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37話
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歩き疲れたのかどれだけ寝ても寝足りない。
何度か目は覚めてもウトウトしてまた目が閉じてしまう。
誰かの優しい手が頭を撫でているのに気がついたけど、瞼が重く意識はぼんやりとしてまた眠ってしまった。
いつの間にか外は真っ暗になっていた。
みんな気を遣って私を起こさないで寝かせてくれていたようだ。
テーブルには軽食がそっと置かれていた。
ベッドから出てソファに座り置かれていたグラスにピッチャーからリンゴジュースを注いだ。
冷たくて甘いリンゴジュースはお腹が空いていた空っぽの胃と喉の渇きを一気に潤してくれた。
「美味しい……」
あまりの美味しさにもう一杯飲んでいると、扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
「ビアンカ様、起きられましたか?」
メイド長の優しい声が聞こえてきた。
ふわっと部屋の中が温かくなるのを感じた。
「うん、やっと目が覚めたわ」
「背中の痛みはどうですか?」
「………知っているの?」
「奥様から話は聞きました」
メイド長はソファの後ろに立つと「一度拝見してもよろしいですか?後で入浴後お薬を塗って包帯を付け替えさせてください」と言った。
メイド長の前なら見せても大丈夫だと思い、「見てもらってもいいかしら?」とメイド長へ背中を向けた。
メイド長の手が震えているのに気がついた。
包帯を外してもらい背中の傷を見たメイド長は言葉を失っていた。
「……あっ…………こん…な……」
自分の背中がどうなっているかなんて見ることはできない。
でもかなり痛々しいのだろうと窺える。だって痛みは治ってもまだ傷は引き攣っているし、薬を塗り包帯をしていなければヒリヒリと痛む。
「入浴の準備ができております。お手伝いさせていただきますのでどうぞお入りになってください」
「うん、ありがとう。久しぶりに歩いたから汗をかいたの。助かるわ」
「…歩いた?」
「……………どうやってここまで帰ってくるの?」
「馬車を出してもらわなかったのですか?」
「たくさんご迷惑をかけたのよ?そんなに甘えてはいけないわ」
「ならばこちらに連絡していただければ用意しましたのに」
「私は久しぶりに歩きたかったの。少し疲れたけどとても気分がよかったの」
これは嘘ではない。歩いていて楽しかった。
ただ、体調がまだ良くなかったので、キツかったけど。
言わなければメイド長にはバレないし、もう心配はかけたくない。
その後メイド長は何も言わなかった。
ただ、背中の傷を触らないように気をつけながら入浴の手伝いをしてくれた。
本当は自分で入れるのだけど、断ろうとしたらメイド長が悲しそうな顔をしたので断りきれなかった。
メイド長は私のことを娘のように可愛がってくれた。侯爵家でこうして幸せに過ごせたのは彼女のおかげだ。
彼女が可愛がってくれたから他の人たちも私に対して優しく接してくれた。
お風呂から上がるとすぐに背中に薬を塗り包帯を巻いてくれた。
服を着替え、髪の毛を乾かしてくれた。
お母様がいたらこんな感じなのかしら?
彼女からほのかに匂う優しい香水の匂いが、心を落ち着かせてくれる。
「メイド長、ありがとう。綺麗になったし、この後侯爵様と侯爵夫人にご迷惑をおかけしたのでお詫びに行きたいのだけど、お二人はお忙しそうかしら?」
「ビアンカ様が今日帰ってこられたことは伝えてあります。後でご都合の良い時間を聞いてまいります……まだダイガット様はお帰りになっていなようです」
ダイガットのことは聞いてないし、彼のことはどうでもいいのだけど。
と言いたかったけど、その言葉は飲み込んだ。
一応私、彼の妻なんだもの。メイド長からすれば夫のことを伝えるのは当たり前なのよね。
メイド長が二人の都合を聞くため部屋から出て行ったので、デーブルに置いてあった軽食をつまんで待つことにした。
何度か目は覚めてもウトウトしてまた目が閉じてしまう。
誰かの優しい手が頭を撫でているのに気がついたけど、瞼が重く意識はぼんやりとしてまた眠ってしまった。
いつの間にか外は真っ暗になっていた。
みんな気を遣って私を起こさないで寝かせてくれていたようだ。
テーブルには軽食がそっと置かれていた。
ベッドから出てソファに座り置かれていたグラスにピッチャーからリンゴジュースを注いだ。
冷たくて甘いリンゴジュースはお腹が空いていた空っぽの胃と喉の渇きを一気に潤してくれた。
「美味しい……」
あまりの美味しさにもう一杯飲んでいると、扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
「ビアンカ様、起きられましたか?」
メイド長の優しい声が聞こえてきた。
ふわっと部屋の中が温かくなるのを感じた。
「うん、やっと目が覚めたわ」
「背中の痛みはどうですか?」
「………知っているの?」
「奥様から話は聞きました」
メイド長はソファの後ろに立つと「一度拝見してもよろしいですか?後で入浴後お薬を塗って包帯を付け替えさせてください」と言った。
メイド長の前なら見せても大丈夫だと思い、「見てもらってもいいかしら?」とメイド長へ背中を向けた。
メイド長の手が震えているのに気がついた。
包帯を外してもらい背中の傷を見たメイド長は言葉を失っていた。
「……あっ…………こん…な……」
自分の背中がどうなっているかなんて見ることはできない。
でもかなり痛々しいのだろうと窺える。だって痛みは治ってもまだ傷は引き攣っているし、薬を塗り包帯をしていなければヒリヒリと痛む。
「入浴の準備ができております。お手伝いさせていただきますのでどうぞお入りになってください」
「うん、ありがとう。久しぶりに歩いたから汗をかいたの。助かるわ」
「…歩いた?」
「……………どうやってここまで帰ってくるの?」
「馬車を出してもらわなかったのですか?」
「たくさんご迷惑をかけたのよ?そんなに甘えてはいけないわ」
「ならばこちらに連絡していただければ用意しましたのに」
「私は久しぶりに歩きたかったの。少し疲れたけどとても気分がよかったの」
これは嘘ではない。歩いていて楽しかった。
ただ、体調がまだ良くなかったので、キツかったけど。
言わなければメイド長にはバレないし、もう心配はかけたくない。
その後メイド長は何も言わなかった。
ただ、背中の傷を触らないように気をつけながら入浴の手伝いをしてくれた。
本当は自分で入れるのだけど、断ろうとしたらメイド長が悲しそうな顔をしたので断りきれなかった。
メイド長は私のことを娘のように可愛がってくれた。侯爵家でこうして幸せに過ごせたのは彼女のおかげだ。
彼女が可愛がってくれたから他の人たちも私に対して優しく接してくれた。
お風呂から上がるとすぐに背中に薬を塗り包帯を巻いてくれた。
服を着替え、髪の毛を乾かしてくれた。
お母様がいたらこんな感じなのかしら?
彼女からほのかに匂う優しい香水の匂いが、心を落ち着かせてくれる。
「メイド長、ありがとう。綺麗になったし、この後侯爵様と侯爵夫人にご迷惑をおかけしたのでお詫びに行きたいのだけど、お二人はお忙しそうかしら?」
「ビアンカ様が今日帰ってこられたことは伝えてあります。後でご都合の良い時間を聞いてまいります……まだダイガット様はお帰りになっていなようです」
ダイガットのことは聞いてないし、彼のことはどうでもいいのだけど。
と言いたかったけど、その言葉は飲み込んだ。
一応私、彼の妻なんだもの。メイド長からすれば夫のことを伝えるのは当たり前なのよね。
メイド長が二人の都合を聞くため部屋から出て行ったので、デーブルに置いてあった軽食をつまんで待つことにした。
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