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第一章
32話 手紙
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名は諸葛亮、字は孔明。
彼のことを知らない歴史好きなどいないだろう。
古代中国の、いわゆる三国志に登場する蜀の軍師であり、政治家、策略家、発明家。そして、稀代の天才。
天下三分の計を奉じ、三国志を作ったとも言える人物。その明晰な頭脳で戦場に神算を描く。
水魚の交わり。三顧の礼。など、彼にまつわる故事成語は現代でも有名だ。
「おいレオ!」
歳三が私の肩を掴む。その力強さに、元の世界で知った諸葛亮の姿に思いを馳せていた意識が連れ戻された。
「分かっているよ。なんの相談もなしに今ここで突然召喚したりしないさ。ただ、なんせ四年ぶりなんだ。ちょっと興奮してるだけだよ」
私の言葉を聞いて歳三は肩から手を離した。
「……という訳です。今ここでスキルをお披露目できなくて申し訳ない」
「いえ、そのような重大なことを無理強いなどできる権利はありませんので。……それに、スキルはその人個人が天から与えられた特別なものです。見世物などではない。どうかお気になさらず」
団長も落ち着きを取り戻し、浮かせていた腰を下ろした。
その後、ファリア産の果物をデザートに、食事会は終了した。
さすが名産なだけあって、甘みもしっかりとしていて美味しかった。物に罪はない。
「改めて、本日はありがとうございました。どうかウィルフリードの願いが届けられることを祈ります」
私は団長に手を差し出す。
「こちらこそ、ご馳走になりました。……必ずウィルフリードの思いを皇都へ持ち帰ります」
団長はそう言い、私の手を固く握った。
マリエッタとシズネは皿の片付けを始めた。
私と歳三は玄関まで団長たちを見送る。
「それでは、帝国に栄光あれ!」
「ウィルフリードに幸あれ!……土方殿と戦場で肩を並べる日が来るのを楽しみにしてますよ」
「あァ、それまで互いに精進して腕を磨こう」
団長と歳三は、最後に帝国式敬礼をもって別れの挨拶とした。
団長と副官は停めてあった馬に乗り、颯爽とウィルフリードの街並みに消えていった。
「歳三、突然巻き込んで悪かったな」
「いや、この国の陸軍奉行のような奴と話せて良かった。俺としても得るものがあったぜ」
「それならよかった」
「じゃあ俺は軍の方に戻るぜ。援軍からウィルフリードの防衛に割かれる軍勢の受け入れ準備があるからな」
歳三はそう言い兵舎の方へ歩いていった。
私も、これからやらなければならないことが沢山できた。皇帝の裁断がどうであれ、ウィルフリード再興の為にこれから忙しくなる。
屋敷に戻り、また自室に籠る日々が始まった。
私に出来ることは、せいぜい次々にシズネから渡される書類に判を押すことだ。
戦乱でボロボロになった街を建て直す方法など元の世界でも習ってなどいない。そんな私はあまりに無力だ。
時より寄せられるゲオルグやナリスたちからの近況報告に目を通し、歳三やタリオたちの訓練に視察に行く。
それだけが忙しい日々のほんの少しの休息だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「レオ様大変です!」
数週間そんな生活を続け、今日も朝の散歩ついでに兵舎まで顔を出そうと屋敷を出たところでタリオに捕まった。
「どうしたんだタリオ。ちょうど私もそっちへ向かおうとしていたところだったんだが……」
タリオはハァハァと息を切らしながら、丸められた紙の束を大切そうに手渡してきた。
「とにかく、これを見てください!」
「……どれどれ。………え?」
そこには懐かしい筆跡の文字と、もうすっかり見慣れた判があった。
「そうです!ウルツ様からの手紙です!先ほど伝令がこれをもってやって来ました!」
「父上からもう連絡が来るとは!……すぐにその伝令を屋敷まで連れてきてくれ。私はそれまでに一度これに目を通す」
「分かりました!」
初めから直接その伝令を連れてくればよいものを、よほど興奮したのだろう。馬にも乗らずにタリオはウィルフリードの街に走り去る。
いや、彼の父であるアルガーからの手紙もあるのかもしれない。タリオだって父の無事を知りたいはずだ。
ともかく、私も早く読みたかった。数ヶ月ぶりに父と母のことを知れる。
私は視察と称した散歩を取りやめ、自室に戻る。
「あら、レオ様、今日は行くのはお辞めになられたのですか?」
「あぁマリエッタ!父から書状が届いたんだ!視察なんて行ってられるか!」
「まぁ!旦那様から!奥様も無事なのでしょうね?」
マリエッタも嬉しそうな笑みをこぼす。
「これから確認する!……あぁそれと、この書状を届けた伝令がもうすぐやって来るんだ。私は自室でこれを読んでいるから、彼は会議室に案内してやってくれ」
「かしこまりました。お水もご用意致します」
「そうだな。それがいい」
私は軽くマリエッタに指示を出したあと、自室で書状を改めて広げて見た。
「………なんてことだ」
そこには衝撃的な内容が書かれていた。
「本来一ヶ月かかると見られた魔物討伐は既に完了。ファリア反乱の知らせを聞き早急にウィルフリードに帰還する……」
さすがは父上率いるウィルフリードの精鋭だ!
「父、母、共に無事である。こちらもレオの無事を祈る」
よかった。
このウィルフリードを守り通したとしても、父と母を失っては、私は今後どうして行けばいいのか。
そんな心配が頭を埋め尽くすこの数日のモヤモヤが、この一行の文で一気に吹き飛んだ。
二枚目には母の字で、今後の指示が書かれていた。
主な内容は帰還する兵を迎え入れる用意についてだ。食料の確保に、負傷兵の治療の為の薬や魔道士の手配について。
他にはファリアとの戦いでの損耗について、こと細かく対処法が書かれていた。
母の優しい口調と、それとは裏腹にビシバシとした内政指示を思い出す。
だが、今はその全てを読む時間は無い。
三枚目には具体的な軍の損耗について書かれていた。
これを参照に二枚目の内容を準備せよとのことだろう。
しかし、この表を見る限り死傷者はほとんどおらず、損耗と言ってもそれは兵糧の面が主だった。
アルガーの率いる部隊では損害がゼロと記載されているので、もちろんアルガー本人も無事ということだ。タリオに知らせてあげねば。
「レオ様、伝令が到着されました」
「分かった。今行くよ」
さぁ、話を詳しく聞かせてくれ。
彼のことを知らない歴史好きなどいないだろう。
古代中国の、いわゆる三国志に登場する蜀の軍師であり、政治家、策略家、発明家。そして、稀代の天才。
天下三分の計を奉じ、三国志を作ったとも言える人物。その明晰な頭脳で戦場に神算を描く。
水魚の交わり。三顧の礼。など、彼にまつわる故事成語は現代でも有名だ。
「おいレオ!」
歳三が私の肩を掴む。その力強さに、元の世界で知った諸葛亮の姿に思いを馳せていた意識が連れ戻された。
「分かっているよ。なんの相談もなしに今ここで突然召喚したりしないさ。ただ、なんせ四年ぶりなんだ。ちょっと興奮してるだけだよ」
私の言葉を聞いて歳三は肩から手を離した。
「……という訳です。今ここでスキルをお披露目できなくて申し訳ない」
「いえ、そのような重大なことを無理強いなどできる権利はありませんので。……それに、スキルはその人個人が天から与えられた特別なものです。見世物などではない。どうかお気になさらず」
団長も落ち着きを取り戻し、浮かせていた腰を下ろした。
その後、ファリア産の果物をデザートに、食事会は終了した。
さすが名産なだけあって、甘みもしっかりとしていて美味しかった。物に罪はない。
「改めて、本日はありがとうございました。どうかウィルフリードの願いが届けられることを祈ります」
私は団長に手を差し出す。
「こちらこそ、ご馳走になりました。……必ずウィルフリードの思いを皇都へ持ち帰ります」
団長はそう言い、私の手を固く握った。
マリエッタとシズネは皿の片付けを始めた。
私と歳三は玄関まで団長たちを見送る。
「それでは、帝国に栄光あれ!」
「ウィルフリードに幸あれ!……土方殿と戦場で肩を並べる日が来るのを楽しみにしてますよ」
「あァ、それまで互いに精進して腕を磨こう」
団長と歳三は、最後に帝国式敬礼をもって別れの挨拶とした。
団長と副官は停めてあった馬に乗り、颯爽とウィルフリードの街並みに消えていった。
「歳三、突然巻き込んで悪かったな」
「いや、この国の陸軍奉行のような奴と話せて良かった。俺としても得るものがあったぜ」
「それならよかった」
「じゃあ俺は軍の方に戻るぜ。援軍からウィルフリードの防衛に割かれる軍勢の受け入れ準備があるからな」
歳三はそう言い兵舎の方へ歩いていった。
私も、これからやらなければならないことが沢山できた。皇帝の裁断がどうであれ、ウィルフリード再興の為にこれから忙しくなる。
屋敷に戻り、また自室に籠る日々が始まった。
私に出来ることは、せいぜい次々にシズネから渡される書類に判を押すことだ。
戦乱でボロボロになった街を建て直す方法など元の世界でも習ってなどいない。そんな私はあまりに無力だ。
時より寄せられるゲオルグやナリスたちからの近況報告に目を通し、歳三やタリオたちの訓練に視察に行く。
それだけが忙しい日々のほんの少しの休息だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「レオ様大変です!」
数週間そんな生活を続け、今日も朝の散歩ついでに兵舎まで顔を出そうと屋敷を出たところでタリオに捕まった。
「どうしたんだタリオ。ちょうど私もそっちへ向かおうとしていたところだったんだが……」
タリオはハァハァと息を切らしながら、丸められた紙の束を大切そうに手渡してきた。
「とにかく、これを見てください!」
「……どれどれ。………え?」
そこには懐かしい筆跡の文字と、もうすっかり見慣れた判があった。
「そうです!ウルツ様からの手紙です!先ほど伝令がこれをもってやって来ました!」
「父上からもう連絡が来るとは!……すぐにその伝令を屋敷まで連れてきてくれ。私はそれまでに一度これに目を通す」
「分かりました!」
初めから直接その伝令を連れてくればよいものを、よほど興奮したのだろう。馬にも乗らずにタリオはウィルフリードの街に走り去る。
いや、彼の父であるアルガーからの手紙もあるのかもしれない。タリオだって父の無事を知りたいはずだ。
ともかく、私も早く読みたかった。数ヶ月ぶりに父と母のことを知れる。
私は視察と称した散歩を取りやめ、自室に戻る。
「あら、レオ様、今日は行くのはお辞めになられたのですか?」
「あぁマリエッタ!父から書状が届いたんだ!視察なんて行ってられるか!」
「まぁ!旦那様から!奥様も無事なのでしょうね?」
マリエッタも嬉しそうな笑みをこぼす。
「これから確認する!……あぁそれと、この書状を届けた伝令がもうすぐやって来るんだ。私は自室でこれを読んでいるから、彼は会議室に案内してやってくれ」
「かしこまりました。お水もご用意致します」
「そうだな。それがいい」
私は軽くマリエッタに指示を出したあと、自室で書状を改めて広げて見た。
「………なんてことだ」
そこには衝撃的な内容が書かれていた。
「本来一ヶ月かかると見られた魔物討伐は既に完了。ファリア反乱の知らせを聞き早急にウィルフリードに帰還する……」
さすがは父上率いるウィルフリードの精鋭だ!
「父、母、共に無事である。こちらもレオの無事を祈る」
よかった。
このウィルフリードを守り通したとしても、父と母を失っては、私は今後どうして行けばいいのか。
そんな心配が頭を埋め尽くすこの数日のモヤモヤが、この一行の文で一気に吹き飛んだ。
二枚目には母の字で、今後の指示が書かれていた。
主な内容は帰還する兵を迎え入れる用意についてだ。食料の確保に、負傷兵の治療の為の薬や魔道士の手配について。
他にはファリアとの戦いでの損耗について、こと細かく対処法が書かれていた。
母の優しい口調と、それとは裏腹にビシバシとした内政指示を思い出す。
だが、今はその全てを読む時間は無い。
三枚目には具体的な軍の損耗について書かれていた。
これを参照に二枚目の内容を準備せよとのことだろう。
しかし、この表を見る限り死傷者はほとんどおらず、損耗と言ってもそれは兵糧の面が主だった。
アルガーの率いる部隊では損害がゼロと記載されているので、もちろんアルガー本人も無事ということだ。タリオに知らせてあげねば。
「レオ様、伝令が到着されました」
「分かった。今行くよ」
さぁ、話を詳しく聞かせてくれ。
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