侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの

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対面です!

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「ジャド嬢、随分とやつれて……」


 元々細くて白くて華奢すぎる令嬢だったけれど、やつれて目の下にクマが出来てさらに顔は青白くなっていた……


 亜麻色の髪の毛はいつも纏めていたから気にならなかったけれど、ただ長い髪をおろしていると艶がなくパサつきが目立っている。


 失礼だけど、夜中に出会ってしまったら、幽霊と間違えてしまいそうな……そんな感じ。

 柳の下や教会の周りにいたら聖水を掛けたくなる……そんな……感じ。


 ……夢に出てきそう。ごめんなさい。



「……サレット侯爵令嬢……此度のことは申し訳ございませんでした。罪状が出るまでこちらに滞在をさせていただいております」

 元気のない声で絞り出すように言った。


 少し殺風景な部屋だけど、貴族の令嬢が寝食できる最低ラインといった感じがした。

 牢屋に入っていなくて安心した……と言うのがこの部屋を見た第一印象。


「先日の件でジャド伯爵がうちに謝罪にいらしていたようですわ。わたくしはその時家に居なかったものですから父と兄が対応をしたようです」


「申し訳、ございませんでした」

 気丈に振る舞っているように思えるけれど手も声も震えている。


「何か誤解があるようですわ。それにわたくしも悪いところはありますもの。ジャド嬢からしたらわたくしは、二人の男性の心を弄ぶ、ふしだらで悪い女に見えるのでしょうね」


 噂ではそうなっているもの。自分で言っていて恥ずかしいやら、情けないやら…… 


「……はい、噂に惑わされていました」


 肯定なのね……




「ジャド嬢は公子様に憧れていたから、そんなわたくしに腹がたったのでしょう?」

 ジャド嬢はしばらく間を置きこくんと頷いた。やっぱり!


「公子様とわたくしはあくまでも友人ですのよ」

「……公子様はそうは思っていないように見えました」


 マデリーンの婚約者であるニコラ様に呆れられてしまったひとつだった。

 友人から始まる恋もあるんですって! キリアン様は本当に私に求婚してくださっていたようで、とっても申し訳なく恥ずかしくてもうキリアン様にどのような顔で会えばいいのか分からない……

 と言ったところ、マデリーンとニコラ様はあっちが言ってこない限り、知らない事にしておいた方が良いと口を揃えて言った。

 なので私はこの事に関して知らないフリをしなければならない。


 淑女教育の賜物ですわね……! 

 って私のバカ! バカ!! バカ!!!


 キリアン様が友達って言っていたからまに受けてしまったの。異性のお友達は初めてだったんですもの。

 あのままだと好きになっていたかもしれないもの。でも友達にそんな感情を持ってはダメだと……




「お友達ですわ。殿下の婚約者候補に選ばれた時点で例え好ましく思っていてもその感情は抑えなくてはなりません。わたくしは貴族の娘です。幼い頃からそのように習ってきました。あなたは違いますの?」


「わたくしに足りない部分です。勉強は出来ても貴族としての振る舞いが足りません。大人しくしていれば目立たず学園生活を送れます。他の令嬢を見て真似してなんとなく暮らして来ましたが限界がありました」


 私が引っかかりを覚えたところ、それは……


「わたくしがセリーヌ様にお教えした淑女の礼は主に高位貴族が行う淑女の礼です。こんな事を言っては嫌味になるかと思いますが、わたくし達貴族の中でも高位の者は王家の方々とお会いすることもありますので、幼き頃より、まずは淑女の礼を教わるのです。
 伯爵家の方ももちろん王宮に出入りされることはあるでしょうし、マナーは必須ですわね。子爵家、男爵家となると中々王宮に呼ばれることはないかと存じます。中には優秀な家もあって呼ばれる事もあるでしょうが、一般的には伯爵家以上の家が王宮に出入りしますわね」


「はい、何かあればうちは父の代わりに兄が出席しています」


 お兄さんは王宮で勤めているし、殿下とも知り合いだと聞いた。成績優秀で学園を卒業し仕事においても真面目で有能なのだそう。


「侯爵令嬢であるわたくしからしてみれば、伯爵家以下同文と言った感じでもあるの。わたくしが淑女の礼をお教えしたのはセリーヌ様。貴女はそれを見て覚え殿下に同じように挨拶をしていた。でもタイミングがわからなかったのね。必ず貴方は見様見真似で最後に挨拶をしていたわ。子爵令嬢であるゲラン様は社交界の華でもある為、流石に場慣れをしているから気後れはしていないようだったわね」


 爵位によって挨拶の仕方は変わる。うちは侯爵家だから、お茶会をしても同じような爵位の令嬢と付き合うことが多いし、子爵家や男爵家の家に呼ばれることなどまずない。

 故に私は高位貴族の家との付き合いが多い。子爵家、男爵家は貴族としての教育はもちろん受けなければならないが、気楽さと言う面では違うと思う。


 学園のクラスには男爵家の令嬢はいない。子爵家の令嬢はいるし、クラスメイトとして接するが学園に入るまでは会ったことも話したこともない。それが貴族社会。


 うちは親が侯爵と言う高い地位がありたまたまその娘として生を受けた。だけど、公爵家の令嬢と言う肩書きがいやでも付いてくる。心の中で悪態をついても表面では笑顔を貼り付けるのが仕事なのだ。

 何か余計な一言を言うだけで足元を掬われる、それが貴族社会……私にはマデリーンと言う親友がいるから心を許せるけれど、マデリーンが裏切る可能性もある。
 その時はマデリーンと言う人物を過信しすぎた自分に非があるのだ。


「ちゃんと見ていたのですね。その通りです。勉強以外のことは自信がないから、目立たぬようにしていました。人の真似をしていれば間違いはないと……」


「そう言う性格の方だと言うことは理解していました。社交界は自分を偽ることも大事です。貴女はなぜ皆が婚約者候補を辞退する中で最後まで粘っていたの? ボロが出てしまうでしょう?」


 これが最難関の謎だった。目立ちなくないのに辞退しない理由。キリアン様と会ったのは偶然だし、殿下と婚約をしたいと言う野心もなさそう。なのになぜ?


「侯爵令嬢にはわからないと思いますわ。ブルーダイヤをお菓子でも買うようにポンと買って貰える家とは違いますもの」


「えぇ、わからないわね。教えてちょうだいな」


 今日は侯爵令嬢として悪役令嬢を演じるのだ。それが彼女にとってはいいと思ったから。同情はしないと決めた!




 
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