あなたの愛はもう要りません。

たろ

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68話 ダイガット。

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「俺は……真実を自分の目で見たい」

「そんな体で?まともに歩けもしないのに?」

 吐き捨てられるように言われた父上からの言葉。

「本当に殿下は王太子ではなくなったのですか?」

「殿下は……いやフェリックス様はもうこの国にはいない」

「どこへ?」

「……ビアンカのところへ行った」

「殿下がビアンカのところへ?なぜですか?」

 意味がわからない。どうして?

「全てを捨てて好きなひとを追いかけたんだ。お前には出来ないことだ」

「好きなひと?殿下がビアンカを?」

 ビアンカは俺にとって初恋の人……もしかして殿下も?

 二人は確かに子供の頃仲が良かった。でもそれは母親同士が従姉妹だからのはず……それに二人に最近は接点などなかった。

 俺は側近候補として殿下のそばにいたのだから二人が仲が良ければ気づくはずだ。

 ………ああ、そうだ………

 殿下は俺とフランソアの関係にも気がついていたのか……そしてビアンカと俺の仲の悪さにも………

 俺はベットの上でひとり取り残されたまま、痛みの中色々と考え込みながら過ごしていた。

 父上はあれから俺の部屋に来ることはない。

 母上なんて一度も会いにきてくれない。

 俺がこんな酷い目にあっていると言うのに。

「ダイガット、ねぇ、退屈なの」

 フランソアが食事を持ってきて暇そうに部屋の中で「はああ」とため息をついた。

「退屈?」

「だって、ダイガットが体調悪いじゃない?だからわたくしは看病しないといけないの。
 お父様が結婚するのだからダイガットの世話はわたくしの仕事だって言うのよ。
 でもね、わたくし、お洒落してお買い物に行ったりお友達とお話ししたりしている方が楽しいの」

 何を言っているんだ?俺の世話が嫌なのか?

「………だったら遊びに行けばいいだろう?」

「そうよね?そう思うわよね?ダイガットならそう言ってくれると思っていたの」

 両手を握って「ふふっ」と笑うフランソアを見ていつもなら可愛いと思えたはずだ。
 なのに今の俺はイラッとしかしない。
 なんなんだ、この女、よく見ると化粧が濃くないか?

 なんで肌がこんなに荒れてるんだ?

 それに体調が悪く横になっているのも辛い俺に、「暇だ」「退屈だ」と言い始め、「今度プレゼントは宝石がいい」「侯爵家で婚約パーティーをする時はぜひ王族にも出席してもらえないかしら?わたくしの美しさをたくさんの人に見てもらいたいの」「ドレスはもちろん有名デザイナーにお願いしてね」などと言い出した。

 今までならフランソアの頼みなら大切な幼馴染だし、守ってやらないといけないし、いくらでも聞いてやろうと思っていた。

 でも目の前にいるのはただ綺麗に着飾っているだけのフランソア。
 フリルとリボン多めのピンクのドレスに厚化粧をして香水をぷんぷん臭わせて、おねだりする時だけ俺のそばに来て甘ったるい声で囁く。

「………看病したくないなら出て行ってくれ!俺は静かに横になりたい」

「酷い!今までのダイガットはそんなこと言わなかったわ!
 ビアンカ様がいなくなったから?ビアンカ様に何か言われたの?ビアンカ様はいつもわたくしに『ダイガットに近づかないで』と睨んでいたのよ?いつもわたくしを見下していたわ!
 やっと彼女が居なくなって貴方の隣はわたくしだけのものになったのに!もうわたくし達の愛の間に邪魔者はいないのよ?」

 下手な演技を見させられているようだ。
 泣いているのに涙すら浮かんでいない。
 それに言っていることの意味がわからない。

 これが、俺がビアンカを失ってまで得た幸せなのか?

 俺は体調不良が治ったらビアンカにどうしても会いたい。

 その想いだけでこの鬱陶しい日々を我慢して過ごした。




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