田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの

文字の大きさ
68 / 75

ウィルベルトの目覚め

しおりを挟む

 ……喉が、渇いた。



 そう思って重い瞼を開けた。



 見慣れた天井が視界に入った。



 帰ってきたんだ。




 体を起こそうとしたけれど言うことがきかない。


 ベルを鳴らして人を呼ぼうと思うが……手が届かない


 諦めようとしたところ目線を下に移すとミルクティーブラウンの髪が見えた。ベッドの端に頭を伏せていた


「セ、イラ?」


 掠れた声で愛おしい彼女の名前を呼んだ。


「セイラ」


「んんっっ……」と眠そうな声を出してこちらに気がついた



「ウィルベルトさまっ!」


 驚いた勢いで体を起こし私の近くに寄ってきた


「目を覚ましたのですか? 痛いところはないですかっ?」



「うん、今目覚めたようだね…。喉が、渇いたんだ」


「はい。ご用意します、体は起こせますか?」

「いや……力が入らない」


 せっせとクッションを用意して、なんとかして体を起こしてくれた。
 男の私の体は重いだろうに、一生懸命支えてくれた。
 セイラからは相変わらず石鹸の香りがふわっとして、安心する。



「ウィルベルト様、お水です。体は大丈夫ですか? 起きて辛くないですか?」




 水をひとくち飲み、セイラを呼んだ


「どうしました? 辛いですか?」


「久しぶりに、セイラの顔を見た。心配かけてごめん、私は眠っていたの?」

 まだ少し頭がぼぉっ~としていた。セイラが近くにより両手を握ってくれた。セイラの手の温もりを感じて安心する。



「はい。一週間ほど……」


「え、そんなに……?」



「皆さん心配していました。まずはお医者様に見てもらいましょう」


 セイラと離れがたいけれど、自分の体がどう言う状態なのか聞いておきたい






「「ウィル!!」」



 両親と医師が部屋に入ってきた。


「目を覚ましたのね!」
「辛いところはないか?」


 心配させた両親にまず謝罪した。



「ご心配おかけしました」

 両親はホッとした顔を見せた。


 その後医師から診察を受けた。


 身体が重いのは振りかけられた液体のせいかと思ったのだが、腹を刀で斬られたから。
 幸い深い傷ではないが、跡は残りそうだと言われた。



 眠り続けていたのは、あの甘ったるい香水の(媚薬)のせいだと言う。
 原液がかかっていたら大変なことになっていた……と聞いた。

 麻薬の一部だそうだ。嫌な汗が流れた……



 起きたばかりであの後、何があったか知りたいが、まずは回復する事を第一に考えるようにと医師に言われた。


 栄養注射のようなものを打たれていたらしいが、喉の渇きの次は自ずと腹が減った。


「何か消化のいいものを作ってもらいましょうね」


 セイラがメイドに伝えていた。しばらくしてミルク粥が運ばれてきた。


 自分で食べようと思えば食べられるかもしれないが、セイラに食べさせてもらう事にした。

 力が入らないのは事実で、みっともないが、セイラが近くにいると言う事を実感したかった。



「無理はなさらないでくださいね。少しずつです」


 セイラは一生懸命に看病してくれているのに、その姿は相変わらず愛らしいので、ようやく落ち着いた気がした。


 食べ終わった後には苦い薬を飲まされた。


「化膿止めだそうです。お腹痛くないですか?」


「不思議と痛くはない。力が入らないだけだ。二、三日で起き上がれると思う」



「良かった……目が覚めて。目覚めなかったらどうしようかと思って……そんなに危険なお仕事をしていたとは知らなくて、ぐずっ」



 緊張の糸が切れたように泣き出してしまった。
 セイラも気が張っていたんだろうと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、目覚めてすぐにセイラがいてくれた事は嬉しくも思った。



「ごめん。仕事の内容は言えない事もあるんだ。今回は危なかったけど……絶対にセイラを一人にすることはしないよ。今後はさらに気をつけると誓うよ。
 夢を見たんだ、会いたかった、セイラ」


 セイラのサラサラの髪を撫でた。心配かけたんだろうな……顔がやつれているように思えた。
 


「ねぇセイラ、疲れてない? ちゃんと寝てるのか?」


「はい。ぐずっ、ウィルベルト様の、近くにいたくて、目を覚ました時に、側に、いたくて、ずっとお側にいました。その間に仮眠は取りました、ぐずっ。」


「ずっと付いていてくれたの?」


「はい、ぐずっ」


「そうか……。ありがとう、でもセイラが倒れたら私が辛い、ちゃんと休んで欲しい」


 泣きながらも恨めしそうな顔を見せてきたけれど、この気持ちは変わらないから、セイラの侍女を呼んで休ませるようにと言った。



 
 その後のことが気になるけれど、きっと事後処理はうまくいっているだろう。





 あの場にいた貴族達と、議会のお偉いさん……モンテス男爵に夫人、捕縛の場になったミランダ伯爵はどうなったのだろうか……




■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■



次回最終話となります



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

婚約者に裏切られた私が幸せになってもいいのですか?

鈴元 香奈
恋愛
婚約者の王太子に裏切られ、彼の恋人の策略によって見ず知らずの男に誘拐されたリカルダは、修道院で一生を終えようと思っていた。 だが、父親である公爵はそれを許さず新しい結婚相手を見つけてくる。その男は子爵の次男で容姿も平凡だが、公爵が認めるくらいに有能であった。しかし、四年前婚約者に裏切られた彼は女性嫌いだと公言している。 仕事はできるが女性に全く慣れておらず、自分より更に傷ついているであろう若く美しい妻をどう扱えばいいのか戸惑うばかりの文官と、幸せを諦めているが貴族の義務として夫の子を産みたい若奥様の物語。 小説家になろうさんにも投稿しています。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

あなたと出会えたから 〜タイムリープ後は幸せになります!〜

風見ゆうみ
恋愛
ミアシス伯爵家の長女である私、リリーは、出席したお茶会で公爵令嬢に毒を盛ったという冤罪を着せられて投獄されてしまう。数十日後の夜、私の目の前に現れた元婚約者と元親友から、明日には私が処刑されることや、毒をいれたのは自分だと告げられる。 2人が立ち去ったあと、隣の独房に入れられている青年、リュカから「過去に戻れたら自分と一緒に戦ってくれるか」と尋ねられる。私はその願いを承諾し、再会する約束を交わす。 その後、眠りについた私が目を覚ますと、独房の中ではなく自分の部屋にいた―― ※2/26日に完結予定です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるゆるのご都合主義です。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...