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(まだ)離縁しません
中編 3
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クッキーを焼き終わり、冷やしていたらリナが「フラン様がお戻りになりました」と言いに来てくれた。
「あら?帰ったの?」
半日会えなかっただけでなんだか寂しくて玄関まで迎えに行く。
「お帰りなさい」
フランは馬車を降りたばかりで玄関の方へと視線を向けた。
わたしと目が合うなり「クソババア!」と叫んでわたしに向かって走ってきた。
ーーえ?ここで抱きしめる?それとも抱き上げた方がいいかしら?
わたしはちょっと浮かれてた。
まさか……足で蹴られると思わなかった。
「い、痛い!」
「おまえなんか嫌いだ!この屋敷からでていけ!」
わたしの体を小さな手で何度もポコポコと叩く。
ーーえ?なに?
少しは痛いけど子供の力。さほど痛くはないけど……何故か心が痛い。
だっていつもみたいに生意気な『クソババア』ではなくわんわん泣きながらわたしを叩いているんだもの。
わたしまで胸が痛くなる。
フランは泣きながらわたしのスカートに顔を埋めた。
「おかあさま、もうぼくだけの、おかあさまじゃないって」
スカートに顔を埋めたままフランは悲しそうに言った。
「うううっ、わーーーん!!!」
フランが泣いてる。わたしはどうすることもできなくてひたすら頭を撫でた。
途中足で蹴られたり太ももをポコポコ叩いたりするフランに内心(それはやめて)と思いつつも、フランの気持ちを考えると何も言えない。
旦那様とフランの母のシェリーゼ様は政略結婚で互いに愛情のない結婚生活だった。
フランが生まれて一年してシェリーゼ様は離縁して恋人だった男爵家の次男坊と再婚したらしい。
お金はあまりないけど愛がある。
そんな結婚をして今は幸せに暮らされているそうだ。そして、多分、フランの話を聞いて想像するに、シェリーゼ様は妊娠されたのだろう。
フランは今までのように毎月一回会うのも難しい?それとも自分だけのおかあさまが知らない人になった気分なのかな?
生意気で口が達者なフラン。だけど中身はまだまだ4歳だもの。
楽しみでやっと会えた母親が幸せそうに『あなたに兄弟ができるのよ』と言われて、悲しかったよね?
「フラン、やけ食いって知ってる?」
「……………やけぐい?」
泣きながらうるさそうにしながらも一応返事をしてくれた。
「そう、腹が立ったり悔しかったり悲しかった時、大好きなものをお腹いっぱい食べるの。そうするとその嫌な気持ちも遠くにいっちゃうの」
「…………うそじゃないよね?」
「嘘ではないわ。わたしもお父様とお母様が死んじゃった時、悲しくて辛くて普通の人はご飯食べれなくなるくらい落ち込むらしいのだけど、わたしは二人の写真の前で二人の好きな料理を『いいでしょう?』『これ美味しいのよね?』『食べたかったら早く戻ってきてよ』なんて言いながらやけ食いしたの」
「アンナ、おとうさまとおかあさま、しんじゃったの?」
「うーん、そう。だから悲しい気持ちはちょっと違うけどわかるわ。フランはお母様が大好きだものね」
「うん、だいすき、なのに………」
フランは思い出してまた目がうるうるとし始めた。
ーーやばい!また大泣きする!
うるさいし、泣き止ますの大変なの!!
「ほら、やけ食いには準備がいるの!フラン!やけ食いの手伝いをしてちょうだい!わたしも一緒にやけ食い手伝ってあげるから!」
「……………わかった」
二人で厨房へ行ったら、フランが妙に張り切り出した。
「やけ食いするのでおかし、ちょうだい!」
料理長にいきなりそんなことを言うから「はっ?」と変な声を出してフランの後ろにいるわたしをジトっとみた。
「あーーーー、フランがちょっと落ち込んでいるから、やけ食いすれば嫌なことなんて忘れるかなと思って、ほほほほ」
笑って誤魔化すとフランがわたしを見上げながら「アンナもやけ食いしたって!おとうさまとおかあさまがしんだとき!」と大きな声で言った。
一瞬シーーンと厨房がなった。
ですよね?両親が亡くなってやけ食いなんて普通しないものね。でも、わたしはやけ食いした。
『借金残して死ぬなよ!』
『アルバードどうやって育てるのよ!』
『借金取りがどんどんくるんだけど!』
一人でぶつぶつ言いながらやけ食いした。
さっきフランに話した『いいでしょう?』『これ美味しいのよね?』『食べたかったら早く戻ってきてよ』も確かに言ったけど。
流石にフランに借金の愚痴を写真の両親にぶつけてやけ食いしたなんて言えないもの。
でもその次の日、決心できたんだよね。全て手放そうと。
大切な思い出の屋敷も。物も。
おかげで今は三年間、雨風凌げる屋敷で暮らせて、生意気だけど可愛い天使と暮らせているもの。
感謝しなきゃ。
そして二人でやけ食いしたら………
お腹壊して大変な思いをした。
さらに胃はムカムカするし辛かった。
旦那様が不調のわたしのところに来て
「アンナ、やけ食いはほどほどにしなさい。フランはお腹いっぱいにすぐなったからなんにもなかったけど、君はもう大人なんだから。体調崩すまで食べてどうするんだ」
と説教された。
体調悪くてスープしか飲めないわたしに、この屋敷の天使は『お菓子食べる?』とわたしが寝ているベッドにわざわざ食べ物を持ってきて、目の前で美味しそうに食べている。
「お行儀悪いからここで食べるのはやめなさい」
胃がムカムカしながら注意すると『リン達に、ぼく、アンナがしんぱいなの』と言ったら『まあ、なんておやさしい』と言って部屋に入れてくれるよ?だって。
『おみまいのおかしもっていっていいよって!』だって。
天使が今日も悪魔に見えた。
「あら?帰ったの?」
半日会えなかっただけでなんだか寂しくて玄関まで迎えに行く。
「お帰りなさい」
フランは馬車を降りたばかりで玄関の方へと視線を向けた。
わたしと目が合うなり「クソババア!」と叫んでわたしに向かって走ってきた。
ーーえ?ここで抱きしめる?それとも抱き上げた方がいいかしら?
わたしはちょっと浮かれてた。
まさか……足で蹴られると思わなかった。
「い、痛い!」
「おまえなんか嫌いだ!この屋敷からでていけ!」
わたしの体を小さな手で何度もポコポコと叩く。
ーーえ?なに?
少しは痛いけど子供の力。さほど痛くはないけど……何故か心が痛い。
だっていつもみたいに生意気な『クソババア』ではなくわんわん泣きながらわたしを叩いているんだもの。
わたしまで胸が痛くなる。
フランは泣きながらわたしのスカートに顔を埋めた。
「おかあさま、もうぼくだけの、おかあさまじゃないって」
スカートに顔を埋めたままフランは悲しそうに言った。
「うううっ、わーーーん!!!」
フランが泣いてる。わたしはどうすることもできなくてひたすら頭を撫でた。
途中足で蹴られたり太ももをポコポコ叩いたりするフランに内心(それはやめて)と思いつつも、フランの気持ちを考えると何も言えない。
旦那様とフランの母のシェリーゼ様は政略結婚で互いに愛情のない結婚生活だった。
フランが生まれて一年してシェリーゼ様は離縁して恋人だった男爵家の次男坊と再婚したらしい。
お金はあまりないけど愛がある。
そんな結婚をして今は幸せに暮らされているそうだ。そして、多分、フランの話を聞いて想像するに、シェリーゼ様は妊娠されたのだろう。
フランは今までのように毎月一回会うのも難しい?それとも自分だけのおかあさまが知らない人になった気分なのかな?
生意気で口が達者なフラン。だけど中身はまだまだ4歳だもの。
楽しみでやっと会えた母親が幸せそうに『あなたに兄弟ができるのよ』と言われて、悲しかったよね?
「フラン、やけ食いって知ってる?」
「……………やけぐい?」
泣きながらうるさそうにしながらも一応返事をしてくれた。
「そう、腹が立ったり悔しかったり悲しかった時、大好きなものをお腹いっぱい食べるの。そうするとその嫌な気持ちも遠くにいっちゃうの」
「…………うそじゃないよね?」
「嘘ではないわ。わたしもお父様とお母様が死んじゃった時、悲しくて辛くて普通の人はご飯食べれなくなるくらい落ち込むらしいのだけど、わたしは二人の写真の前で二人の好きな料理を『いいでしょう?』『これ美味しいのよね?』『食べたかったら早く戻ってきてよ』なんて言いながらやけ食いしたの」
「アンナ、おとうさまとおかあさま、しんじゃったの?」
「うーん、そう。だから悲しい気持ちはちょっと違うけどわかるわ。フランはお母様が大好きだものね」
「うん、だいすき、なのに………」
フランは思い出してまた目がうるうるとし始めた。
ーーやばい!また大泣きする!
うるさいし、泣き止ますの大変なの!!
「ほら、やけ食いには準備がいるの!フラン!やけ食いの手伝いをしてちょうだい!わたしも一緒にやけ食い手伝ってあげるから!」
「……………わかった」
二人で厨房へ行ったら、フランが妙に張り切り出した。
「やけ食いするのでおかし、ちょうだい!」
料理長にいきなりそんなことを言うから「はっ?」と変な声を出してフランの後ろにいるわたしをジトっとみた。
「あーーーー、フランがちょっと落ち込んでいるから、やけ食いすれば嫌なことなんて忘れるかなと思って、ほほほほ」
笑って誤魔化すとフランがわたしを見上げながら「アンナもやけ食いしたって!おとうさまとおかあさまがしんだとき!」と大きな声で言った。
一瞬シーーンと厨房がなった。
ですよね?両親が亡くなってやけ食いなんて普通しないものね。でも、わたしはやけ食いした。
『借金残して死ぬなよ!』
『アルバードどうやって育てるのよ!』
『借金取りがどんどんくるんだけど!』
一人でぶつぶつ言いながらやけ食いした。
さっきフランに話した『いいでしょう?』『これ美味しいのよね?』『食べたかったら早く戻ってきてよ』も確かに言ったけど。
流石にフランに借金の愚痴を写真の両親にぶつけてやけ食いしたなんて言えないもの。
でもその次の日、決心できたんだよね。全て手放そうと。
大切な思い出の屋敷も。物も。
おかげで今は三年間、雨風凌げる屋敷で暮らせて、生意気だけど可愛い天使と暮らせているもの。
感謝しなきゃ。
そして二人でやけ食いしたら………
お腹壊して大変な思いをした。
さらに胃はムカムカするし辛かった。
旦那様が不調のわたしのところに来て
「アンナ、やけ食いはほどほどにしなさい。フランはお腹いっぱいにすぐなったからなんにもなかったけど、君はもう大人なんだから。体調崩すまで食べてどうするんだ」
と説教された。
体調悪くてスープしか飲めないわたしに、この屋敷の天使は『お菓子食べる?』とわたしが寝ているベッドにわざわざ食べ物を持ってきて、目の前で美味しそうに食べている。
「お行儀悪いからここで食べるのはやめなさい」
胃がムカムカしながら注意すると『リン達に、ぼく、アンナがしんぱいなの』と言ったら『まあ、なんておやさしい』と言って部屋に入れてくれるよ?だって。
『おみまいのおかしもっていっていいよって!』だって。
天使が今日も悪魔に見えた。
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