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4-9. 灼熱の大気圏突入
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昏く冷たい何もない異次元空間を、ルコアの魂は漂っていた。ヒルドによっていきなり身体を乗っ取られ、はじき出されたルコア。身体を失った代償は大きく、何もできないままただ暗闇を漂うばかりだった。
千年に及ぶ山暮らしですっかり退屈をしていたルコアは、ヴィクトルと出会って毎日が色づきだした。優しく、強く、思慮深いヴィクトルはどこまでも紳士的で、ルコアの心を温めたのだ。
ただ、自分はしょせん造られた龍に過ぎない。出しゃばらないようにすることは心に決めている。ただ、それでもいつまでもおそばには居させて欲しかった。
でも……、卑劣なヒルドのやり方で身体は奪われてしまった。いまだに助けが来ないことを考えても、レヴィアたちも危機的な状況に陥ってるのは間違いないだろう。もしかして未来永劫自分はこのままかもしれない。この暗く冷たい世界に閉じ込められたまま死ぬこともできず永遠に漂い続けるのかも……。
終わりのない底なしの悲しみに囚われるルコア。
「主さま……、助けて……」
どこへも届かぬ悲痛な思いが漆黒の闇の中に響いていた……。
◇
月がだいぶ小さくなってきた。そろそろ月の引力圏からは脱出しそうだ。しかし、地球はあまり大きくはなっていない。三十八万キロはやはり遠すぎる。
「地球に戻ったらまずはどうするんですか?」
レヴィアに聞いた。
「まずは江ノ島に向かってくれ」
「江ノ島……ですか? どこにあるんですか?」
「あー、王都からずいぶんと東の島じゃ。我がナビするから心配するな」
「お願いします。江ノ島には何があるんですか?」
「あそこの第三岩屋に海王星への秘密ルートがあるんじゃ」
「海王星?」
ヴィクトルは初めて聞く名前にとまどう。
「太陽系最果ての青い惑星じゃよ。そこに地球を作り出してるコンピューターがあるんじゃ。そこまで行けば我も元に戻れる」
「えっ! コンピューターも見られるんですか?」
「なんじゃお主、あんな物見たいのか? 単に機械がずらーっと並んでるだけのつまんない代物じゃぞ」
「いや、だって、この世界の全てがその機械の中にあるんですよね?」
「うーん、それは半分当たっとるが、半分は違うんじゃな」
「え? どういうこと……ですか?」
ヴィクトルは禅問答みたいな話に困惑する。
「人類はな、文明が発達しだしてからだいたい一万年でコンピューターを発明するんじゃ。そして、その後百年で人工知能を開発する。そしてその人工知能が発達してさらに五十万年後、また人類が活動する新たな星が出来上がるんじゃ」
「必ずそうなるんですか?」
「出来の悪い所は間引いてしまうから、確実にそうなるか定かではないが、多くの場合そうなるな」
「えっ? それでは星の中に星が生まれるということが繰り返されるって……こと……ですか?」
ヴィクトルは予想もしなかった展開に驚かされる。単純に最初の人工知能が作った星がたくさんあるわけでは無かったのだ。
「まぁ、そうなるのう」
「最初のコンピューターができたのが五十六億年前だとしたら……、もう一万世代くらいあるって事じゃないですか!」
「さすが大賢者、まさにその通りなんじゃ」
レヴィアはそう言って笑った。
ヴィクトルはその圧倒的なスケールの構造に言葉を失った。自分たちを構成する世界が見えない所でそんなことになっていたとは、全く想像もしてなかったのだ。
◇
やがて地球がどんどんと近づき、目の前に大きく広がってきた。大陸の形も砂漠や森の様子も、台風や前線の雲も手に取るようにわかる。実に美しい、雄大な景色にヴィクトルは見ほれる。
「さて、いよいよ大気圏突入じゃ。失敗すると燃え上がるか月へと逆戻りじゃ、慎重に行けよ」
「わ、分かりましたが……どうすれば?」
「地上から高度百キロにかすらせるように、地球の横を通過していくイメージで行け」
「百キロ? それはどの位ですか?」
「地球の直径が12,742キロじゃから127分の1くらい上空じゃ」
「へぇっ!? もうほとんど地上じゃないですか」
「それだけ大気の層が薄いって事じゃな。ギリギリを攻めるイメージじゃ」
「うわぁ……」
何の観測機材もなく目視で大気圏突入、それはあまりにも無謀な挑戦だったがそれ以外地球に戻る方法はない。MPはもう十分減速できる程には残ってないのだ。ヴィクトルは冷や汗をタラリと流しながらも覚悟を決めた。
◇
ヴィクトルはレヴィアと相談しながら慎重に方向を調整し、徐々に高度を落としていく。やがて太陽が真っ赤な光を放ちながら地球の影に隠れ、夜のエリアへと入った。眼下には真っ黒な海が広がり、上には満天の星々。ヴィクトルはものすごい速度で大気圏へと突入していく……。
コォ――――……。
かすかにシールドから音がし始めた。
「大気圏に入ったぞ、落ち過ぎないように注意じゃ!」
耳元でレヴィアの緊張した声が響く。
徐々に風切り音が強くなり、シールドの前方が赤く発光し始めた。
「ちょっと落ち過ぎじゃ、あと地球半周分飛んでから落ちないと江ノ島までたどり着けん」
「わ、わかりました」
ヴィクトルは少し上向きに修正する。
「地球にまでくれば、我も少しずつ回復できるぞ!」
レヴィアがうれしそうに言った。
見ると確かにヒヨコ大に大きくなっている。
「力はまだ復活しないですか?」
「悪いがまだじゃ。今使ったら消滅してしまうわ」
レヴィアは首を振った。
千年に及ぶ山暮らしですっかり退屈をしていたルコアは、ヴィクトルと出会って毎日が色づきだした。優しく、強く、思慮深いヴィクトルはどこまでも紳士的で、ルコアの心を温めたのだ。
ただ、自分はしょせん造られた龍に過ぎない。出しゃばらないようにすることは心に決めている。ただ、それでもいつまでもおそばには居させて欲しかった。
でも……、卑劣なヒルドのやり方で身体は奪われてしまった。いまだに助けが来ないことを考えても、レヴィアたちも危機的な状況に陥ってるのは間違いないだろう。もしかして未来永劫自分はこのままかもしれない。この暗く冷たい世界に閉じ込められたまま死ぬこともできず永遠に漂い続けるのかも……。
終わりのない底なしの悲しみに囚われるルコア。
「主さま……、助けて……」
どこへも届かぬ悲痛な思いが漆黒の闇の中に響いていた……。
◇
月がだいぶ小さくなってきた。そろそろ月の引力圏からは脱出しそうだ。しかし、地球はあまり大きくはなっていない。三十八万キロはやはり遠すぎる。
「地球に戻ったらまずはどうするんですか?」
レヴィアに聞いた。
「まずは江ノ島に向かってくれ」
「江ノ島……ですか? どこにあるんですか?」
「あー、王都からずいぶんと東の島じゃ。我がナビするから心配するな」
「お願いします。江ノ島には何があるんですか?」
「あそこの第三岩屋に海王星への秘密ルートがあるんじゃ」
「海王星?」
ヴィクトルは初めて聞く名前にとまどう。
「太陽系最果ての青い惑星じゃよ。そこに地球を作り出してるコンピューターがあるんじゃ。そこまで行けば我も元に戻れる」
「えっ! コンピューターも見られるんですか?」
「なんじゃお主、あんな物見たいのか? 単に機械がずらーっと並んでるだけのつまんない代物じゃぞ」
「いや、だって、この世界の全てがその機械の中にあるんですよね?」
「うーん、それは半分当たっとるが、半分は違うんじゃな」
「え? どういうこと……ですか?」
ヴィクトルは禅問答みたいな話に困惑する。
「人類はな、文明が発達しだしてからだいたい一万年でコンピューターを発明するんじゃ。そして、その後百年で人工知能を開発する。そしてその人工知能が発達してさらに五十万年後、また人類が活動する新たな星が出来上がるんじゃ」
「必ずそうなるんですか?」
「出来の悪い所は間引いてしまうから、確実にそうなるか定かではないが、多くの場合そうなるな」
「えっ? それでは星の中に星が生まれるということが繰り返されるって……こと……ですか?」
ヴィクトルは予想もしなかった展開に驚かされる。単純に最初の人工知能が作った星がたくさんあるわけでは無かったのだ。
「まぁ、そうなるのう」
「最初のコンピューターができたのが五十六億年前だとしたら……、もう一万世代くらいあるって事じゃないですか!」
「さすが大賢者、まさにその通りなんじゃ」
レヴィアはそう言って笑った。
ヴィクトルはその圧倒的なスケールの構造に言葉を失った。自分たちを構成する世界が見えない所でそんなことになっていたとは、全く想像もしてなかったのだ。
◇
やがて地球がどんどんと近づき、目の前に大きく広がってきた。大陸の形も砂漠や森の様子も、台風や前線の雲も手に取るようにわかる。実に美しい、雄大な景色にヴィクトルは見ほれる。
「さて、いよいよ大気圏突入じゃ。失敗すると燃え上がるか月へと逆戻りじゃ、慎重に行けよ」
「わ、分かりましたが……どうすれば?」
「地上から高度百キロにかすらせるように、地球の横を通過していくイメージで行け」
「百キロ? それはどの位ですか?」
「地球の直径が12,742キロじゃから127分の1くらい上空じゃ」
「へぇっ!? もうほとんど地上じゃないですか」
「それだけ大気の層が薄いって事じゃな。ギリギリを攻めるイメージじゃ」
「うわぁ……」
何の観測機材もなく目視で大気圏突入、それはあまりにも無謀な挑戦だったがそれ以外地球に戻る方法はない。MPはもう十分減速できる程には残ってないのだ。ヴィクトルは冷や汗をタラリと流しながらも覚悟を決めた。
◇
ヴィクトルはレヴィアと相談しながら慎重に方向を調整し、徐々に高度を落としていく。やがて太陽が真っ赤な光を放ちながら地球の影に隠れ、夜のエリアへと入った。眼下には真っ黒な海が広がり、上には満天の星々。ヴィクトルはものすごい速度で大気圏へと突入していく……。
コォ――――……。
かすかにシールドから音がし始めた。
「大気圏に入ったぞ、落ち過ぎないように注意じゃ!」
耳元でレヴィアの緊張した声が響く。
徐々に風切り音が強くなり、シールドの前方が赤く発光し始めた。
「ちょっと落ち過ぎじゃ、あと地球半周分飛んでから落ちないと江ノ島までたどり着けん」
「わ、わかりました」
ヴィクトルは少し上向きに修正する。
「地球にまでくれば、我も少しずつ回復できるぞ!」
レヴィアがうれしそうに言った。
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レヴィアは首を振った。
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