【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

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出て行け!

ふざけんな!

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「出て行け!」

「ちょ、ちょっと、待て!落ち着け!」

「い・い・か・ら、出て行けって言ってるの!」

 夫がテーブルに置いた鞄を鷲掴みにして夫に向けて投げつけた。

 バンッ!

 扉を閉めて奥のキッチンへ。



 バンッ!バンッ!

 発酵したばかりのパンを捏ねる。

 ふざけんな!

 なに、この請求書の紙!

 服にバックに、ベビー服?
 さらに肉屋に野菜屋に雑貨屋、牛乳屋まで!

 うちは全部現金払いだからこんな請求が来る訳ない!

 一気に配達で届いた請求書。

 夫は朝帰り。

 今日は夜勤だと言っていた。

 帰ってきた夫にまず抱きついた。

「おかえり!」

「おっ?どうした?こんな朝っぱらから甘えて?うん?俺はまだ元気ならあるぞ。ベッドに行くか?」

 ーーざけんな!あんたの匂いを嗅いでるのよ!

 くんくん。……………微かに香水?

 ふうん、やっぱり夜勤は嘘?

 夫は平民だけど、王城で騎士として働いている。

 騎士としては優秀。
 この国では平民、貴族関係なく騎士は優秀であれば王城で働くこともできる。

 だけど結婚して2年。

 何度浮気をしただろう。

 もう限界!

「今日は本当に夜勤だった?」

 夫はわたしの胸をモミモミしていたのに突然手が固まった。

「へ?」

「へ?じゃないわ!ねぇ、この甘い香水の匂いは何?何をしていたの?」

「………何も」

 わたしから目を逸らす夫。

「昨日請求書が来たの。ほらコレ」

 そう言ってテーブルに置いていた請求書を夫の顔に押し付けた。

「お、おい、やめろ。請求書?あっ………やべぇ」

「やべぇ?あなたが稼いだお金だからいくら使おうと文句は言えないわ。でも出来ればお小遣いの範囲で使ってちょうだい。平民のあなたにとってコレだけあれば十分でしょう?」

 あ、いけない。平民なんて言い方は……

「そうだな、平民の俺からすればたくさんの金を小遣いとして使ってると思う。請求書も手違いだ。俺宛に職場に届くように頼んでいたのに、すまなかった」

「………そう、手違いで子供服から女性の服まで請求がうちに回ってきていたのね」

「ぐっ………そ、そうだな……うん」

「間違いではないのね?」

「いや、だから、ここにきたのは間違いで……」

「違うわ。子供服や女性物の服のこと」

「…………すまない」

「言い訳は?」

「ない」


 そうなんだ。言い訳もしかないのね。


「………出て行って……」

 夫は真っ青な顔をして動こうとしない。

 わたしはテーブルに置いてあったカップを手に取り夫に投げつけた。

 夫はそのカップをサッと掴む。中の紅茶はしっかり彼の服にかかったけど。ザマアミロ!!

 次は読みかけの本を投げつけた。次に花瓶。全部彼は掴んで彼の体に当たることはない。

 花瓶の水はしっかりかかったけど。

 そして最後に鞄を投げつけた。

 後退りした彼の体をグッと玄関の外に押し出して扉を閉めた。もちろん中から鍵を閉めた。


 本気で入ってくる気があれば彼なら扉なんて壊してしまうだろう。だけど、彼は家の中に入ってこなかった。

 それが答え。

 パンを捏ね終わって成形してオーブンに入れた。

 テーブルに顔を埋めてしばらくじっとしていた。

 彼の浮気は何度目だろう。

 女が夫に会いたいと押しかけてくる。

 夫はそれなりにいい顔をしていて、そしてとにかく優しい。困った人にすぐに手を差し伸べる。

 そんな彼に惹かれたのは事実。
 だけどその優しさは人を不幸にする。

 知らない女が夫に依存する。
 知らない子供達が「おかえり」とわたしの知らない家に夫が行き、家族のように過ごす。

 これは優しさなのか?

 夫は困った人に食べ物を持って行ったり、何か男手が足りないと手助けをしたりする。
 勘違いした女は夫を愛してしまう。

 そして夫は……そんな女を捨てられない。


「俺は別に彼女とそんな関係ではない」

 いつも彼はそう言う。

 でもね、子供ができない私たち夫婦。子供がいる女のところに嬉しそうに訪れる夫にわたしはどう笑顔で見送ればいいのかわからない。

 焼いたパンをカゴに入れてわたしは隣のジャックの家に行った。

「ジャック、よかったらパンを焼いたから貰ってくれる?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 ジャックはわたしの幼馴染。3歳年下で弟のような存在。ジャックの両親は早くに亡くなり彼は一人暮らし。

 だからわたしは心配で食べ物をちょくちょく届けていた。

 夫からすればこれも『俺となにが違うんだ?』と言われる。

 そう、わたしも幼馴染を放って置けない。ジャックの部屋の掃除や世話をつい焼いてしまう。

 でもそこに恋愛感情はないもの。

 夫とは違うわ。

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