【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

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(まだ)離縁しません

中編 4

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 今日も今日とてフランが可愛い。

 真っ赤なほっぺで必死で泥団子を作って遊んでいる。

 伯爵子息が泥団子?

 そう、周りから止められました。
 でも泥と戯れるのも今しかない!






 ちょうど今着ている服が小さくなり始めて、お気に入りだった寝巻きがあまりにも着過ぎてヨレヨレになった。

 フランは「やだ!これは着る!」といつもの駄々を捏ね始めた。

 もう、寝転んで手をバタバタさせて喚くは泣くわ!あまりにもうるさいので寝巻き姿のフランを抱えて庭に連れ出した。

 そしたらちょうど庭師が土を掘り起こしていた。
 ーーあらいいわぁ。

 そう思ったわたしは、フラン相手なのにわたしもいつも汚れていい服を着ているので、その土の山(泥の山)のそばにフランをおろすと、泥団子を作り始めた。

「おい!クソババア!なにしているんだ!き、きたないぞ!」

 フランの『クソババア』は最近出てこなかったのに久しぶりに耳にした。

 ーーうーん、そろそろこの言葉遣い直さないと。いくらわたしだけとはいえ使用人達の手前よくないわね。

 そう思いつつ泥団子を作りながら、フランを見た。

「フラン、あなたにはこんな綺麗な泥団子、作れないでしょう?」

 ニヤッと笑って綺麗なまあるい、泥団子をフランに見せた。

「つ、つくれるし!」
 顔を引き攣らせ強がりを言うフラン。

「うふふふっ、泥団子はね、土を触れる勇気のある人しか作れないの!わ・か・る?」

「ゆうき?」
 目を大きく開きパチクリするフラン。

 ーー可愛い。可愛すぎる。

 おずおずと土に手を持っていくが今まで触ったことがないフランにはなかなか手が出せない。

 庭師のマークが心配そうにこちらを見ていたので、マークに視線を向けた。
「マークは土を触れる勇気のある人なのよね?」
 そう声をかけるとマークが「え?お、俺?」と周囲をキョロキョロしていた。

 ーーそこ、「はい!」と言いなさいよ!

 わたしの目がそう訴えているのに気がついたのか、「は、はい!」といって頭を縦に何度もコクコクと動かした。

「ぼ、ぼく、さわれるもん!」

 土に触れた瞬間、フランが誇らしげな顔をした。

「ほら!さわれた!」

「えーー、でも、土を丸めて団子が作れなければわたしには勝てないわ!」

「アンナにまけないもん!」

 小さな手で必死で土を丸めるも、ポロッと崩れる。

 ま、坊ちゃんには無理よね。ここの土、泥団子にするにはもってこいのいい土なんだけど。

 わたしは小さな団子を作ってフランに渡した。

「フラン、わたしのお手伝いをしてちょうだい。これを綺麗に、まあるくして」

「てつだい?しかたないなぁ」

 フランはわたしから受け取った泥団子を一生懸命に丸め始めた。

 顔にも寝巻きにもたくさん土が付いてそれこそ汚いのに、とても楽しそう。

 わたしも幼い頃お母様がこうして遊んでくれた。

『貴族の子供は土なんて触ることもないし、木登りなんてしないでしょう?でも田舎の子供達はみんなこんな遊びをするのよ』

 わたしが必死で作った泥団子をお母様は笑いながら『上手ね』と褒めてくれた。

 そう、ただ、それだけ。泥団子なんて作ってもどうしようもないのに、夢中で作って、楽しかったな。

 フランもさっきまで泣き叫んでいたくせに、汚いと嫌がってたくせに、綺麗な泥団子を作って自慢げに見せてくれた。

「フラン、そろそろ屋敷に戻りましょう。お勉強の時間よ?その前にお風呂に入って綺麗にしましょう。フランのお気に入りの寝巻きもしっかり最後まで着ることができたから、バイバイしましょうね?」

 フランが自分の寝巻きを見てあまりにも泥だらけなので「うん!バイバイする!」と納得してくれた。

 でも「まだかえらない!やだ!やだ!」と今度はもっと遊びたいと駄々を捏ね始めた。

「いいよ、今日いっぱい遊んでも。でももう次はないけどいいの?」

「つぎ?」

「そうよ、次はもっと楽しい遊びを教えてあげたかったけど、フランは我儘を言ってずっとこの遊びをするんだもの。次はいらないのよね?」

「もっとたのしいの?」

「もちろん!おにごっことか、かけっことか、かくれんぼとか、まだまだいっぱいあるんだけど、マーク達と遊ぼう。ここでフランは一人で遊んでいなさいな」

 わたしは汚れた泥をパタパタと手で払い、帰ろうとした。

「ぼ、ぼくも………かえる」

「え?いいのよ、フランはここで遊んでいなさいな」

「かえる!かえるの!」

 天使の涙が……うるうるして可愛い❤︎

 4歳児、まだまだ子供ね。(子供だけど)

 わたしの後ろに必死でついてくるフラン。

 屋敷に入ろうとしたら旦那様が帰ってきて、玄関で出会ってしまった。

「君たち……その格好は……」

 呆然とわたし達を見る旦那様にフランは「とうさま、これあげる!」と嬉しそうに泥団子を差し出した。

「これは?」
 旦那様がわたしに訊くので、「フランが作った泥団子です」と思わず声が小さくなった。

「フラン、君がこれを?」

「うん!とうさま!すごいでしょう!きれいなまあるい、だんご、つくったの!!」

 目をキラキラさせて『褒めて褒めて』と言う顔をしてフランは旦那様を見ていた。
 ーーやばい!怒られる!


「あ、あの、旦那様、それはですね、わたしが…………「フラン凄いな!君が作ったのか?父様にくれるのか?ありがとう」

 旦那様はその泥団子を嬉しそうに貰ってくれた。

 フランは誇らしげに笑った。

「今度はかくれんぼとかかけっこ、おしえてくれるの!たのしみ!」

「へぇ、アンナ、フランと遊ぶ約束をしたのかい?」

 怒ってる?呆れてる?旦那様の顔が笑ってるだけに怖いんですけど!

「え、ええ、フランに自然の中で遊ぶ楽しさも教えてあげたいと思いまして」

 旦那様は……ううん、兄様もマーシャとわたしと三人で遊んだのよね。
 かけっこやかくれんぼをして。
 泥んこ遊びはしてないけど。




 夜、旦那様の執務室に呼ばれた。


「アンナ、フランと遊ぶことはダメだとは言わないよ。あんなに楽しそうな顔をしているフランは初めて見たからね。ただ、アレはあくまでここだけなんだと教えないと他の子達とあんな遊びをしては、フランが恥をかくことになる」

「ですよね?すみません……あんまり駄々を捏ねて泣き叫んでうるさいので庭に散歩で連れ出したら、土の山がありまして……つい子供の頃を思い出して、泥団子作りを教えてしまいました」

「領地に行った時なら、向こうの子供達と一緒に遊べるからいいとしよう」

 旦那様が苦笑しながら許してくれた。

 ーーほっ……よかった。

「ただ、君はもう19歳の大人だ。それも一応伯爵夫人。泥団子遊びをフランと真剣にするのはやめておきなさい。分かったね?」

「………はい」
 ーー誰かバラしたわね?






 ふと気がつくと、フランがわたしを『クソババア』と言わなくなっていた。

 ふと気がつくと、フランが毎日笑顔でわたしに話しかけるようになった。

 そう、わたしは、わたしだけの天使の笑顔を向けてもらえるようになった。

「アンナ、今日はなにしてあそぶ?」

 ーーうん?わたし、ただの、遊び相手?になっただけ?

 でも、あの天使が、わたしに笑いかけるんだよ?もうそれだけで、この屋敷で、形だけの『伯爵夫人』をしてよかったと思うわ。


 なのに、なのに、わたし、契約結婚とはいえ、『伯爵夫人』のお仕事をしないといけなくなったの。

 そう、『社交』と言う名の一番嫌なお仕事を。

 ーーああ、どうしよう!!
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