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ウィルベルトの夢
しおりを挟む「きゃぁぁぁぁっっ……」
絹を裂くような令嬢の叫び声に咄嗟に飛び出してしまった。
……あぁ、面倒だ。体が言う事を聞かないのに飛び出してしまった。
身体がやけに熱い……
男が持っていた小刀を叩き落とそうとしたら、腹に異変が……
切られてしまったのか……? くそ。痛みが感じないから分からなかったじゃないか……
腹を庇いながらも男の手首を叩き小刀を手放させ、首を叩きその後締め上げた。
今出せる力を全部出した……。
セイラが刺繍を入れてくれたハンカチが床に落ちたので、なんとか拾ってセイラの顔を思い出す。早く家に帰らなきゃ……。
立とうと思っていても、足に力が入らずそこから記憶がない。
******
目を醒したいのにずっと夢の中にいるような感覚だった。
セイラと出会った学園のガゼボを思い出す。あそこにはいろんな思い出がある。
セイラと初めて会った時にセイラは泣いていた。泣き顔も可愛いのだがやはりセイラは笑い顔が一番だ。
はにかんだ笑みを漏らすセイラは美しい。
レオ・ファーノンとの婚約破棄の話をするセイラは寂しそうな顔をしていた。
そんな顔をしている事もあの男は知らないのだろう。
セイラは田舎娘だと自分のことを言うが、それすらも誇らしく聞こえる。
都会に住む令嬢とは全く違う魅力的な子だ。
食事を振る舞ってくれたセイラに胃袋を掴まれた。
ハンカチを貸せばクッキーに、本を貸せばしおりを作って返してくれる。
少し変わっているが、そのひとつひとつに心がこもっている。セイラといると穏やかな気持ちになれる。
一緒に本を読んでいるだけで、言葉を交わさなくとも、心地の良い時間を過ごせた。
刺繍が得意でセンスがある。
侍女に習ったのだ。と自分の侍女を誇らしげに話す。
花の刺繍はとても繊細で、セイラの友人アルヴィエラ侯爵令嬢や私の姉もその刺繍技術をかっている。
動物の刺繍は何故か苦手なようで、本人はリスだと言うが何故かクマに見えるハンカチを貰った(無理やり)
このハンカチを見るたびにセイラの顔を思い出し笑みが溢れる。
セイラは植物図鑑を見るのが好きなようだ。紫陽花は好きではないと言うセイラに白い紫陽花をプレゼントした。
まるでセイラのようだ。と思っていた。セイラの言う田舎でも都会でもセイラはセイラだ。
領地を愛していて、王都の良いところを受け入れる。王都には染まらない、セイラが好きなんだ。
セイラの初恋はユベール殿だと言う。小さい頃の話だと言う。その次はレオ・ファーノンに恋したのか? 私が捕縛に手を貸したことを知ったらどう思うだろうか?
バカな男レオ・ファーノンは自ら捕まることを望んでいたようだった。
レオ・ファーノンは落ち着いていた。モンテス男爵として、堂々と捕まっていた。
その後はどうなったんだ? 私は今どこに居るんだ?
ずっとセイラといたい……セイラを一人にしたくない。
早くこの夢から醒めないと……
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