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秋
くもりのち
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それから一週間、二週間と経てば文化祭の準備は本格化していき藍は放課後の図書室に姿を見せなくなっていた。といっても朝は一緒に登校しているし、琴音さんが忙しい日は家へご飯を食べに来る。変わらない毎日を過ごしている。それでも変わったことといえば。
「あのさー、クオンってあんなに愛想良かったっけ?」
「なに、突然」
「借りてたロミジュリ返却でーす」と、放課後図書室に現れたのは平澤さんだった。
「なんかさ、今までは女子の誘いとか全部断って、返事も超素っ気ない感じだったけど、なんか優しくなった?表情が豊かになった?穏やかになった?みたいな!」
はっきりとしない表現に首を傾けると、「伝わらないかー!」と言って平澤さんは少し考え込む。
「女子達の間でね、恋人ができたんじゃないかとか逆にフリーだから皆に愛想良くしてるんじゃないかとか噂になってるけど、クオンが話聞いてくれるってだけで推測されてる理由なんて関係無しにさ、私に気があるかも!って女子総出で落としにかかってる!まぁまっすぐな恋する乙女なリオンは部外者だけどね」
えへん、と謎に胸を張って説明を終えると本を返却BOXではなく書架まで戻しに行ってくれる。平澤さんを追いかけるように俺もカウンターから出て、BOXに置きっぱなしになっていた本数冊を手に取って書架に向かった。
「藍、俺がいないところでどんな感じなの?」
「んー普通っちゃ普通だけど、それが珍しいからねぇ。今衣装の採寸とかされてるけど嫌がらないし、台本の読み合わせとかも仕切ってやってくれるし、脇役抜擢男子達とふざけたりしてるしね」
今までの態度がツンケンしていただけあって、本当に普通といえば普通だけど、なんで変わったのか、変わろうとしたのかが引っかかる。それにずっと他人を近付けまいとしていた人が心を開いてくれたらきっとみんな……。
「おやおや、おや?手が進んでいませんねサクラちん。ねぇ気になるならクオン覗きに行ってみる?どうせ図書室もうすぐ閉める時間だし、買出し係今日出動無いから暇でしょ?」
やはり少し強引な誘いをしてくる平澤さんに、やはり断る理由が見つからない俺は言われるがままに教室へついて行った。
教室を半分に分けて後ろでは机をくっつけて女子を中心に裁縫や小道具の製作、前では脚本を片手にわちゃわちゃ話していてとても賑やかだった。
「平澤さんはなんの役割だっけ?」
「リオン?脚本補助!脚本担当のアヤカにいい案を囁く係だよ」
「そうなんだ」
そんな係あったか?まぁ平澤さんがそれで良いなら良いだろう。
「てか教室入らんの?」
「いや、なんか、場違いだし。こっそり様子見るだけでいいかも」
「そう?」
平澤さんに見上げられ、俺はこくりと頷いた。そもそも教室に入った所でやることも無いし邪魔になるだけだ。
『ねぇ久遠くん手大きいね』
『ん?そ?』
『うん。手出して』
ジュリエット役を勝ち取った、自分の容姿に自信があり少し気の強めな山田さんが久遠の手を取ってピッタリとくっつけた。
『ほら!さっき舞踏会のシーンやった時に大きいなって思ったんだよね』
あざとく指を絡めてぎゅっと握って笑う彼女に藍は少し笑っていた。教室の中はガヤガヤとしているのに藍とその周りの音がやけに鮮明に聞こえる。聞いてしまう。
『あー抜け駆けすんなし。藍くんさ、今日一緒に帰ろうよ』
『えー私も!私もいい?外もう暗いし』
『おーい女子?久遠取り合わなくても男子他にもいるよー』
『そーだそーだ!あ、久遠女子たち面倒くさかったら俺と帰ろうぜ?ラーメン奢る』
『うわ、私らに勝てないからって物で釣るとかサイテー!』
『うるせー!こうでもしないと勝てないだろうが。久遠いつも桜宮と一緒だからな~』
『それな?ぶっちゃけ桜宮くんと久遠くんってタイプ全然違うよね?一緒にいて大変じゃない?』
『確かにタイプは違うけどその聞き方は』
話が嫌な方に動いた。じっと扉の隙間から盗み聞きするように息を潜めていたが苦しくなって逃げるように教室を離れた。離れようとした。
「あれ?桜宮くん?まだ残ってたんだ!ちょうど良かった。ウチら裏方組もオリジナルTシャツ作って着ることになってさ。サイズ聞いても……桜宮くん?」
きっとお化けでも見てしまったかのような表情をしていたのだろう。それか家主に見つかった泥棒のようか。何はともあれ誰にも見つからないように退散する気でいたから声を掛けられたことに驚いて、声が出なかった。
「あ、いや、そう、なんだ。サイズ……サイズって何がある?」
「えっと、S、M、L、LL」
「詩はLだよ」
「へ?」
後ろから聞こえた声にまたしても変な所から声が出た。
「まだ帰ってなかったの?」
「今から帰るとこ」
「ふーん」
藍はつまらなそうに返事をする。
「藍は?まだ残る?帰るなら……」
「おーい久遠くん?まだぁ?」
「早くしないとスマホ勝手に見ちゃうけど」
教室から山田さんがひょっこりと顔を出し、奥から藍を煽る声が続いた。
「ごめん。アイツら煩いから先帰ってて」
「待って、見られたくないってことはカノジョの写真とか」
「彼女じゃねぇって」
藍は後ろを向いて大きな声を出して、また俺の方を向いて「こんな調子だし、巻き込まれたくないだろ?」
待ってるって言いたかったけど、どこか遠ざけるような、追い払うような言い方にすぐに帰るという選択肢しか残されていないようだった。
家に帰っても結局放課後の事で頭がいっぱいだった。藍があんなに簡単に女子に自分を触らせるなんて知らなかったし、俺の事を他人にどう説明するかなんて聞きたくなかったのに気になって仕方がない。結局俺は藍のことよりも周りの目を気にしているのだろうか。しっかり覚えてはいないがあのお調子者はサッカー部の奴だと思うけど、彼が言うように女子から藍を奪うにはラーメンのハンデが必要だし、俺なんかより可愛い女の子と一緒にいた方がしっくりくる事なんてわかっている。でも藍はいつだって俺を選んでくれるし優先してくれてた。だから今日、先に帰っててって言われたのが少し刺さって痛かった。こんなに繊細だったのかと嫌になる。縛られたいが縛りたいになっている事が嫌になる。
トントントン。
「なにー?」
「入るよ」
家族以外の聞きなれた声に枕に顔を埋め自己嫌悪に陥りつつあった俺は漫画のように飛び起きた。
「なんで来たの?」
制服のまま部屋に入ってきた藍に驚いてベッドから立ち上がって近づいた。
「帰る時、変な言い方したかもって気になってさ」
「……俺、顔に出てた?」
「なんとなく。そんな気がしただけだよ。いつから教室来てたの?」
いつものようにベッドに背中を預けて隣り合って座った。
「んー山田さんと手を繋いだところから。舞踏会って聞こえたけど結構そのまんまなの?」
「うん。仮面舞踏会に忍び込んでジュリエットと会って二人とも死ぬ大まかな流れは一緒なんだけど、ジュリエットのマインドがギャル」
「脚本ギャルが書いてるからね」
「脚本家の色が出過ぎてる」
「俺達裏方はTシャツだけど、藍は十四世紀の貴族衣装着るってこと?この前荷物持ちで近くの手芸用品店行ったよ」
「なんか衣装係は家でも作ってるらしいしそうなのかな。山田サン結構楽しみにしてるっぽい。メイクもするからそのままミスコン出るらしいよ」
「藍は家で台詞の練習とかしないの?」
「俺?しないけど……詩が相手してくれるなら」
藍がにやりと笑った。良くないことを考えてる時の顔だ。
「この前キスしたじゃん」
「あれは練習じゃなくて俺が詩にしたくてしたの。あ、そういえばダンス」
「ダンス?舞踏会の?」
「うん。あと、後夜祭のキャンプファイヤー」
後夜祭恒例の、文化祭で使った小道具や展示品等終わってしまえばゴミと化す木材や資材を燃やしながら大音量で音楽を流して踊る時間がある。去年は横目に見ながら帰ったけど、今年は大量に燃やすものが出てくるからすぐ帰る訳にも行かないし、きっと二年の部で注目の的になってしまうであろう藍は帰ることすら許されないだろう。
「踊んの?」
「なんか教えられた」
「それさ、あれでしょ。一緒に踊った男女が結ばれるってジンクスの」
「知ってんだ?」
「お前、去年も凄いことになってたじゃん」
「詩に振られたけど」
「はぁ?振ってない!踊りたくなかっただけ!……それにお前には相手も待ちも沢山いるけど、藍が居なくなったら俺ひとりになっちゃうし」
藍は俺を見て手を取って立ち上がる。引き上げられるようにして立ち上がると、片方の手が腰に回ってくる。
「今年は?俺と踊ってくれる?」
「……なんか、キャンプファイヤーで踊ったらさ、なんていうか藍の事好きな女子と一緒みたいでやだ」
「じゃあ今一緒に踊ってよ」
「え?は?」
ぐい、と腰を引き寄せられて繋いだ手が真っ直ぐ伸びる。
「俺がリードするから合わせるだけでいいよ」
タタタ、と素早くスマホを操作し小さく音楽が流れ始める。教室で盗み聞きしている時に聞こえてきた音と同じものだった。
三拍子で藍がステップを踏むとまるで操り人形のように体が動いた。体を沿わせるとぴったりと収まるような感覚がするのに、リズム感が無いお陰で足元だけがずっと覚束無い。
「まって、あい、ちょっと、はや、あごめ足踏んだ」
「ふ、ははは、必死すぎ」
「笑うなって、こっちは初めてなんだって、ここ狭いから、うわっ」
ローテーブルを避けようとして藍の足を踏んだと思ったらもう片方の足がカーペットとの段差に躓いて体重を藍に預けることしか出来ずそのまま二人してベッドに倒れ込んだ。
藍は繋いだ手を離さないし腰は抱かれたままだし、そのまま重なって沈んだからベッドからは聞いたことも無い音がした。
ダンスの時には合わなかった呼吸が、今ぴったりと重なっている。
「あのさ、皆藍のスマホ見たがってたけど何があんの?」
「今聞く?」
「今思い出したから」
「別に良いけど」
ベッドに放り投げられていた未だに緩やかな音楽を奏でている端末を藍は俺を上に乗せたまま手探り状態で探し出す。
「手退けてよ、重いでしょ」
「別に……あった」
暗くなっていた画面に明かりがつき、パスコードを解除すると映し出されたのは俺と藍のツーショットだった。
「スマホ弄ってたら俺の浴衣がチラッと見えたっぽくて、見せて欲しいって言われたからさ、好きな人も一緒に映ってるからヤダって言ったのってほらやっぱり逃げようとする。俺の上に乗せといて良かった」
行く手を阻まれついに両手で拘束された。恥ずかしいと嬉しいが同時に襲ってきて、恥ずかしいが勝った。
「詩はさ、いつも俺に気持ち伝えてくれるけど伝えられると逃げるよな」
「慣れてないから」
「慣れてよ詩」
「ムリ致死量」
「俺だって他の女子と一緒はヤダって言われた時からもう致死量超えてるけどね」
浴衣姿の写真の俺の魅力とやらをそのキラキラした王子様も勝てない顔で語られて頭がおかしくなりそうだった。
「まぁ詩に先帰っててって言ったのはこの写真を巡る攻防があったからで」
「別にさ、俺たち幼馴染だってみんな知ってる訳だし、見せても大丈夫じゃない?」
「ダメダメ。この詩は俺だけの詩だから誰にも見せたくないんだけど、俺はずっと見てたいワケ。だって俺に初めて好きって言ってくれたきねングッ」
「べ、べつに何回でも言うし」
俺に口を塞がれて可笑しそうに笑う藍を見て俺も笑う。
言葉はいつだって安心をくれる。藍が変わった事への納得がいってちゃんと伝わってるのが嬉しくてまた笑っては藍の隣に寝転がった。
「あのさー、クオンってあんなに愛想良かったっけ?」
「なに、突然」
「借りてたロミジュリ返却でーす」と、放課後図書室に現れたのは平澤さんだった。
「なんかさ、今までは女子の誘いとか全部断って、返事も超素っ気ない感じだったけど、なんか優しくなった?表情が豊かになった?穏やかになった?みたいな!」
はっきりとしない表現に首を傾けると、「伝わらないかー!」と言って平澤さんは少し考え込む。
「女子達の間でね、恋人ができたんじゃないかとか逆にフリーだから皆に愛想良くしてるんじゃないかとか噂になってるけど、クオンが話聞いてくれるってだけで推測されてる理由なんて関係無しにさ、私に気があるかも!って女子総出で落としにかかってる!まぁまっすぐな恋する乙女なリオンは部外者だけどね」
えへん、と謎に胸を張って説明を終えると本を返却BOXではなく書架まで戻しに行ってくれる。平澤さんを追いかけるように俺もカウンターから出て、BOXに置きっぱなしになっていた本数冊を手に取って書架に向かった。
「藍、俺がいないところでどんな感じなの?」
「んー普通っちゃ普通だけど、それが珍しいからねぇ。今衣装の採寸とかされてるけど嫌がらないし、台本の読み合わせとかも仕切ってやってくれるし、脇役抜擢男子達とふざけたりしてるしね」
今までの態度がツンケンしていただけあって、本当に普通といえば普通だけど、なんで変わったのか、変わろうとしたのかが引っかかる。それにずっと他人を近付けまいとしていた人が心を開いてくれたらきっとみんな……。
「おやおや、おや?手が進んでいませんねサクラちん。ねぇ気になるならクオン覗きに行ってみる?どうせ図書室もうすぐ閉める時間だし、買出し係今日出動無いから暇でしょ?」
やはり少し強引な誘いをしてくる平澤さんに、やはり断る理由が見つからない俺は言われるがままに教室へついて行った。
教室を半分に分けて後ろでは机をくっつけて女子を中心に裁縫や小道具の製作、前では脚本を片手にわちゃわちゃ話していてとても賑やかだった。
「平澤さんはなんの役割だっけ?」
「リオン?脚本補助!脚本担当のアヤカにいい案を囁く係だよ」
「そうなんだ」
そんな係あったか?まぁ平澤さんがそれで良いなら良いだろう。
「てか教室入らんの?」
「いや、なんか、場違いだし。こっそり様子見るだけでいいかも」
「そう?」
平澤さんに見上げられ、俺はこくりと頷いた。そもそも教室に入った所でやることも無いし邪魔になるだけだ。
『ねぇ久遠くん手大きいね』
『ん?そ?』
『うん。手出して』
ジュリエット役を勝ち取った、自分の容姿に自信があり少し気の強めな山田さんが久遠の手を取ってピッタリとくっつけた。
『ほら!さっき舞踏会のシーンやった時に大きいなって思ったんだよね』
あざとく指を絡めてぎゅっと握って笑う彼女に藍は少し笑っていた。教室の中はガヤガヤとしているのに藍とその周りの音がやけに鮮明に聞こえる。聞いてしまう。
『あー抜け駆けすんなし。藍くんさ、今日一緒に帰ろうよ』
『えー私も!私もいい?外もう暗いし』
『おーい女子?久遠取り合わなくても男子他にもいるよー』
『そーだそーだ!あ、久遠女子たち面倒くさかったら俺と帰ろうぜ?ラーメン奢る』
『うわ、私らに勝てないからって物で釣るとかサイテー!』
『うるせー!こうでもしないと勝てないだろうが。久遠いつも桜宮と一緒だからな~』
『それな?ぶっちゃけ桜宮くんと久遠くんってタイプ全然違うよね?一緒にいて大変じゃない?』
『確かにタイプは違うけどその聞き方は』
話が嫌な方に動いた。じっと扉の隙間から盗み聞きするように息を潜めていたが苦しくなって逃げるように教室を離れた。離れようとした。
「あれ?桜宮くん?まだ残ってたんだ!ちょうど良かった。ウチら裏方組もオリジナルTシャツ作って着ることになってさ。サイズ聞いても……桜宮くん?」
きっとお化けでも見てしまったかのような表情をしていたのだろう。それか家主に見つかった泥棒のようか。何はともあれ誰にも見つからないように退散する気でいたから声を掛けられたことに驚いて、声が出なかった。
「あ、いや、そう、なんだ。サイズ……サイズって何がある?」
「えっと、S、M、L、LL」
「詩はLだよ」
「へ?」
後ろから聞こえた声にまたしても変な所から声が出た。
「まだ帰ってなかったの?」
「今から帰るとこ」
「ふーん」
藍はつまらなそうに返事をする。
「藍は?まだ残る?帰るなら……」
「おーい久遠くん?まだぁ?」
「早くしないとスマホ勝手に見ちゃうけど」
教室から山田さんがひょっこりと顔を出し、奥から藍を煽る声が続いた。
「ごめん。アイツら煩いから先帰ってて」
「待って、見られたくないってことはカノジョの写真とか」
「彼女じゃねぇって」
藍は後ろを向いて大きな声を出して、また俺の方を向いて「こんな調子だし、巻き込まれたくないだろ?」
待ってるって言いたかったけど、どこか遠ざけるような、追い払うような言い方にすぐに帰るという選択肢しか残されていないようだった。
家に帰っても結局放課後の事で頭がいっぱいだった。藍があんなに簡単に女子に自分を触らせるなんて知らなかったし、俺の事を他人にどう説明するかなんて聞きたくなかったのに気になって仕方がない。結局俺は藍のことよりも周りの目を気にしているのだろうか。しっかり覚えてはいないがあのお調子者はサッカー部の奴だと思うけど、彼が言うように女子から藍を奪うにはラーメンのハンデが必要だし、俺なんかより可愛い女の子と一緒にいた方がしっくりくる事なんてわかっている。でも藍はいつだって俺を選んでくれるし優先してくれてた。だから今日、先に帰っててって言われたのが少し刺さって痛かった。こんなに繊細だったのかと嫌になる。縛られたいが縛りたいになっている事が嫌になる。
トントントン。
「なにー?」
「入るよ」
家族以外の聞きなれた声に枕に顔を埋め自己嫌悪に陥りつつあった俺は漫画のように飛び起きた。
「なんで来たの?」
制服のまま部屋に入ってきた藍に驚いてベッドから立ち上がって近づいた。
「帰る時、変な言い方したかもって気になってさ」
「……俺、顔に出てた?」
「なんとなく。そんな気がしただけだよ。いつから教室来てたの?」
いつものようにベッドに背中を預けて隣り合って座った。
「んー山田さんと手を繋いだところから。舞踏会って聞こえたけど結構そのまんまなの?」
「うん。仮面舞踏会に忍び込んでジュリエットと会って二人とも死ぬ大まかな流れは一緒なんだけど、ジュリエットのマインドがギャル」
「脚本ギャルが書いてるからね」
「脚本家の色が出過ぎてる」
「俺達裏方はTシャツだけど、藍は十四世紀の貴族衣装着るってこと?この前荷物持ちで近くの手芸用品店行ったよ」
「なんか衣装係は家でも作ってるらしいしそうなのかな。山田サン結構楽しみにしてるっぽい。メイクもするからそのままミスコン出るらしいよ」
「藍は家で台詞の練習とかしないの?」
「俺?しないけど……詩が相手してくれるなら」
藍がにやりと笑った。良くないことを考えてる時の顔だ。
「この前キスしたじゃん」
「あれは練習じゃなくて俺が詩にしたくてしたの。あ、そういえばダンス」
「ダンス?舞踏会の?」
「うん。あと、後夜祭のキャンプファイヤー」
後夜祭恒例の、文化祭で使った小道具や展示品等終わってしまえばゴミと化す木材や資材を燃やしながら大音量で音楽を流して踊る時間がある。去年は横目に見ながら帰ったけど、今年は大量に燃やすものが出てくるからすぐ帰る訳にも行かないし、きっと二年の部で注目の的になってしまうであろう藍は帰ることすら許されないだろう。
「踊んの?」
「なんか教えられた」
「それさ、あれでしょ。一緒に踊った男女が結ばれるってジンクスの」
「知ってんだ?」
「お前、去年も凄いことになってたじゃん」
「詩に振られたけど」
「はぁ?振ってない!踊りたくなかっただけ!……それにお前には相手も待ちも沢山いるけど、藍が居なくなったら俺ひとりになっちゃうし」
藍は俺を見て手を取って立ち上がる。引き上げられるようにして立ち上がると、片方の手が腰に回ってくる。
「今年は?俺と踊ってくれる?」
「……なんか、キャンプファイヤーで踊ったらさ、なんていうか藍の事好きな女子と一緒みたいでやだ」
「じゃあ今一緒に踊ってよ」
「え?は?」
ぐい、と腰を引き寄せられて繋いだ手が真っ直ぐ伸びる。
「俺がリードするから合わせるだけでいいよ」
タタタ、と素早くスマホを操作し小さく音楽が流れ始める。教室で盗み聞きしている時に聞こえてきた音と同じものだった。
三拍子で藍がステップを踏むとまるで操り人形のように体が動いた。体を沿わせるとぴったりと収まるような感覚がするのに、リズム感が無いお陰で足元だけがずっと覚束無い。
「まって、あい、ちょっと、はや、あごめ足踏んだ」
「ふ、ははは、必死すぎ」
「笑うなって、こっちは初めてなんだって、ここ狭いから、うわっ」
ローテーブルを避けようとして藍の足を踏んだと思ったらもう片方の足がカーペットとの段差に躓いて体重を藍に預けることしか出来ずそのまま二人してベッドに倒れ込んだ。
藍は繋いだ手を離さないし腰は抱かれたままだし、そのまま重なって沈んだからベッドからは聞いたことも無い音がした。
ダンスの時には合わなかった呼吸が、今ぴったりと重なっている。
「あのさ、皆藍のスマホ見たがってたけど何があんの?」
「今聞く?」
「今思い出したから」
「別に良いけど」
ベッドに放り投げられていた未だに緩やかな音楽を奏でている端末を藍は俺を上に乗せたまま手探り状態で探し出す。
「手退けてよ、重いでしょ」
「別に……あった」
暗くなっていた画面に明かりがつき、パスコードを解除すると映し出されたのは俺と藍のツーショットだった。
「スマホ弄ってたら俺の浴衣がチラッと見えたっぽくて、見せて欲しいって言われたからさ、好きな人も一緒に映ってるからヤダって言ったのってほらやっぱり逃げようとする。俺の上に乗せといて良かった」
行く手を阻まれついに両手で拘束された。恥ずかしいと嬉しいが同時に襲ってきて、恥ずかしいが勝った。
「詩はさ、いつも俺に気持ち伝えてくれるけど伝えられると逃げるよな」
「慣れてないから」
「慣れてよ詩」
「ムリ致死量」
「俺だって他の女子と一緒はヤダって言われた時からもう致死量超えてるけどね」
浴衣姿の写真の俺の魅力とやらをそのキラキラした王子様も勝てない顔で語られて頭がおかしくなりそうだった。
「まぁ詩に先帰っててって言ったのはこの写真を巡る攻防があったからで」
「別にさ、俺たち幼馴染だってみんな知ってる訳だし、見せても大丈夫じゃない?」
「ダメダメ。この詩は俺だけの詩だから誰にも見せたくないんだけど、俺はずっと見てたいワケ。だって俺に初めて好きって言ってくれたきねングッ」
「べ、べつに何回でも言うし」
俺に口を塞がれて可笑しそうに笑う藍を見て俺も笑う。
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