34 / 65
対面です!
しおりを挟む「ジャド嬢、随分とやつれて……」
元々細くて白くて華奢すぎる令嬢だったけれど、やつれて目の下にクマが出来てさらに顔は青白くなっていた……
亜麻色の髪の毛はいつも纏めていたから気にならなかったけれど、ただ長い髪をおろしていると艶がなくパサつきが目立っている。
失礼だけど、夜中に出会ってしまったら、幽霊と間違えてしまいそうな……そんな感じ。
柳の下や教会の周りにいたら聖水を掛けたくなる……そんな……感じ。
……夢に出てきそう。ごめんなさい。
「……サレット侯爵令嬢……此度のことは申し訳ございませんでした。罪状が出るまでこちらに滞在をさせていただいております」
元気のない声で絞り出すように言った。
少し殺風景な部屋だけど、貴族の令嬢が寝食できる最低ラインといった感じがした。
牢屋に入っていなくて安心した……と言うのがこの部屋を見た第一印象。
「先日の件でジャド伯爵がうちに謝罪にいらしていたようですわ。わたくしはその時家に居なかったものですから父と兄が対応をしたようです」
「申し訳、ございませんでした」
気丈に振る舞っているように思えるけれど手も声も震えている。
「何か誤解があるようですわ。それにわたくしも少しは悪いところはありますもの。ジャド嬢からしたらわたくしは、二人の男性の心を弄ぶ、ふしだらで悪い女に見えるのでしょうね」
噂ではそうなっているもの。自分で言っていて恥ずかしいやら、情けないやら……
「……はい、噂に惑わされていました」
肯定なのね……
「ジャド嬢は公子様に憧れていたから、そんなわたくしに腹がたったのでしょう?」
ジャド嬢はしばらく間を置きこくんと頷いた。やっぱり!
「公子様とわたくしはあくまでも友人ですのよ」
「……公子様はそうは思っていないように見えました」
マデリーンの婚約者であるニコラ様に呆れられてしまったひとつだった。
友人から始まる恋もあるんですって! キリアン様は本当に私に求婚してくださっていたようで、とっても申し訳なく恥ずかしくてもうキリアン様にどのような顔で会えばいいのか分からない……
と言ったところ、マデリーンとニコラ様はあっちが言ってこない限り、知らない事にしておいた方が良いと口を揃えて言った。
なので私はこの事に関して知らないフリをしなければならない。
淑女教育の賜物ですわね……!
って私のバカ! バカ!! バカ!!!
キリアン様が友達って言っていたからまに受けてしまったの。異性のお友達は初めてだったんですもの。
あのままだと好きになっていたかもしれないもの。でも友達にそんな感情を持ってはダメだと……
「お友達ですわ。殿下の婚約者候補に選ばれた時点で例え好ましく思っていてもその感情は抑えなくてはなりません。わたくしは貴族の娘です。幼い頃からそのように習ってきました。あなたは違いますの?」
「わたくしに足りない部分です。勉強は出来ても貴族としての振る舞いが足りません。大人しくしていれば目立たず学園生活を送れます。他の令嬢を見て真似してなんとなく暮らして来ましたが限界がありました」
私が引っかかりを覚えたところ、それは……
「わたくしがセリーヌ様にお教えした淑女の礼は主に高位貴族が行う淑女の礼です。こんな事を言っては嫌味になるかと思いますが、わたくし達貴族の中でも高位の者は王家の方々とお会いすることもありますので、幼き頃より、まずは淑女の礼を教わるのです。
伯爵家の方ももちろん王宮に出入りされることはあるでしょうし、マナーは必須ですわね。子爵家、男爵家となると中々王宮に呼ばれることはないかと存じます。中には優秀な家もあって呼ばれる事もあるでしょうが、一般的には伯爵家以上の家が王宮に出入りしますわね」
「はい、何かあればうちは父の代わりに兄が出席しています」
お兄さんは王宮で勤めているし、殿下とも知り合いだと聞いた。成績優秀で学園を卒業し仕事においても真面目で有能なのだそう。
「侯爵令嬢であるわたくしからしてみれば、伯爵家以下同文と言った感じでもあるの。わたくしが淑女の礼をお教えしたのはセリーヌ様。貴女はそれを見て覚え殿下に同じように挨拶をしていた。でもタイミングがわからなかったのね。必ず貴方は見様見真似で最後に挨拶をしていたわ。子爵令嬢であるゲラン様は社交界の華でもある為、流石に場慣れをしているから気後れはしていないようだったわね」
爵位によって挨拶の仕方は変わる。うちは侯爵家だから、お茶会をしても同じような爵位の令嬢と付き合うことが多いし、子爵家や男爵家の家に呼ばれることなどまずない。
故に私は高位貴族の家との付き合いが多い。子爵家、男爵家は貴族としての教育はもちろん受けなければならないが、気楽さと言う面では違うと思う。
学園のクラスには男爵家の令嬢はいない。子爵家の令嬢はいるし、クラスメイトとして接するが学園に入るまでは会ったことも話したこともない。それが貴族社会。
うちは親が侯爵と言う高い地位がありたまたまその娘として生を受けた。だけど、公爵家の令嬢と言う肩書きがいやでも付いてくる。心の中で悪態をついても表面では笑顔を貼り付けるのが仕事なのだ。
何か余計な一言を言うだけで足元を掬われる、それが貴族社会……私にはマデリーンと言う親友がいるから心を許せるけれど、マデリーンが裏切る可能性もある。
その時はマデリーンと言う人物を過信しすぎた自分に非があるのだ。
「ちゃんと見ていたのですね。その通りです。勉強以外のことは自信がないから、目立たぬようにしていました。人の真似をしていれば間違いはないと……」
「そう言う性格の方だと言うことは理解していました。社交界は自分を偽ることも大事です。貴女はなぜ皆が婚約者候補を辞退する中で最後まで粘っていたの? ボロが出てしまうでしょう?」
これが最難関の謎だった。目立ちなくないのに辞退しない理由。キリアン様と会ったのは偶然だし、殿下と婚約をしたいと言う野心もなさそう。なのになぜ?
「侯爵令嬢にはわからないと思いますわ。ブルーダイヤをお菓子でも買うようにポンと買って貰える家とは違いますもの」
「えぇ、わからないわね。教えてちょうだいな」
今日は侯爵令嬢として悪役令嬢を演じるのだ。それが彼女にとってはいいと思ったから。同情はしないと決めた!
4
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる