【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

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38話  もう一人のアイシャ

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前世のわたしの記憶が次々と頭の中に入ってくる。

辛いこと悲しいこと、14年間の人生が駆け足でわたしの頭の中に入ってきた。

気持ち悪い、頭の中がぐるぐる回って吐き気がした。

なんて辛い人生だったのだろう。

なのに死ぬ数ヶ月だけは、とても幸せだった。

キリアン君、エマ様、サラ様、ジャン様、そしてゴードン様。

素敵な人たちと出会い幸せをもらっていた。

でもわたしは死を選んでいた。

その死を見届けたのが、お祖父様でもあるカイザ様。
お母様でもあるリサ様だった。

わたしは……お母様の子供だけど……転生をして生まれた子で本当の子供ではなかった。

ああ、だからお母様はわたしを見る目が冷たいことがあるんだ。
スッと腑に落ちた。

わたしがいくら努力して三人と仲良くしようと頑張っても他人だったのだ。
お母様……ううん、リサ様のお腹に入ってしまって生まれ変わっただけだったのだ。

お祖父様は、カイザ様だった。

ああ、もうこのまま目覚めることなくわたしはこの夢の世界で過ごそう。

とても温かくて気持ちが穏やかでいられる。

何の苦しみもなく悲しみもなく、無理して笑わなくてもいい。

もう生きている必要はない。

だって死にたいと願い、死んだのだから……

もう頑張らなくていいんだ。

もう一人のアイシャとわたしの記憶が一つになった。


わたしはもう一人のアイシャに話しかける………

『アイシャ……どうして生まれ変わったの?
わたしね、もう疲れたの……この場所でゆっくり過ごしたい……』

もう一人のアイシャはわたしを見つめて悲しそうにしていた。

『アイシャのこと忘れていてごめんね。わたしがアイシャを忘れたらアイシャの存在が消えてしまうわよね。わたしはもう貴女を忘れないわ………一緒にこの夢の中で過ごしましょう……』

もう一人のアイシャは何も答えてくれなかった。

ただ悲しそうにわたしを見つめていた。





◇ ◇ ◇

アイシャ様が意識を失った。
俺は慌ててアイシャ様を抱き抱えてアイシャ様の部屋に連れて行きベッドに寝かせた。

ぐったりしたアイシャ様はびくとも動かない。

「アイシャ!何故目覚めないんだ?」

数時間経っても目覚めないアイシャ様に、カイザ様が真っ青になって「癒し」の魔法をかけた。

でもアイシャ様は、死んだように寝ている。
いや、死にかけているのかもしれない。

体温が下がり、微かに息をしているだけ。

何度もメリッサと俺はアイシャ様の名前を呼んだ。

「アイシャ様!」

だが全く反応しない。

メリッサはアイシャ様のそばを離れようとしなかった。
寝ているアイシャ様の体を拭いて、毎日綺麗に着替えさせた。
そしてアイシャ様が好きな本を読んで聞かせた。

俺は何もしてあげられずアイシャ様に毎日話しかけた。
アイシャ様の小さい頃の思い出や今日の天気。
俺の子供の時の話やヴィズから聞いた学園での出来事。

でもアイシャ様は指一本動かさなかった。

ミケランはそんなアイシャ様の顔をペロペロ舐めて
「ニャーニャー」
と話しかけては反応がないので諦めて寝る、というのを繰り返していた。

そして、意識を取り戻さないまま二週間が過ぎてしまった。

その間、カイド様はリサ様とハイド様に連絡を入れた。

さすがの二人も慌ててアイシャ様に会いにきた。

「アイシャ!起きて!」
リサ様は自ら「癒し」の魔法を何度もかけてくれた。

でもなんの効果もなかった。

ハイド様はどうしてあげることもできずにアイシャ様に優しく話しかけた。

「アイシャ、すまなかった。屋敷で辛い思いをしていたんだね……使用人達から陰で貰い子だと噂されて笑われていたと知ったよ。ターナはことある毎にアイシャを馬鹿にして意地悪なことを言ってたらしいね。辛かったのにいつも笑顔でよく我慢したね」

そう言ってアイシャ様の頭を優しく撫でられていた。

リサ様はハイド様の話を聞いて、横でなんとも言えない顔をしていた。

「……嘘よ、ターナはアイシャを慕っていたはずよ!ターナがそんなことをするはずはないわ。使用人達のことだってわたしはきちんと調べたのよ?」

「ここで君と言い合いをするつもりはない。アイシャを虐げていたのはターナと使用人、それとクリス殿下、最後にリサ、君自身だった。
そして仕事に追われて家のことに無関心だった僕も同罪だ」

「わたしがアイシャを虐げていた?何を言っているの?わたしはアイシャを育ててあげたのよ?不幸にして亡くなったアイシャを愛してあげたのよ?」

「大きな声を出さないでくれ。アイシャに君のそんな酷い言葉を聞かせたくない」

「酷い言葉?何が?わたしはアイシャを大切に育ててあげたの!怒ったこともない、叱ることもない、鞭で叩いたこともないわ!きちんと食事だって与えてあげたわ」

「君のその言葉を今魔法で記録した。君の言った言葉を君がもう一度聞いてごらん」



『酷い言葉?何が?わたしはアイシャを大切に育ててあげたの!怒ったこともない、叱ることもない、鞭で叩いたこともないわ!きちんと食事だって与えてあげたわ』

リサ様は眉間に皺を寄せてイライラとしていた。

「おかしいところなんてないわ」

リサ様はそう言い切った。



この人はわかっていない。

母親なら「してあげる」なんて無意識に言わない。

子どもへの愛情があるなら
「愛してあげた」ではなくて「愛している」のはず。

「育ててあげた」ではなく「育てている」だ。

でもリサ様はアイシャ様のこの姿を見ても心配どころか面倒臭そうに母親をしている。

あー、この人はアイシャ様の母親ではなく仕方がなく母親の役をしているのだ。

俺は後ろで二人の会話を黙って聞きながら悔しさで本当は怒鳴りあげたいのを我慢してなんとかこの場をやり過ごすしかなかった。
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