【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

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本編

27.図書館

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 久しぶりに訪れた王立図書館で会ったのは、意外な人物だった。

「あら、お勉強?」
「いいえ…前に借りた本の返却に」
「ああ、そう」

 それだけ答えるとミレーネ・ファーロングは私の手元に目をやる。すっかり返却期限が切れたそれらの本を爆弾のように抱える私を見て、ミレーネは少し笑った。

 美しいプラチナブロンドの髪が揺れる。

「良かったら一緒にお昼でもどう?もちろん、それを返した後で」
「え?」
「時間がないならべつに良いけど」
「時間は…あります」
「じゃあ、決まりね」

 読んでいた本を閉じてミレーネは立ち上がる。
 入り口で待っている、と言われたので私はおずおずと頷いて返却カウンターへと向かった。期限を過ぎた本はもちろんめちゃくちゃ怒られた。次にしでかしたら貸出カードを没収するという脅しに何度も謝罪を繰り返して、ようやく解放された。

 ミレーネは宣言通り入り口に居た。
 白いロングスカートが風でふわふわと靡いていて、道行く人が彼女を振り返っている。恋愛小説の主人公になれる女の子というのは、きっとこういう人のことを言うのだと思う。

 小さな鞄に可愛いピンク色のバレーシューズ。
 大きな荷物なんか、持ち運ばなくて良い。
 だって男が持ってくれるから。

 私は自分が背負うリュックの肩紐を引っ張って、ミレーネの方へ近付いた。私に気付いた彼女は笑顔を見せる。花が咲いたように周囲の空気が和んだのを感じた。

「近くのカフェで良い?キッシュが美味しいの」
「はい…」

 並んで歩きながら、私はミレーネの話に耳を傾けていた。
 高飛車で高慢だと勝手に思っていたミレーネ・ファーロングはなんと鉱物が好きで、自ら調べて採掘ツアーに出掛けたりすることもあるらしい。

「貴方の趣味は?好きなものは何?」
「……私は、」

 言って良いものか悩んだけれど、私はポケットからカミュを取り出してミレーネに見せた。母が遺してくれたもので、とても大切にしている人形なのだと教える。

 馬鹿にされるのではないか、と少し不安に思ったけれど、ミレーネは再び笑顔を作ってカミュの小さな手に触れた。

「初めまして、カミュ。ミレーネよ」
「………!」
「可愛いおててね。それにすごくふわふわ。きっと、あなたはイメルダに大事にされているのね」
「ありがとう……」

 私は自分の偏見を恥じた。
 別荘の化粧室で出会った時の会話だけを切り取って、勝手に悪い印象を持っていた。実際のミレーネは、私が大切にしているものを尊重してくれる。そのような人たちが本当に優しいことを私は知っていた。

 レナードも、また、そういう人だったから。

「年も近いし、敬語はやめてね。気軽に話して」
「ごめんなさい…貴女のことを誤解していたの」
「あら?そうなの?」
「殿下と結婚されるのよね。おめでとう、本当に…本当にすごくお似合いだと思う……」

 心の底からの祝福だった。
 しかし、ミレーネは何か考えるような顔を見せる。

 私は、目の前のこの美しい人はいったい何故急に黙り込んでしまったのかと心配になった。ミレーネは小さな鞄からメモのようなものを取り出してペラペラと捲る。

「あの…イメルダ?」
「どうしたの?」
「聞いた話では、貴女って婚約を破棄されたのよね?」
「……ええ、そうよ」
「品のない話で悪いけれど、6000万ペルカで婚約を解消したとか…?」
「そう…だけど……?」

 ふむ、とミレーネは再び考える素振りを見せる。
 私は誤解を生まないように慌てて口を開いた。

「ミレーネ、実はこの話には続きがあって、私は実際は6000万ペルカなんて貰っていないの!」
「え?」
「マルクスと話し合いうことがあって……返済はしない方向で承諾したの。持参金の2000万は受け取ったのだけど……」
「まぁ、そうなの?」

 さすがにレナードとのことまで口を滑らすことはしなかったけれど、6000万ペルカに何やら興味を持っている様子のミレーネに嘘を吐くような真似は出来なかった。

 その後も、私たちはお互いのことを話し合い、私は今度ミレーネの家にお茶をしに行くという約束をしてその日は解散となった。


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