7 / 37
噂が事実である事を公表するなんて
しおりを挟むそれから数日後……
「フランチェスカ! 婚約をなかった事にしよう」
昼食を食べ終わった後にクラウディオが急に言い出した。驚きと共に無言でクラウディオを見ると、後ろでゴホゴホとむせる音がした。
「レナート様、大丈夫ですか? お茶です。飲んでください」
お茶を渡してレナートの背中を摩った。急になにを言い出すのか、驚くわよね。
「ごほっ。大丈夫です、すみません。驚いてしまって、つい……」
「おい、聞いているのか?!」
そうだった! 驚いて返事が遅れてしまった……
「理由をお聞かせくださいな」
まずは理由を聞いてみよう。話はそれからだ。そして落ち着こう。お茶を一口飲んだ。今日のお茶は王宮でいただいたバラの香りがする癒しの茶葉を使ったものだった。
鼻から抜ける香りがなんともエレガント……
「それはフランチェスカを愛していないからだ!」
「はぁ。理由はそれだけですか?」
くだらない理由だと思った。そんなの初めから知っている。政略結婚? と言うか……あなたの為の婚約ですもの。それでも愛情(家族愛?)を持って接してきたつもりだったわ。
「噂が事実である事を、ここに宣言する! 私はジュデス・ミルカ侯爵令嬢を愛している。お前とは婚約を破棄し愛するジュディを次の婚約者とする!」
あーあ……こんな事になろうとは。なぜこの場所で? 今日は天気がいいから中庭へ行こうと言ったから珍しいことがあるものだと思った。
この前はくだらない噂だとか言っていたのに……
今日は王妃様のお茶会があるから、野菜は騙す程度に少なめに、お肉をメインにしたものを作ってきたから機嫌が良いと思っていたのに……甘味が足りなかったのかしら
こんな人がいる所でこんな宣言をするなんて馬鹿げた事を……
あっ! この話を耳にした何人かの生徒が走っていった。すぐにこの事は学園内で周知される事になるだろう。
「殿下! この事は陛下や王妃様はご存知ですか!」
お茶を飲み復活したレナートがクラウディオに迫りよる。
「私の婚約に関する事は私が決める。私の人生だからな!」
そりゃ、存じ上げないでしょうね。となると……
「……畏まりました。その婚約破棄承りました」
美しすぎるカーテシーを披露するフランチェスカ
「わかれば良い。今の瞬間からフランチェスカとは赤の他人である事をここに宣言する」
だから誰に向かって宣言してるのよ! 周りの生徒に? 全く見せ物じゃないっての! それにお相手の方も不在だし。ふぅっ。
「はい。今から赤の他人として第三王子殿下と距離をとります。わたくしはここで失礼致します」
退場は潔く! ですわね。
「フランチェスカ様!」
私を呼び追いかける足音が聞こえましたわ。
「レナート様? 何か?」
顔面蒼白のレナート。我儘王子のお世話役って大変よね。でも私はお役御免ですもの。なんだか世界が明るく感じるわ! 満面の笑みでレナートを迎えた。
「きっと冗談です……新たな冗談、です。ははははは」
乾いた笑いですわね。冗談だと思いたい気持ちもわかるけれど、現実ですもの。
「わたくしの学年は午後の授業がありませんの。今から教室に戻ってから帰宅し、この件を家族に話してから王妃様とのお茶会でこの事を話しますわね。レナート様ともお付き合いが長かったですけれど、今までお世話になりましたわ。これから学園以外でお会いする事はございませんが、お体を労ってくださいませね。あっ。そうだ、これ胃腸薬ですの。レナート様にお渡ししようと思っていたんでしたわ。この薬は胃に優しいのでオススメですのよ」
そっと薬を渡すと苦笑いをされた。
「本当に婚約破棄を受け入れるおつもりですか……」
「えぇ、お望み通りにして差し上げないと癇癪を起こされても困りますし、もう疲れましたわ。朝もゆっくりできますもの。今まで王宮で教育していただいた教師の方には私からもお詫びしておきますわ」
「そう言う問題では、」
「それではレナート様、ごきげんよう」
足取り軽く学園から帰宅するフランチェスカだった。
父は昨日領地から帰ってきたばかりで母と過ごしている事だろう。執事に両親に話があると伝えてもらい着替えてから部屋へと向かった。
「フラン、どうした? 改まって話があるなど」
「そうよ。それに今日は王宮に行く日でしょう?」
両親に心配をかける事になる。それとも怒られるだろうか……言いにくいが自分の口から言わなくてはいけない。
「今日学園でクラウディオ殿下から婚約破棄すると宣言されました。それを承りました!」
目を瞑って一気に言った。目を瞑ったのは両親の反応を見るのが怖いから……。
「「……………………」」
無言の二人。その空間に耐えられなくてそぉーっと目を開いて両親を見た。
すると二人ともにこぉ。と不敵な笑みを浮かべていた。
「そうかい、分かったよ」
「良くやったわ、フランちゃん」
「え……?」
どう言うことかわからずに、ただただ両親の次の言葉を待った。
「そもそも私は殿下と婚約をさせたくなかった! あのバカ坊は一生バカ坊だ!」
「そうよそうよ! ウチを馬鹿にしていたんだから! あの我儘クソ王子」
「そうなの? お父様もお母様も婚約を望んでいなかったの?」
バカ坊ってひどいわね。意外と隠せてないのね……
「「うん!」」
シンクロするように返事をする二人。そのあと大丈夫か? と優しく声をかけてお父様が労ってくれたし、お母様は怒りのあまり扇子を折っていた。
そしてあとは任せて良いよ。と言ってくれた。怒られるかと思っていたのに……
「ところでフラン、その格好を見る限り今から王宮に行くのだろう?」
両親に話を通してから王妃様とのお茶会へ行き、ことの成り行きを説明しようと思っていた。王宮へ行くにはそれなりのドレスアップが必要で今日のドレスは落ち着いたものを選んだ。
「はい」
「フランチェスカ……なんて強い子なんだ……よし! 私たちも行こう! 準備を!」
お母様も頷いていた。
「「「「はいっ」」」」
ささっとメイドや執事たちが動き出した。一体これから何が起きるのだろうか……でも両親が味方でいてくれると思うと安心した。
あっという間に準備が整い伯爵家の使用人の優秀さを改めて思い知った。
92
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~
ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。
しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。
周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。
だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。
実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。
追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。
作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。
そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。
「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に!
一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。
エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。
公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀……
さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ!
**婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛**
胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました
天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」
婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。
婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。
私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。
もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。
しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。
婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。
ーーーーーーーーー
2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました!
なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか
まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。
己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。
カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。
誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。
ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。
シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。
そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。
嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。
カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる