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19話
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馬車の中ではシルヴィオ様の隣にわたしが座った。でも斜め前にミラーネ様。
ミラーネ様はご友人の話をシルヴィオ様に振る。
「シルヴィオ、今日ポールが先生に叱られていたの、どうしてだと思う?」
「へぇポールなら仕方ないね?何したの?」
「教室でマックと暴れてガラスを割ったの」
「マックは怒られなかったの?」
「そうよ、マックはさっさと逃げたのにポールは正直に自分がしたと告白したの」
「信頼のおける人間はポールだね」
「わたしもそう思うわ」
二人の話を黙って聞いていた。
中等部のわたしはシルヴィオ様がどんな学校生活をしているのか知らない。だから少し興味があって、でも全く会話に入れないことが寂しくもあった。
名前だけならお二人とも知ってはいても、そこにわたしが会話を挟むことはできない。
窓の景色を見ながら馬車での時間を過ごすのはいつもと違って寂しい。
いつもはシルヴィオ様とたくさん話してをして二人で笑い合いながら王城へと向かうのに。
すぐ隣にシルヴィオ様の体温を感じながら、心の中でため息が。
王城に着くとシルヴィオ様がミラーネ様の手を取り馬車を降りた。
「シルヴィオ、一緒に陛下のところへ行きましょう」
ミラーネ様はそう言うとシルヴィオ様の腕を掴んだ。
わたしも降りようとしていたところだったので、お二人がそのまま先に行かれるのを見つつ、御者の手を借りて馬車を降りることにした。
「わたしは先生のところへ行くので、あちらとは別なの」
御者に言い訳するように言ってから、二人の姿を見ないようにしてわたしは先生のところへ向かった。
ソラリア語に苦戦しながら少しずつ会話が話せるようになってきた。
先生も「これならなんとかなるでしょう」と合格点をもらえた。だけど気がつけば外は真っ暗。
屋敷に戻るのに馬車はない。いつもならシルヴィオ様が馬車の用意をしておいてくれるのだけど、今日はミラーネ様と陛下のところへ行かれたので、たぶん用意はされていない。
いつもなら「馬車の用意はできていますよ」と誰か声をかけてくださるもの。なのに今日に限って誰も声をかけてはくれなかった。
どうしようかと悩みながら王宮を出て、城内を歩いた。
通い慣れた場所とはいえ屋敷まで帰るのは外も暗いし、それに歩いたことがない。
シルヴィオ様に相談するしかないと思い人を探す。
いつもならそばに城仕えのメイドもいるのに今日に限って誰もいない。
公爵家からミズナを連れて来ればよかったわ。学校の帰りに直接王城へ向かうときは誰もついてこなくていいなんて言わなければよかった。
シルヴィオ様と帰りは馬車に一緒に乗れるなんて浮かれていたことをとても反省した。
好きだからって一緒にいたいなんて我儘なことを思ったからバチが当たったのかもしれないわ。
先生に一言一緒に馬車に乗せてもらえないかとお願いすればよかった。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。仕方なくシルヴィオ様がいるであろう宮へと向かった。
でもそこで見てしまったのはシルヴィオ様とミラーネ様が仲良く二人で笑い合いながら話している姿だった。
思わず隠れてしまった。
お二人が何かしていたわけではない。ただ楽しそうに笑い合っていただけ。それを見て隠れて……傷ついてしまったのはわたし。
「歩いて帰ろう」
誰かにお願いすれば馬車の用意はしてくれる。普段のわたしならそう思うのに、このときはなぜかそんなことすら考えられなかった。
わたしがすごすごと二人から離れていくとき、ミラーネ様がわたしの後ろ姿を見てニヤッと微笑んだことをわたしは知らなかった。
わたしの思考が少しだけ普段と違いズレていて当たり前のことをまともに考えられなくなっていたなんてこのときはまだ知るよしもなかった。
暗い夜道を歩いて帰ろうと王城を歩いていたとき……
「アイシャ嬢?こんなところを一人で歩いてどうしたの?」
「ユリウス殿下………」
ユリウス殿下が周囲をキョロキョロ見回していた。
「ねぇ?護衛は?誰もそばにいないけど、一人でどこへ行ってるの?」
「………歩いて帰ろうと思って……」
「迎えは?馬車はきていないの?兄上がいつもなら馬車の用意をしてくれているはずだろう?」
「誰も声をかけてくださらなかったので馬車はないみたい………」
なんだか頭がぼんやりする。
考えたくない。
もういい………
殿下に頭を軽くさげわたしは歩き出した。
「アイシャ嬢、一人で歩いては危ない。僕が送るから待ってて」
ユリウス殿下はすぐに護衛騎士に声をかけた。
騎士は急いでどこかへ向かった。
わたしは少し離れたところにあるベンチへ連れて行かれた。
庭園に置いてあるベンチに腰掛けると殿下から上着をかけられた。
「夜は少し冷えるから、僕ので悪いけど上着を着ていて」
「ダメです……殿下が風邪を引いてしまったら大変なことになります」
「大丈夫だよ。僕は鍛錬でしっかり体は鍛えてあるから。それよりもアイシャ嬢、なんだか変だよ?」
「……よくわからないんです……今は頭がボーッとして……」
どうしてなのかよくわからない。でもミラーネ様とシルヴィオ様の二人っきりの姿を見てからわたしの思考はなんだか………
「すぐに医者に診てもらったほうがいい」
ユリウス殿下がそういうと、もう一人の護衛騎士がわたしに近づいてきた。
「…………あっ………や、やだ!近づかないで……ごめんなさい………わたしが悪い……だからそばに…こ、こないで……触らないで……い、いや、いや、やめて………」
わたしはベンチから落ちてそのまま地面に座り込み頭に手を置き、自分を守るようにして必死で謝った。
ただ、ただ、怖くて……
ミラーネ様はご友人の話をシルヴィオ様に振る。
「シルヴィオ、今日ポールが先生に叱られていたの、どうしてだと思う?」
「へぇポールなら仕方ないね?何したの?」
「教室でマックと暴れてガラスを割ったの」
「マックは怒られなかったの?」
「そうよ、マックはさっさと逃げたのにポールは正直に自分がしたと告白したの」
「信頼のおける人間はポールだね」
「わたしもそう思うわ」
二人の話を黙って聞いていた。
中等部のわたしはシルヴィオ様がどんな学校生活をしているのか知らない。だから少し興味があって、でも全く会話に入れないことが寂しくもあった。
名前だけならお二人とも知ってはいても、そこにわたしが会話を挟むことはできない。
窓の景色を見ながら馬車での時間を過ごすのはいつもと違って寂しい。
いつもはシルヴィオ様とたくさん話してをして二人で笑い合いながら王城へと向かうのに。
すぐ隣にシルヴィオ様の体温を感じながら、心の中でため息が。
王城に着くとシルヴィオ様がミラーネ様の手を取り馬車を降りた。
「シルヴィオ、一緒に陛下のところへ行きましょう」
ミラーネ様はそう言うとシルヴィオ様の腕を掴んだ。
わたしも降りようとしていたところだったので、お二人がそのまま先に行かれるのを見つつ、御者の手を借りて馬車を降りることにした。
「わたしは先生のところへ行くので、あちらとは別なの」
御者に言い訳するように言ってから、二人の姿を見ないようにしてわたしは先生のところへ向かった。
ソラリア語に苦戦しながら少しずつ会話が話せるようになってきた。
先生も「これならなんとかなるでしょう」と合格点をもらえた。だけど気がつけば外は真っ暗。
屋敷に戻るのに馬車はない。いつもならシルヴィオ様が馬車の用意をしておいてくれるのだけど、今日はミラーネ様と陛下のところへ行かれたので、たぶん用意はされていない。
いつもなら「馬車の用意はできていますよ」と誰か声をかけてくださるもの。なのに今日に限って誰も声をかけてはくれなかった。
どうしようかと悩みながら王宮を出て、城内を歩いた。
通い慣れた場所とはいえ屋敷まで帰るのは外も暗いし、それに歩いたことがない。
シルヴィオ様に相談するしかないと思い人を探す。
いつもならそばに城仕えのメイドもいるのに今日に限って誰もいない。
公爵家からミズナを連れて来ればよかったわ。学校の帰りに直接王城へ向かうときは誰もついてこなくていいなんて言わなければよかった。
シルヴィオ様と帰りは馬車に一緒に乗れるなんて浮かれていたことをとても反省した。
好きだからって一緒にいたいなんて我儘なことを思ったからバチが当たったのかもしれないわ。
先生に一言一緒に馬車に乗せてもらえないかとお願いすればよかった。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。仕方なくシルヴィオ様がいるであろう宮へと向かった。
でもそこで見てしまったのはシルヴィオ様とミラーネ様が仲良く二人で笑い合いながら話している姿だった。
思わず隠れてしまった。
お二人が何かしていたわけではない。ただ楽しそうに笑い合っていただけ。それを見て隠れて……傷ついてしまったのはわたし。
「歩いて帰ろう」
誰かにお願いすれば馬車の用意はしてくれる。普段のわたしならそう思うのに、このときはなぜかそんなことすら考えられなかった。
わたしがすごすごと二人から離れていくとき、ミラーネ様がわたしの後ろ姿を見てニヤッと微笑んだことをわたしは知らなかった。
わたしの思考が少しだけ普段と違いズレていて当たり前のことをまともに考えられなくなっていたなんてこのときはまだ知るよしもなかった。
暗い夜道を歩いて帰ろうと王城を歩いていたとき……
「アイシャ嬢?こんなところを一人で歩いてどうしたの?」
「ユリウス殿下………」
ユリウス殿下が周囲をキョロキョロ見回していた。
「ねぇ?護衛は?誰もそばにいないけど、一人でどこへ行ってるの?」
「………歩いて帰ろうと思って……」
「迎えは?馬車はきていないの?兄上がいつもなら馬車の用意をしてくれているはずだろう?」
「誰も声をかけてくださらなかったので馬車はないみたい………」
なんだか頭がぼんやりする。
考えたくない。
もういい………
殿下に頭を軽くさげわたしは歩き出した。
「アイシャ嬢、一人で歩いては危ない。僕が送るから待ってて」
ユリウス殿下はすぐに護衛騎士に声をかけた。
騎士は急いでどこかへ向かった。
わたしは少し離れたところにあるベンチへ連れて行かれた。
庭園に置いてあるベンチに腰掛けると殿下から上着をかけられた。
「夜は少し冷えるから、僕ので悪いけど上着を着ていて」
「ダメです……殿下が風邪を引いてしまったら大変なことになります」
「大丈夫だよ。僕は鍛錬でしっかり体は鍛えてあるから。それよりもアイシャ嬢、なんだか変だよ?」
「……よくわからないんです……今は頭がボーッとして……」
どうしてなのかよくわからない。でもミラーネ様とシルヴィオ様の二人っきりの姿を見てからわたしの思考はなんだか………
「すぐに医者に診てもらったほうがいい」
ユリウス殿下がそういうと、もう一人の護衛騎士がわたしに近づいてきた。
「…………あっ………や、やだ!近づかないで……ごめんなさい………わたしが悪い……だからそばに…こ、こないで……触らないで……い、いや、いや、やめて………」
わたしはベンチから落ちてそのまま地面に座り込み頭に手を置き、自分を守るようにして必死で謝った。
ただ、ただ、怖くて……
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