【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

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番外編

『溺愛以外お断りです!』14

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 王宮へ戻る車の中で、私はデリックから聞いた話をレナードに伝えた。孤児院で得た南部の黒百合会の存在、そしてセイハム大公とその関わりについて。

「デリックは大公が懇親会の参加を断ったと言ったわ。それはつまり誘いがあったということ。誰でも入れる会合ではないから、何か関係はあるはず」
「なるほどな……」
「証拠が必要だけど、」
「俺は今日、セイハム大公に会ってたんだ」
「え?」

 私はビックリして隣に座るレナードを見る。
 窓ガラスには今や大粒の雨が叩き付けていた。

「南部の情勢を知りたいからと、俺の方から誘った。大公は時間通りに来てくれて話に応じてくれたよ」
「………そう」
「ワインが有名な店でね。昼時だったけど一杯どうかと誘ってみた。下戸だという理由で断られたけど」
「それって、」

 レナードは小さく頷いた。

「ああ。黒百合会については俺だって多少は知ってる。組織に属する者は血を分けた兄弟としか葡萄酒を飲まない。葡萄酒は兄弟の結束を表すから」
「……じゃあ、やっぱり!」
「それだけじゃ足りない。でもね、大公が去り際に椅子から立ち上がる際に俺が水を引っ掛けたんだ。これは意図的じゃなかったんだが、偶然で」
「どうなったの……?」
「申し訳ないことに大公のズボンの裾に掛かってしまってね、だけどお陰で見ることが出来た。足首に入った黒い百合の紋章を」
「………っ!」

 それは何より確かな証明。
 黒百合会のメンバーが身体に百合の紋章を入れるという話はどうやら本当だったらしい。私は高鳴る胸を手で押さえてレナードの話の続きを待った。

「しかし、大公が黒百合会に関わりがあるとして、今回の爆発の犯人であるとは言い切れない」
「ええ……そうね」
「今日爆発を予定していて俺と会うと思うか?」
「アリバイを作りたかったのかしら?」
「彼は急いでいる風でもなかった」
「………ううん…」
「或いは大公が、誰かを操っているか」

 レナードが小さく溢した時、車のドアが開いた。

 気付かないうちに王宮に到着していたようで、私は慌てて車から降りる。使用人によると、もうグレイスたちは此処に避難しているようで、私は早く友人の無事を自分の目で確認したくて足を急いだ。

 雨足は強くなって、美しい庭も今や荒れ狂ったようにその姿を乱している。ぬかるんだ道を歩きながら、どんな言葉を掛ければ良いか考えた。

 不安な時いつもそばで支えてくれたグレイス。
 彼女のピンチに私は何が出来るのか。

 任せてほしいと言ったのにこの有り様。



「イメルダ……!」

 案内された部屋に入るとすぐにグレイスが抱き付いてきた。私はその小さな背中を撫でながら謝罪の言葉を述べる。グレイスは今まで私が見たことがないぐらい恐怖に怯えていた。

「急だったの、本当に一瞬で…!大きな音がして、私が窓から見た時にはもう西の倉庫が……!」
「暫くは一緒に居ましょう。今戻るのは危険だわ」
「だけど私の大切な原稿はまだ屋敷にあるのよ!」

 その時、涙ぐむグレイスの背後から眼鏡を掛けたメイドが進み出た。

「グレイスお嬢様」
「なぁに、ドルーシャ?」
「私が皆を代表してお屋敷に戻りましょう。軍で看護師をしていた経験がありますので、薬品など何か不審な匂いがしたらすぐ知らせます」
「助かるわ。ありがとう…!」

 大きく頷くグレイスに向かって「旦那様と奥様にもお伝えして参ります」と言い、そのメイドは下がった。私は一人首を傾げる。というのも、今まで何度もグレイスの家を訪れたことがあるけれど、彼女は初めて見る顔立ちだったから。

「グレイス……彼女は新しく雇用されたの?」
「ええ。脅迫状が届いた話が屋敷に広まってね、何人か続いて辞めてしまったのよ。そこでお父様が急遽募集を掛けて雇ったうちの一人よ」
「……そうなのね」

 これで一安心だわ、と胸を撫で下ろすグレイスの声を聞きながら私は部屋を出て行くメイドの後ろ姿を追う。平均より高い背丈に真っ直ぐ伸びた背筋、礼儀を重んじるメイドが皆そうであるように、彼女もきちんと制服を着用している。

 そこでふと、包帯を巻かれた右手が目に入った。

「ねぇ、あのメイドは怪我をしたの?」
「んー?」
「彼女の手、包帯をしてたわ」
「爆発の程度を確認しに行ったときに破片で切ったらしいの。正義感が強いけどおっちょこちょいなのね」

 誰かさんに似てる、とグレイスが笑ったのを適当に躱して、私は目でレナードを探した。デ・ランタ家の使用人と王宮で働く使用人たちが入り混じった空間は混雑しており、なかなかレナードの顔が見つからない。

 人混みを縫うように進んで、ようやくコーネリウス国王と話す婚約者の姿を見つけた。

「レナード!」
「どうしたんだ、イメルダ?」

 驚いた顔をするレナードに私は先ほど見たデ・ランタ家の新しいメイドの話をする。彼女の大まかな特徴を添えて、自分の憶測を伝えた。

「………手放しで信用出来ないけど、疑うべきはってやつだね。話ぐらいは聞いてみても良いだろう。何か詳しいことが分かるかもしれない」

 レナードが頷き、私たちは揃って部屋を出る。廊下の先を歩くメイドの姿が扉を潜って建物の外へ出たのを見て、顔を見合わせて駆け出した。

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