【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

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出て行け!

夫は。

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 夫を追い出して家の中にいると落ち着かなかった。

 すぐに帰ってくるだろうと玄関を開けて外を覗く。

 でも彼の姿はない。

 また女の家に戻ったのかしら?それとも職場の詰所あたりで眠っているの?





 夫は優しい人。誰にでも優しい。


 自分は苦労して育った、母一人子一人だったんだ。母親は体が弱く幼い頃から小銭を稼ぐため必死で働いたと話してくれた。

 だから騎士になり、母親を楽にさせたいと思ったらしい。

 身長が高く力があり剣の扱いも上手で学校にはあまり行けなかったけど、時間がある時に一人図書館に通い勉強をしたらしく、頑張って騎士になった。

 私と彼の出会いも図書館だった。

 疲れた顔をして眠たそうにしながらも必死で本を読んでいる彼に興味が湧き通り過ぎるフリをしてチラッと彼の本を覗き込んだ。

 その本は彼の歳ではもう読むことはない。子供が読む本だった。

『英雄アルダン』

 思わず口に出していた。

「うわ、な、なんなんだ!」

 私の声に驚いて彼は振り返った。

 耳朶まで真っ赤になった彼の顔。

 しまった。

 そう思ったけど口に出てしまったんだもの。開き直ろう。

「この国の英雄、アルダン様のお話ですね。彼は他国からの侵略を最後まで守ろうとして、立ったまま死んでいった素晴らしい騎士様でした。死んでもなお両手を広げいく手を阻もうとしたアルダン様。私の憧れのお方です」

「俺もすっげえって思ってる。何回読んでも面白いんだ。本当は長い伝記を読みたいんだけど時間もないし、難しい字はまだ読めない。だから……この本を……」

 彼は最後の方は声が小さくなった。

 子供が読みやすいようにと書かれた物語。大人なら伝記を一度は読むもの。

 そう貴族なら。でも平民は字を読むのがやっとだったりするので、この物語くらいまでしか読めないだろう。

「伝記を読むのは確かに時間がかかるかもしれませんね。一冊ならまだしも英雄アルダンの伝記は五冊ほどありますし、なかなか読み応えがあるので大変でした」

「全部読んだのか?」

「はい」

「面白かったか?」

「面白かったです」

「どんな内容か少しだけでも話してくれないか?」

「アルダン様の幼少の頃の話から始まります。幼い頃は貧乏でとても苦労されているみたいです。体も同じ年頃の子より小さくて泣き虫だったそうです」

「へぇ、英雄なのに?」

 彼は私の話しに食いつき楽しそうに訊いてくる。つい私も彼の笑顔につられて話の内容を披露してしまった。


「お嬢様、そろそろ家に帰るお時間です」

 侍女が後ろから私に早く帰りましょうと促した。

「そうね、今日は本を借りるのはやめておくわ」

 彼に「じゃあね」と言って帰ろうとしたら「ありがとう、俺、少しずつ読んでみるよ」と嬉しそうに笑った。

 その笑顔が忘れられなくて……その夜はもう一度英雄アルダンの伝記を屋敷の書庫から部屋に持ってきて、読み直すことにした。

 夢中で読んで気がついたら朝になっていて、お母様に朝食の時間に居眠りして怒られた。


 それからは暇な時や学校の帰りに意味もなく図書館へと通うようになった。

 以前は学校の帰りに家に帰りたくなくて寄り道していた図書館。でも夫と話すようになってからは会えることが楽しみで通うようになった。

 わたしの実家は子爵家で兄様と姉様がいるのだけどお二人は優秀でよく両親に成績を比べられていた。

 お小言を言われるのが嫌で学校が早く終わる日は図書館に行きそこで好きな本を読んだり、両親に内緒で勉強をしていた。

 それでも兄や姉の成績には及ばず、いつも中の上の成績しか取れなかった。

 私なりに頑張っているのに。

 屋敷で一人落ち込んで泣いている時、侍女をしてくれているジャックの母は私の頭を撫でて抱きしめてくれた。

「お嬢様の努力を私達使用人は知っております。お嬢様、お二人が優秀すぎるんです。比べる必要なんかありません!」と言ってくれた。

「ねぇ、それって、私が優秀じゃないって言ってるみたいだわ」
 半べそで拗ねて言う。

「えっ?えええ!違います!そう言う意味ではなくて、お嬢様が私にとっては一番で……」

「ふふふっ、ありがとう。私は姉達みたいに勉強は得意じゃないけど刺繍なら姉様に負けないし絵は兄様より上手に描けるのよ?」

 そう、私だって二人より得意なことはある。ただ両親には評価して貰えなかっただけで。

 そして図書館で彼と会う日が唯一私の楽しみになっていった。


 お互い惹かれあい、恋人として過ごす。

 彼はとのデートはとても楽しかった。
 彼と過ごす時間は新鮮で幸せだった。

 街で困っている人を見かけるとすぐに手を差し伸べる。そんな優しさにも惹かれていった。

 でも結婚は簡単に許されなかった。

 父は無理難題を押し付けて諦めさせようとしたのに、彼は命の危険を冒して戦地へと何度も行った。
 そこでたまたま王子の命を助け、平民には無理難題のはずの王宮騎士になった。

 父はそんな約束無かったことにしようと彼に会わず、無視して反故にするつもりだった。

 でも彼は王子からの手紙を持参して父に会いにきてくれた。

 王子の手紙には「二人の結婚式を楽しみにしている」と綴っていた。

 私は父が真っ赤になったり真っ青になったりする顔を横目で冷たく見ていた。



 そして私と夫は晴れて結婚した。

 幸せだった。

 ずっとずっとこんな幸せが続くと思っていた。

 でも夫は、優しすぎる人だった。


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