異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~春季休暇~

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さて、そろそろお暇しようかな、と思って私が立ち上がると、アナスタシアさんが反応した。こちらへ来てくれたので、そろそろ帰りたい話をすると、馬車を呼んでくれようとした。


「なら俺が送りますよ。行きは団長だったんですよね?」

「え?あ、はい」
「・・・ふむ。姫に手を出したらどうなるかわかっているな、カイナス」

「心得ております」


どうやら帰りはカイナス副官が送ってくれるらしい。
行きは団長さん、帰りは副官…豪華だな…

団長さんの愛馬ほどではないけれど、カイナス副官の馬も綺麗な馬だった。

ふと振り返ると、カイナス副官はアナスタシアさんと話をしていた。なんだろ?




********************




「カイナス、待て」


団長とアナスタシア様のお客様を送っていこうとすると、アナスタシア様から声をかけられた。
振り返るとアナスタシア様は厳しい顔をされ、俺を手招く。

俺はあんな少女に手を出す男だと思われているのだろうか。確かに彼女からは『素敵』と言われて嬉しくない訳がない。俺も男だからな。少女とはいえ女性から褒められて嬉しくない男はいないだろ。


「カイナス、姫はお前の事を気に入ったようだが、がないならば手を出すな」

「アナスタシア様、流石に俺もあそこまで年下の少女に手を出すほど落ちぶれてはいませんよ」

「ならば良いが。彼女は私の大切な人だ。丁重に扱ってほしい。怪我のないように送り届けてくれ」

「了解しました」


馬に乗り、彼女を背に乗せる。しっかり捕まって、と腰に手を回させて一路タロットワーク家の別邸へ。
場所は知っているから問題ない。

あまり飛ばすのも気が引ける。軽く駆け足で走り、屋敷まであと少しとなった時に速度を落とし、声をかけることにした。


「大丈夫かい?」

「はい、行きも馬に乗せてもらいましたし。結構楽しいですよ」

「なら良かった。時間があったらまた訓練を見に来るといい。皆も張り切るし、アナスタシア様も待っていると思う」

「そうですね、アナスタシアさんとはもう一回ちゃんと話さないといけないでしょうし」


そういえば、アナスタシア様と何か話をしていたな。ふと見た時にアナスタシア様が彼女に跪いていたから驚いた。
タロットワーク家預かりとなっているとは聞いたが、彼女は一体どういう身の上なんだろうか。
立ち入る気はないが、今後どんな形で関わるかわからないから聞いておける部分は聞いておこうか。


「・・・もし、何か力になれる事があれば言ってくれて構わないから。遠慮なく言ってくれていいよ」

「どうしたんですか?いきなりですね」

「いや、団長やアナスタシア様が君を気にかけていたから、そうなると副官である俺にも関わりがあるかもしれないからね」

「あー、まあ、そうですね。考えておきます」


考えておきます、と来たか。団長もちょっとボヤいてたけど、彼女は警戒心が強いみたいだな。

屋敷へ付くと、前もってわかっていたかのように執事が出てきた。どうもありがとうございました、と彼女が礼をして中へと入ると、執事もまた俺に対して礼をする。


「当家のお客様をお送りいただきありがとうございます。アナスタシア様によろしくお伝えください」

「了解しました。・・・あの、俺が送ることを連絡でも来ていましたか?」

「いえ、そういう事はありませんが。何故でしょうか」

「それにしては凄いタイミングで迎えに出てきたと思いまして」


すると、にこりと執事は微笑んだ。しかし目は俺をひたと見据えたまま、何か確かめるかのよう。


「それができないようでは、タロットワークの家令は勤まりませんので」

「っ、そう、ですか」

「あの方の事を知りたければ、アナスタシア様の許可をいただいてください。そうでないのなら、関わりを避けた方が貴方の為となるでしょう。には知らなくて良い事です」


それでは、と優雅に一礼をして邸内へと下がった。
言外に『関わるな』と言われているような気がする。

もやもやとしながらも近衛騎士団施設へ帰ると、団長の執務室へ報告へ上がる。
部屋に入ると団長とアナスタシア様のお二人が揃っていた。


「おお、帰ったか」

「は、シオン・カイナス、戻りました。お嬢さんはお屋敷へ送り届けましたので」

「おー、そうかそうかご苦労さん。戻っていいぞシオン」
「ご苦労だったな」

「はい。・・・あの、アナスタシア様。彼女は一体どういう方なのですか」

「・・・何故、姫の事を聞く?」

「今後、近衛騎士団副官として聞いておくべき事だと判断しているからです。団長並びにアナスタシア様と深い関わりがあるのであれば、公私問わず関わる事もあるのであれば知るべきかと」

「タロットワーク別邸へ送っていったのならば、執事に言われなかったか?『一介の騎士』には荷が重いと」

「っ、何故、それを」


俺は驚いてアナスタシア様を見る。すると当たったな、とでも言うようにニヤリと笑った。


「やはりか、流石に目が利くな、セバスチャン」
「あの執事怖いよな、流石元暗部の長」

「なっ!?」

「フリードリヒ、口が過ぎる」

「悪い悪い。いやー、一度手合わせしてもらいたいもんだ。あのスキのなさ、ありゃ未だに現役に近いと思うぜ」

「当たり前だろう、兄上の警護はセバスチャンの役目。元当主とはいっても、今でも中心は兄上なのだからな。今はあの屋敷に姫もいるのだ、万が一が起こるはずもない。
私に周辺地域への移動任務がなければ、姫は私が預かるはずだったのだ」

「時期が悪かったよなぁ、数年後なら落ち着いてたはずなんだけどな」

「私が別邸へと行ってもいいのだがな」

「おいおい俺は置き去りな訳?」

「お前はダメだ。いざという時に姫を選べないなら護衛としては相応しくないだろう?近衛騎士団団長ならば、いざという時に国を護る事を選ばなければならないお前にはな」

「まーな、そりゃそうだ」

「そしてカイナス、同じ理由でお前も姫の側にいるのは相応しくない。故に詳しい事は教えられない。知らずにいた方が良かろう」

「そこまで、ですか」


ごくり、と喉が鳴る。
単なる学生の少女、だと思っていたが、かなりの重要人物なんじゃないか!?
団長まで『相応しくない』と言い切るアナスタシア様の迫力にそれ以上聞くことができなくなる。


「カイナス、今後近衛騎士の任務において姫が参加する事もあるかもしれない。その時は全力で護ってやって欲しい」

「は・・・」

「姫に関わる事を望むなら、を決めてこい。中途半端に手を出すのは許さない。それが『タロットワーク一族』に関わるという事だ。いいな」


アナスタシア様はそう言うと、先に戻ると言って部屋を出ていく。俺はその背中に向かって頭を下げ続けながらも答えが出ないままだった。

ポン、と肩が叩かれる。
頭を上げると、団長がニヤニヤ笑っていた。


「なんだなんだシオン、お嬢に惚れたか?」

「勘弁してくださいよ、団長。俺と彼女が幾つ離れていると思っているんですか!」

「17くらいか?まあ問題ないだろ?貴族連中にはもっと歳が離れた夫妻もいるんだから」

「あのですねえ・・・」


団長はいつもこうやって色恋沙汰に関して俺をからかってくる。30過ぎても独り身な俺を心配しているのはありがたいが、対処に困る…


「いいじゃねえか、いつもの困った貴族令嬢やマダムよりかはずっといいだろ?それにあっさり落ちないぞ、お嬢は。お前が本気になっても落とせるか疑問だな」

「なんですかそれ」

「あの第一王子の想い人、だそうだぞ?最もお嬢は全く眼中にないみたいだが」

「はあ!?第一王子!?」


これは驚いた。タロットワークの加護のあるお嬢さん、だけでも驚く話なのに、まさか第一王子の想い人だなんて。

貴族の姫君達の中にはもっと美しく魅力的な人もいるだろう。言っちゃ悪いが彼女の容姿は普通、だろう。


「ま、それは冗談としてだ。お嬢の事は関わらないでおけ。近衛騎士である俺達には荷が重い。
前王家であるタロットワーク家へ忠誠を誓うのは元暗部達だけで足りる。俺達はアルゼイド王家を守らなければならん。
アナスタシアが俺を除外するのはその理由からだ。
平時であれば構わんが、いざという時に動けないようでは近衛騎士の名が泣く」

「身に染みております」


そう、俺達近衛騎士は王家を護る剣。
それに揺らぐ事はあってはならない。

気にならない訳ではないが、今はそれでいい。

俺は迷いを振り切り、この件は胸にしまうことにした。
またいつか、彼女と会う事があれば、その時にまた自身に問いかけてみることにしよう。

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