あなたの愛はもう要りません。

たろ

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49話

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「ごめんなさい………今はもうこれ以上話を聞きたくない……」

 継母の鞭の音が頭の中で鳴り響く。

 地面に鞭を打つあの音が聞こえると体が震えてきた。
 最初は痛いと思うくらいで我慢できた。だけど少しずつ痛みは増していく。

 継母とはできるだけ屋敷で顔を合わさないように静かに自分の部屋で過ごしていた。

 でも、書類の仕事を無理やり押し付けられ、間違いがあると呼ばれ鞭で叩かれた。

 それは少しずつ激しくなり、お父様は気づかないのか気づいても知らんぷりしているのか、助けてくれることはなかった。

 おかげで心は強くなった。泣き続けるよりもこの地獄から這い出してやるんだと思っていた。

 でも……お母様が殺されたことだけは許せない。お父様はお母様を愛していたはずなのに、継母とすぐに再婚した。

 それは知らなかったから?それとも知っていて継母を選んだの?

「一気にいろんなことを話し過ぎた……すまなかった……」
 殿下は肩を落とし項垂れていた。

 私は「違う」と小声で答え首を横に振った。

 殿下にもっと言いたいことはあった。

 私なんかのために夢を捨ててくるなんて……どうか国に帰ってほしい。

 貴方の夢を私なんかのために諦めないで!

 なのに、ずるい私は彼が傍にいてくれることを心強く感じてしまった。

 大好きだった人を諦めないですむかもしれない。そんな安堵感が一瞬湧いた……でもそれは私の幸せであって彼のためにはならない。

 これまでの彼の努力を簡単に捨て去ることはできない。

 私は殿下を拒否した。

 部屋から追い出し、彼に会いたくないと祖母に伝えてもらった。

 旅の疲れからなのか、精神的なショックのためなのかまた熱が出てしまった。

 背中の傷はもう治ったのに、継母に叩かれてきた腕や背中、太腿などがまた不思議に痛みを感じた。

 熱にうなされていただけなのに、体中が痛い。

 お祖母様が何度も心配して部屋に来てくれた。

「心配をおかけして申し訳ありません」

 弱々しく声を出す私を見てお祖母様は哀しみの色を浮かべた。

「心配くらいさせてちょうだい。ずっとずっと心残りだったの……貴女をあの国からどうして助け出さなかったのかと……そうすれば今頃貴女はこの国で学校に通い笑いの絶えない日々を過ごせたはずなのに……ごめんなさい。
 伯爵からビアンカを取り上げるのは彼の絶望と悲しみに追い打ちをかけてしまうと思ってしまった私の判断ミスだったわ」

 お祖母様は私のことを忘れてはいなかったんだ……

 それだけでも嬉しかった。

「お祖母様……私……使用人達には恵まれたんです。みんな家族のように優しく接してくれました」

「…………少しは幸せに暮らせたの?」

「はい、みんな優しかったです」
 
 お祖母様は涙ぐみながら私の手を握った。

「まだ手がとても熱いわ。熱がなかなか下がらないわね?もう一度お医者様を呼びましょう」

「寝ていれば大丈夫です……」

「何を言っているの?フェリックスがビアンカに色々話したことは知っているわ。いきなり話さないように言ったのに……貴女の顔を見たら我慢できなかったのね……」

「殿下が……王太子を辞めたなんて言い出したんです……そんなこと絶対駄目です、殿下は本当に努力をされてきたんです。私は幼い頃彼の努力を横で見てきたんです」

 涙が止まらない。何よりも受け止められない事実だった。








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