ。珍しいな、カーク殿下がオリヴァーを連れず俺だけを呼ぶなんざ」
「ちょっと聞きたい話があってだな」
芸術祭があるから学園内がザワザワしているが、ここのカフェは静かだ。準備で人が教室の方に集中しているからともいえるが。
俺は躊躇したが、とりあえずコズエに言われたと言う事を伏せて、エドワードに『高貴なる者に伴う義務』という言葉に聞き覚えはあるかと聞いた。
エドワードは口に運んでいた珈琲カップをぴたり、と止めて俺を見た。目には真剣な色が灯る。
「カーク王子、それを誰に聞かれたんだ?」
「誰に、と言うかだな」
「・・・なるほどな。それでカーク王子はコズエにその答えを返せたのか?」
誰に、とはっきり言えなかったが、エドワードはあっさりあの女の名前を出した。言葉に詰まる俺に、エドワードは同情するぜ、と苦笑する。
「俺もな、答えなんか返せなかったんだ。参るよな、あんな質問不意打ちもいい所だろ」
「済まない、エドワード。俺はその言葉の意味も教えてもらってねえんだ。お前に聞いてみろ、答えがあるのなら聞かせてくれって言われてな」
「はあ!? ・・・おいおいカーク王子あんたコズエに何言ったんだ?そこまで怒らせたのか?」
いやこの場合呆れさせた、か?とエドワードは呟く。
呆れた、だって?俺は喧嘩を売られたのかと思ったが。
そしてエドワードはコズエの言う『言葉』について、エドワードとコズエの会話の内容を聞いた。それは、俺も思いもよらなかった内容で。
「俺達貴族がどれだけ『持てる者』として『持たざる者』へと還元できているのか聞かれて、何も言えなかったよ、俺はな」
「それは・・・俺達だってまだ力の足りない子供だろうが」
「と、俺も思ったさ。でもよ、この事を帰って親父殿に言ってみた訳だ。もちろんコズエに言われたなんて言ってねえぞ?そしたら何て言われたと思う?
・・・『ようやく貴族としての自覚に芽生えたか?』と来たもんだ。参ったぜ本当に」
「っ!」
「親父殿に言わせると、兄上達もまだまだその域に達しないだそうだ。お前は気付いただけマシな様だなと言われたよ。俺は気付いたんじゃなくて『気付かされた』んだがな」
「そんな、お前がそうなら俺はどうなる!?
王国の王子である俺は・・・それ以下かよ・・・」
お互い頑張ろうぜ、とエドワード。
俺はどうやって城まで戻ったのか記憶にないくらいだ。
部屋で呆然としていれば、扉を叩く音。返事をすると入ってきたのは兄上だった。
「あ、兄上!?どうしました」
「どうかしたのかい、カーク?侍女達がお前が元気がないと言っていたから少し顔を見に来たんだが」
「っ、そ、そうですか」
何を言われても上の空だったんだろう。
そこで父上や母上に言わず兄上に言うあたりが察しの良いというかなんというか。
俺はぽつりぽつりと兄上に全て話した。コズエに言われたという事は隠して。もしかしたら兄上には隠しても意味が無いかもしれないが。
「また手厳しいものだね」
「いえ、俺が、不甲斐ないのです」
「確かに、そろそろカークも『王族として』この国に何ができるのかを考え始めてもいいと思うよ。私は次期王太子として責任を負う覚悟をしたのも君くらいの歳の頃だったし」
「そう、なのですか」
「ああ。私の時はゼクスレン殿からだったなぁ。もっと分かりにくくキツい言い方だったよ?『貴方はこの国をどうなさるおつもりか?』とね。国の未来を見据え、何ができるのか考えなされ、ってね。父上は隣で黙って私を見るだけだったし。・・・今思えば、父上もきっとゼクスレン殿に同じ問いをされたのだと思うよ」
「なぜ、そんな事を?」
「カーク、君も知っているだろう?ゼクスレン殿は本来国王陛下となる方だった。けれど、自分が国を導くよりももっとこの国の為になる方法を選んだ」
「それが、王権委譲だと?」
兄上は、こう言った。
国王であってもできない事はある。国王は常に光の道を歩かねばならない。しかし国を照らせば照らすほど深い闇ができる。それはどうしようもない事だと。
「『ならば我等がその闇を祓う剣となろう。愛する国を護れるならばタロットワークの全てで支えよう』・・・そう言ってゼクスレン殿の父上、ジェムナス陛下はお爺様に御代を譲られた。その時、影となる事ができる貴族は他にいなかったとされている」
「何故、それは他の貴族達は知らないのですか?」
「皆、そうすることができなかった自分達を恥じたんだよ、カーク。考えてごらん。自分達が戴いていた王自らが国の礎となるべく臣下へと下ったんだ。彼等は・・・いや、私達は私達の王を支える事ができなかったんだから」
その通りだ。自分達の護るべき王が、自分達を護るべくその身を投げ打ったのだから。だから貴族達は口を噤んだ。敬愛すべき王がそうしたのならば、自分達もまたそうあらねばならないのだから。
コズエが気分を害したのがわかった。彼女もまた、異世界から来たとはいえ、『タロットワーク一族』と似た考えを持つのだろう。
何も成せていない俺が、何を甘えた事を言っているのかと思った事だろう。
俺はきちんと答えを返さないとならない。
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