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This is the moment ㉕
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「黒崎っ」
隙のない動きで男へと向かっていく。男は興奮状態のまま、黒崎へと銃口を向けた。左手が激しく震えているのがここからでもわかった。黒崎は銃の照準が定まらないよう、ジグザグとした動きで男へと走る。
「******!!!」
突然、男がわからない言葉で叫び声を上げた。と同時にサイレンサーの付いた銃から音もなく銃弾が飛び出した。
嘘だろ。
あんなに手が震えた状態ならば。撃ったとしても弾丸の動きを熟知している黒崎に当たるわけないと思っていた。だが、銃弾は黒崎を貫いた。ように見えた。黒崎の動きが鈍る。
「くろさきっ!!」
黒崎に向かって走り出した。倒れるかと思ったが、黒崎は倒れなかった。一瞬動きが鈍ったが、そのまま走り続けて男ともみ合いになる。晃良は必死で走った。黒崎が苦痛に満ちた顔でそれでも男から銃を奪おうとしているところへ飛び込む。両手で男の手首を掴むと思い切り捻り上げた。男が悲鳴を上げて、銃を落とした。黒崎が左腕を押さえて、地面に膝を着くのが見えた。しかし、男は諦めなかった。相変わらず血走った目で晃良を睨むと、折れた指をものともせず、晃良の首を右手で絞めてきた。
「は……あ……」
苦しさに顔が歪む。男の方が晃良よりもはるかに体格がいい。力での戦いになると晃良は不利だった。じわじわと首を絞められながら、じりじりと橋の端へと追い詰められた。
「誰かぁっ!! 誰かきてぇー!!」
親子連れの母親が叫ぶ声が聞こえる。ついに欄干まで詰められた。男の左手を掴む晃良の右手も、男の右手を外そうともがく左手にも力が入らなくなっていく。ついに晃良の右手が外れた。男は自由になった左手も使い、両手で晃良の首を絞め上げる。ゆっくりと、体が男の力で持ち上げられた。上半身が欄干を越える。男が何か呟をいた。何を言っているのかはわからないが、この状況なら考えなくてもわかる。
『死ね』
これはかなりやばいかもしれない。まだこのまま川へと落ちた方が、男に首を絞め続けられるより助かる確率は高いのではないか。
「あっ……はっ……」
声にならない掠れた音が喉の奥から出る。苦しい。息ができない。段々と、意識がぼうっとしてきた。そんな中、突然頭にぽっかりと浮かんだのは、黒崎の笑った顔だった。
『アキちゃん』
ふと、晃良は思う。
これはもしや、本当に最後の瞬間が近いということなのだろうか。しかし、不思議と怖さを感じることはなかった。
ここで終わるのはとても残念だけれど。その前に、黒崎と再会できて良かった。少しの時間だったけれど、黒崎と一緒にいられて、黒崎に触れることができて、黒崎に触れられて、言葉を交わし、笑い合い、愛し合い、共有し合い、気持ちを確かめ合うことができたのは、晃良にとっては幸せな人生だったと言えるのかもしれない。
黒崎の怪我が気がかりだけれど。おそらくもうすぐ誰か助けがくるに違いない。きっと黒崎は助かるだろう。
ああ、だけど。記憶が全て戻らなかったのは申し訳なかったなと思う。もう少し時間があったら、もしかすると思い出せたかもしれないのに。それに。尚人や涼にさよならもありがとうも言えなかったことも。
ごめん。
誰に向けるわけでなく頭の中で呟く。
少しずつ意識が遠のいてきた。さっきまでの苦しかった感覚ももうどこかへ行ってしまった。晃良の両手に感覚がなくなっていくのが自分でもわかる。
晃良は死を覚悟した。
隙のない動きで男へと向かっていく。男は興奮状態のまま、黒崎へと銃口を向けた。左手が激しく震えているのがここからでもわかった。黒崎は銃の照準が定まらないよう、ジグザグとした動きで男へと走る。
「******!!!」
突然、男がわからない言葉で叫び声を上げた。と同時にサイレンサーの付いた銃から音もなく銃弾が飛び出した。
嘘だろ。
あんなに手が震えた状態ならば。撃ったとしても弾丸の動きを熟知している黒崎に当たるわけないと思っていた。だが、銃弾は黒崎を貫いた。ように見えた。黒崎の動きが鈍る。
「くろさきっ!!」
黒崎に向かって走り出した。倒れるかと思ったが、黒崎は倒れなかった。一瞬動きが鈍ったが、そのまま走り続けて男ともみ合いになる。晃良は必死で走った。黒崎が苦痛に満ちた顔でそれでも男から銃を奪おうとしているところへ飛び込む。両手で男の手首を掴むと思い切り捻り上げた。男が悲鳴を上げて、銃を落とした。黒崎が左腕を押さえて、地面に膝を着くのが見えた。しかし、男は諦めなかった。相変わらず血走った目で晃良を睨むと、折れた指をものともせず、晃良の首を右手で絞めてきた。
「は……あ……」
苦しさに顔が歪む。男の方が晃良よりもはるかに体格がいい。力での戦いになると晃良は不利だった。じわじわと首を絞められながら、じりじりと橋の端へと追い詰められた。
「誰かぁっ!! 誰かきてぇー!!」
親子連れの母親が叫ぶ声が聞こえる。ついに欄干まで詰められた。男の左手を掴む晃良の右手も、男の右手を外そうともがく左手にも力が入らなくなっていく。ついに晃良の右手が外れた。男は自由になった左手も使い、両手で晃良の首を絞め上げる。ゆっくりと、体が男の力で持ち上げられた。上半身が欄干を越える。男が何か呟をいた。何を言っているのかはわからないが、この状況なら考えなくてもわかる。
『死ね』
これはかなりやばいかもしれない。まだこのまま川へと落ちた方が、男に首を絞め続けられるより助かる確率は高いのではないか。
「あっ……はっ……」
声にならない掠れた音が喉の奥から出る。苦しい。息ができない。段々と、意識がぼうっとしてきた。そんな中、突然頭にぽっかりと浮かんだのは、黒崎の笑った顔だった。
『アキちゃん』
ふと、晃良は思う。
これはもしや、本当に最後の瞬間が近いということなのだろうか。しかし、不思議と怖さを感じることはなかった。
ここで終わるのはとても残念だけれど。その前に、黒崎と再会できて良かった。少しの時間だったけれど、黒崎と一緒にいられて、黒崎に触れることができて、黒崎に触れられて、言葉を交わし、笑い合い、愛し合い、共有し合い、気持ちを確かめ合うことができたのは、晃良にとっては幸せな人生だったと言えるのかもしれない。
黒崎の怪我が気がかりだけれど。おそらくもうすぐ誰か助けがくるに違いない。きっと黒崎は助かるだろう。
ああ、だけど。記憶が全て戻らなかったのは申し訳なかったなと思う。もう少し時間があったら、もしかすると思い出せたかもしれないのに。それに。尚人や涼にさよならもありがとうも言えなかったことも。
ごめん。
誰に向けるわけでなく頭の中で呟く。
少しずつ意識が遠のいてきた。さっきまでの苦しかった感覚ももうどこかへ行ってしまった。晃良の両手に感覚がなくなっていくのが自分でもわかる。
晃良は死を覚悟した。
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