【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

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嫌です。別れません

5話

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「お前は馬鹿だな。俺なんかのために…」

 わたしを抱きかかえる手も声も優しい。
 見知らぬ名も知らないのに、神殿の奥のわたしの部屋に簡単に入り込むことなんて出来ないはずなのに、ダンは侵入してわたしを抱えたまま「何かここに持っていきたい物はあるか?」と聞かれた。

 たった一つだけ、生まれた時に身に付けていたというペンダント。でもそれは首から下げているので必要なものなんて何もない。

 首を横に振ると「わかった」と言って窓から屋根へと登りそのままわたしを神殿から連れ出してしまった。

「こんなことしたらあなたは追われる身になってしまうわ」

「俺か?俺は元々この国の者じゃないし、この国から追われているからさっさと逃げ出すつもりだ。あんたは俺を助けたせいで酷い目に遭ったんだろう?」

「違う……いつもこんな感じで……気に入らないことがあるとみんなわたしに八つ当たりするだけ、だから気にしないで」

「俺はもう助からないと諦めて死を待っていたんだ。それなのにお前は俺を助けた。俺の命を救ってしまったんだから責任とって俺に助けられろ。こんな神殿にいたらお前過労死か栄養失調で死んでしまうぞ」

 ダンはわたしを背中に背負って屋根の上を軽々と駆け抜ける。そして、地面に着地するとそのまま裏山へと向かった。

 神殿から遠ざかって行くのをわたしはダンの背中から振り返り見つめた。

 そしていつの間にかまた意識を失ってダンの背中で眠り続けていた。

 目が覚めた時には知らない村に着いて、知らない家の中で寝かされていた。

 知らないお爺さんとお婆さんはとても優しくて、お芋のスープを食べさせてくれた。

 床にシーツを敷いてダンと二人で一枚の毛布で眠った。

 次の朝にはお礼を言ってまたダンの背中に背負われてどこか知らないところへと向かった。

 不思議に恐怖も心配もなかった。

 ダンの背中はあったかくて、広くて優しい。

 人の優しさに触れたことがなかったわたしは雛鳥と同じで初めて優しさを与えてくれたダンに、安心感を抱いてしまった。

 『ダンはお父さんみたいだね』
 いつだったかそうダンに言ったら「俺はまだそんな歳じゃない!」と怒られた。

 そして一週間ダンはわたしを背中に背負って港まで連れてきてくれた。

 そこで大きな船に乗って、今住んでいる国にやってきた。

 神官達はかなり怒っているだろうな。

 わたし聖女の中でも割と聖力が多くて、一番患者さんの治療をしていたと思うし、掃除や片付けもわたしがしていたので、今頃わたしのこと探して回ってるだろうな。

 そんなことを思いつつダンの故郷で、ひっそりと暮らしている。

 ダンは23歳。わたしは19歳。そしてリオは2歳。

 結婚して戸籍を手に入れ、マナとして生活を始めてもう2年が経った。

 一年前に突然1歳で歩き出したばかりのリオを連れてきた時は驚いた。

 金髪に青い瞳のとても愛らしい男の子。
 わたしを見てニコニコと笑い抱っこするとわたしに体を預け安心したかのようにスヤスヤと眠りについた。

「ダンの息子?」

「はあ?俺はそんなヘマはしない。こいつは訳ありでしばらく面倒を見ることになったんだ。マナ、頼んでもいいか?」

「うん、薬師の仕事で山に入る時だけは連れて行けないけどそれ以外なら」

「隣のパン屋のおばちゃんなら面倒見てくれると思う」

「ふふっ、わたしもそう思った!」

 そしてリオをわたしの息子として育てることにした。

「かあちゃん!」とリオに呼ばれることが何より嬉しい。

 家族がいない孤児として育ったわたしにとって、ダンとリオは大切な家族。

 だけど、ダンはほとんど家に帰ってこない。

 ダンは自分がどんな仕事をしているのか教えてくれない。でもお金に不自由はしていないみたいだし、女にも不自由していない。

 遊んでいるだけではなさそうだけど、聞いても何も答えてはくれない。リオのことだって何も教えてくれない。

 ただ、一年間母親として過ごしてきた。

 ダンなんかよりずっと一緒にいた。

 だからもうこれ以上ここには居られない。

 リオにとってここは危険だとわたしの感が言っている。よくわからないけど、ここに居てはダメ。



 ダンにここを離れると言ったら黙り込んだ。

「なあ、マナ?ここを離れてどこへ行くつもりなんだ?」

「山奥に魔女の家があるの」

「知ってる」

「そこでしばらく厄介になるつもり」

「あの魔女がお前とリオを受け入れてくれる訳がない!」
 焦ってダンは大きな声を出した。

「うん、でも、『来ていい』って言ってくれたの」

「嘘だろう?魔女は人を寄せつけないはずだ」

「ねっ?だけど困っていたから一度助けてあげたの。それからはよく山奥に入ると薬草のこととか魔法の使い方とか教えてくれるの。わたし聖力をうまく使えずにいたんだけど、魔女さんが魔力と聖力は似ているから、魔法としても使えると教えてくれたの」

「………それで?」

「相談したの。変な視線を感じること、なんだか嫌な予感がすること。ダンは女遊びが忙しくて帰ってこないし何があってもリオを一人で守りたいけど、わたしは女だし闘えない。魔法は覚えたけどどんなことでもできる訳じゃない。
 わたしは自分が怪我をするのは平気だけど自分が怪我をしても治せないから、そうなるとリオを守れなくなるわ。だから魔女さんが一緒に守ってくれるって言うから、ここを離れようと思うの」

「………俺が会いに行くことは?」

「しばらくは来ないで欲しい。て言うか、多分迷いの森だからいくらダンでも簡単に魔女の家は探せないと思うの」

「迷いの森……そうだな。『山奥には行くな、帰ってこられなくなる』これは昔っからこの村では言われていることだ」

「うん、隣のおばちゃんにも言われた。だけど何故かわたしは迷わないのよね。森に受け入れられているみたい」

「………俺が……迎えに行くまで……待っててくれないか?訳はまだ言えない……だけど……」

「うん、大丈夫。ダンとは別れるつもりはないもの。ダンがいくら離縁したいと言っても奥さんはわたしよ?あなたの遊びの女にも本気の恋人にも絶対あなたは譲らない。
 奥さんの立場だけはわたしのものだもの」

「………そうか……」

「ダン、今は何も聞かないわ。だけどいつか話して欲しい。リオのこと」

「リオを頼む。お前だから頼めるんだ」

「リオはわたしの大切な息子だもの、絶対守ってみせるわ」

 わたしは次の日にはリオに必要なものだけ取り敢えず持ち出して迷いの森へと向かった。

 途中誰かにつけられているのがわかった。

 何度となく知らない男達がわたし達を襲おうとしたけど、魔女さんの防御の魔法のおかげで跳ね除けることができた。





「魔女さん、お世話になります」

「無事に来れたな」
 前歯が1本ない魔女さんが笑うととても可愛らしく感じてしまう。

「しばらくお世話になります。なんでもしますので言ってくださいね?」

「よ、よろちく、おねがい、しまぁす」
 リオは魔女さんに初めて会ったのだけど、魔女さんの風貌にちょっと驚いたみたいでどもってしまい緊張していた。

 頭まで黒いマントを被り、顔がほんの少ししてか見えていない。なのにニヤッと笑うと歯がないせいか、少し怖く感じる。

 わたしはリオとしばらく寝泊まりする部屋へと案内されて、リオの荷物を整理した。

 自分の物まで持ち出せなかったので、魔女さんのお古の服を借りることになっている。

「かあちゃん、まじょしゃんと、おなじ!」

 魔女さんの服に着替えるとリオが不思議そうに下からジロジロ見つめ、ニコニコさんでそう言った。

「ぼ、ぼくも、それ、きたい!」

「リオはマントが着たいのか?」
 魔女さんはニヤッと笑うと指をパチンと鳴らして、リオにマントを着せた。

「うわぁ!やったぁ!!」

 リオが喜んでいるのを二人で顔を合わせて微笑んだ。

 ダンがこれからどうするのか、そしてわたし達がどうなってしまうのかわからないけど、リオの笑顔が何故か大丈夫だと思わせてくれる。

 それに珍しくダンが真面目な顔で「待っててくれ」と言ったので、わたしは待ってるつもり。

 わたし達のことを恋愛の愛はなくても家族として愛してくれているダン。







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