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25話
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シルヴィオ様と話をしたい。
執事長のマークに伝言を頼みお父様に何度となくお願いをした。
だけど返事すら返ってこない。
わたしはソラリア帝国に行くために屋敷に軟禁されていた。
メイドや侍従、護衛騎士、みんながわたしが屋敷から逃げ出さないように常に目を光らせている。
わたしはただシルヴィオ様から真実を聞きたいだけ。
ミラーネ様とシルヴィオ様の結婚が決定事項ならそう話して欲しい。
わたしとの婚約解消も彼から聞きたい。
それにわたしがこの国にいることが目障りなら……邪魔なら喜んで……とまでは言えないけど彼らの前からいなくなるのは受け入れるつもり。
わたしも二人の幸せな姿を見ているのは辛いもの。
「ミズナ、お願い、少しだけ、少しだけでいいの。シルヴィオ様に会いたいの」
「旦那様の命令です。いくら頼まれても……」
普段のミズナなら少ししつこくお願いすれば言うことを聞いてくれる。
トーマスもマークもわたしから視線を逸らす。いつも護衛をしてくれる騎士達も近寄ろうとしない。
「シルヴィオ様と婚約解消は受け入れるわ。だけど一言でいいから彼からはっきりと告げられたい。お願い」
諦めなければいけない。もうこのままソラリア帝国へ行けばいい。
だけど……
どれくらいの時間が経ったのかわからない。
何度か屋敷から抜け出そうとしたのがバレて部屋からも出してもらえなくなった。
「………殿下が来られています」
何もすることがない無気力になりベッドで横になっているわたしにミズナが声をかけてきた。
ボッーとして意識がはっきりしていなかった。
「………シルヴィオ様?」
ミズナは顔を歪ませて首を横に振った。
「じゃあ………」
「ユリウス殿下です」
「ユリウス殿下が何故?」
「ずっと学校を休まれているので心配してこられたそうです」
「会いたくないわ……帰っていただいて」
「ですが………旦那様が会わせるようにと指示を受けておりまして」
「ミズナはお父様が雇った使用人だもの。お父様のおっしゃることが全てなのよね?」
嫌味だとわかってる。八つ当たりだとわかってる。
だけど誰かに当たらなければこの気持ちの行き場がなかった。
傷ついて俯くミズナに冷たく言い放った。
「会うわ。でもあなたは必要ない。もうわたしの前に顔を出さないでちょうだい」
醜いわたしの心。
いつも輝いていた毎日がどんどん暗く濁って落ちていく。
自分で着替えられる簡単なドレスに着替えて自分で櫛を入れる。
もう誰にも触られたくない。もう誰とも話したくない。だから一人で準備をした。
なのにユリウス殿下と今から何を話さないといけないの?
◆ ◆ ◆
【愛されない王妃】
連載始めました。
ひたすら初恋の陛下のために生きようとする王妃の話です。
執事長のマークに伝言を頼みお父様に何度となくお願いをした。
だけど返事すら返ってこない。
わたしはソラリア帝国に行くために屋敷に軟禁されていた。
メイドや侍従、護衛騎士、みんながわたしが屋敷から逃げ出さないように常に目を光らせている。
わたしはただシルヴィオ様から真実を聞きたいだけ。
ミラーネ様とシルヴィオ様の結婚が決定事項ならそう話して欲しい。
わたしとの婚約解消も彼から聞きたい。
それにわたしがこの国にいることが目障りなら……邪魔なら喜んで……とまでは言えないけど彼らの前からいなくなるのは受け入れるつもり。
わたしも二人の幸せな姿を見ているのは辛いもの。
「ミズナ、お願い、少しだけ、少しだけでいいの。シルヴィオ様に会いたいの」
「旦那様の命令です。いくら頼まれても……」
普段のミズナなら少ししつこくお願いすれば言うことを聞いてくれる。
トーマスもマークもわたしから視線を逸らす。いつも護衛をしてくれる騎士達も近寄ろうとしない。
「シルヴィオ様と婚約解消は受け入れるわ。だけど一言でいいから彼からはっきりと告げられたい。お願い」
諦めなければいけない。もうこのままソラリア帝国へ行けばいい。
だけど……
どれくらいの時間が経ったのかわからない。
何度か屋敷から抜け出そうとしたのがバレて部屋からも出してもらえなくなった。
「………殿下が来られています」
何もすることがない無気力になりベッドで横になっているわたしにミズナが声をかけてきた。
ボッーとして意識がはっきりしていなかった。
「………シルヴィオ様?」
ミズナは顔を歪ませて首を横に振った。
「じゃあ………」
「ユリウス殿下です」
「ユリウス殿下が何故?」
「ずっと学校を休まれているので心配してこられたそうです」
「会いたくないわ……帰っていただいて」
「ですが………旦那様が会わせるようにと指示を受けておりまして」
「ミズナはお父様が雇った使用人だもの。お父様のおっしゃることが全てなのよね?」
嫌味だとわかってる。八つ当たりだとわかってる。
だけど誰かに当たらなければこの気持ちの行き場がなかった。
傷ついて俯くミズナに冷たく言い放った。
「会うわ。でもあなたは必要ない。もうわたしの前に顔を出さないでちょうだい」
醜いわたしの心。
いつも輝いていた毎日がどんどん暗く濁って落ちていく。
自分で着替えられる簡単なドレスに着替えて自分で櫛を入れる。
もう誰にも触られたくない。もう誰とも話したくない。だから一人で準備をした。
なのにユリウス殿下と今から何を話さないといけないの?
◆ ◆ ◆
【愛されない王妃】
連載始めました。
ひたすら初恋の陛下のために生きようとする王妃の話です。
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