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第22話 クレーマー冒険者と、事前の情報
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「おい! どうなってんだこの報酬は! 少なすぎるだろうが!」
平和になりつつあったギルドのカウンターに、再び怒号が響いた。
男は巨漢の冒険者だ。
バンバンとカウンターを叩き、唾を飛ばしてマリーを威嚇している。
「ですから……今回の依頼は『薬草の採取』ですので、規定通りの報酬額に……」
「俺様がわざわざ行ってやったんだぞ! 道中でゴブリンも倒したんだ! その分の手当ても出せ!」
「ですが、討伐証明部位が提出されていませんので……」
「うるせえ! 俺様を疑うのか! この役立たずが!」
男が身を乗り出し、マリーの胸ぐらを掴もうとする。
マリーは青ざめて縮こまっている。
警備兵が駆けつけようとしているが、距離がある。
それに、こういう手合いは下手に刺激すると暴れ出す。
俺は離れた場所で、依頼書の掲示板を見るふりをしながら、その男を「鑑定」した。
【冒険者ガストン】
【ランク:D】
【状態:虚勢、焦燥】
【所持金:銀貨3枚】
【弱点:借金(金貨50枚)、取立人への恐怖】
【注記:裏社会の金貸し『赤サソリ商会』からの借金返済日が『今日の正午』まで。現在、時刻は11時50分。金を工面できなければ港に売り飛ばされるため、必死にギルドから金を巻き上げようとしている】
なるほど。
ただのクレーマーじゃない。追い詰められたネズミだ。
こういう奴は論理では止まらない。
だが、一番恐れているものを突きつければ、一瞬で逃げ出すはずだ。
俺は懐からメモ用紙を取り出し、走り書きをした。
『赤サソリ商会の取立人が、すぐそこの広場まで来ています。逃げるなら裏口が安全です』
俺はそれを小さく折り畳んだ。
どうやって渡すか。
俺が直接渡せば、ガストンの矛先が俺に向く。
あくまでマリー自身が撃退した形にしなければならない。
「……すみません、通ります」
俺は他の冒険者の陰に隠れながらカウンターに近づき、マリーの死角から、彼女の手元にメモを滑らせた。
ちょうど、ガストンが周囲の客を威嚇するために後ろを向いた一瞬の隙だ。
マリーの目の前に、突然白い紙切れが現れる。
「……?」
マリーは涙目でそのメモを見た。
見覚えのある筆跡(先日、書類整理の時に見た付箋の字と同じだ)。
彼女は直感的に、これが「助け舟」だと悟ったらしい。
彼女は震える手でメモを開き、中身を読んだ。
瞬間、彼女の目から怯えが消えた。
代わりに浮かんだのは、冷静な事務員の顔だ。
「おい! 聞いてんのか!」
ガストンが再びカウンターに向き直る。
マリーは背筋を伸ばし、毅然とした声で言った。
「ガストン様。追加報酬の交渉よりも、お急ぎになった方がよろしいのでは?」
「ああん? 何だと?」
「先ほど情報が入りました。『赤サソリ商会』の方が、貴方を探して広場の方にいらしているようですよ?」
ピクリ。
ガストンの巨体が硬直した。
「な……なんで、お前……それを……」
「当ギルドの情報網を甘く見ないでください。……あと十分で正午ですね。今ならまだ、裏口から出れば間に合うかもしれませんが……どうされますか? ここで報酬の交渉を続けますか?」
マリーはニッコリと微笑んだ。
それは営業スマイルだが、今のガストンにとっては死神の微笑みに見えただろう。
「ひぃっ……!」
ガストンの顔色が土色に変わる。
彼は報酬を受け取るどころか、自分の荷物すら忘れて、脱兎のごとくギルドの裏口へと走っていった。
「あ、逃げた」
「すげえ……あのガストンを口先だけで追い払ったぞ」
周囲の冒険者たちがどよめく。
マリーは大きく息を吐き、へなへなと椅子に座り込んだ。
「はぁ……怖かった……」
彼女は手の中のメモを握りしめている。
心臓が早鐘を打っているが、それ以上に達成感があった。
理不尽な暴力に、情報という武器で打ち勝ったのだ。
「マリーさん、大丈夫か?」
俺が近づくと、彼女はパッと顔を上げた。
「あ、はい! 大丈夫です! ……あの、これ」
彼女はメモを俺にチラリと見せた。
俺は首をかしげる。
「なんですか、それ?」
「……ううん、なんでもないです」
彼女はメモを大事そうにポケットにしまった。
そして、小声で呟く。
「(やっぱり、妖精さんは見ててくれたんだ。私が困ってると、必ず助けてくれる……)」
彼女はカウンターの下で、小さくガッツポーズをした。
その顔には、以前のような頼りなさはなく、少しだけ自信が宿っていた。
俺は苦笑いしながら、その場を離れる。
妖精じゃない。ただの密告だ。
だが、彼女が「自分は守られている」と信じて強気になれるなら、それでいい。
受付嬢が弱気だと、依頼の処理も滞るからな。
俺はガストンが忘れていった安物の剣をギルドの遺失物係に届けながら、次の仕事(クエスト)を探し始めた。
……あいつ、借金取りからは逃げられたんだろうか。
まあ、俺の知ったことではないが。
平和になりつつあったギルドのカウンターに、再び怒号が響いた。
男は巨漢の冒険者だ。
バンバンとカウンターを叩き、唾を飛ばしてマリーを威嚇している。
「ですから……今回の依頼は『薬草の採取』ですので、規定通りの報酬額に……」
「俺様がわざわざ行ってやったんだぞ! 道中でゴブリンも倒したんだ! その分の手当ても出せ!」
「ですが、討伐証明部位が提出されていませんので……」
「うるせえ! 俺様を疑うのか! この役立たずが!」
男が身を乗り出し、マリーの胸ぐらを掴もうとする。
マリーは青ざめて縮こまっている。
警備兵が駆けつけようとしているが、距離がある。
それに、こういう手合いは下手に刺激すると暴れ出す。
俺は離れた場所で、依頼書の掲示板を見るふりをしながら、その男を「鑑定」した。
【冒険者ガストン】
【ランク:D】
【状態:虚勢、焦燥】
【所持金:銀貨3枚】
【弱点:借金(金貨50枚)、取立人への恐怖】
【注記:裏社会の金貸し『赤サソリ商会』からの借金返済日が『今日の正午』まで。現在、時刻は11時50分。金を工面できなければ港に売り飛ばされるため、必死にギルドから金を巻き上げようとしている】
なるほど。
ただのクレーマーじゃない。追い詰められたネズミだ。
こういう奴は論理では止まらない。
だが、一番恐れているものを突きつければ、一瞬で逃げ出すはずだ。
俺は懐からメモ用紙を取り出し、走り書きをした。
『赤サソリ商会の取立人が、すぐそこの広場まで来ています。逃げるなら裏口が安全です』
俺はそれを小さく折り畳んだ。
どうやって渡すか。
俺が直接渡せば、ガストンの矛先が俺に向く。
あくまでマリー自身が撃退した形にしなければならない。
「……すみません、通ります」
俺は他の冒険者の陰に隠れながらカウンターに近づき、マリーの死角から、彼女の手元にメモを滑らせた。
ちょうど、ガストンが周囲の客を威嚇するために後ろを向いた一瞬の隙だ。
マリーの目の前に、突然白い紙切れが現れる。
「……?」
マリーは涙目でそのメモを見た。
見覚えのある筆跡(先日、書類整理の時に見た付箋の字と同じだ)。
彼女は直感的に、これが「助け舟」だと悟ったらしい。
彼女は震える手でメモを開き、中身を読んだ。
瞬間、彼女の目から怯えが消えた。
代わりに浮かんだのは、冷静な事務員の顔だ。
「おい! 聞いてんのか!」
ガストンが再びカウンターに向き直る。
マリーは背筋を伸ばし、毅然とした声で言った。
「ガストン様。追加報酬の交渉よりも、お急ぎになった方がよろしいのでは?」
「ああん? 何だと?」
「先ほど情報が入りました。『赤サソリ商会』の方が、貴方を探して広場の方にいらしているようですよ?」
ピクリ。
ガストンの巨体が硬直した。
「な……なんで、お前……それを……」
「当ギルドの情報網を甘く見ないでください。……あと十分で正午ですね。今ならまだ、裏口から出れば間に合うかもしれませんが……どうされますか? ここで報酬の交渉を続けますか?」
マリーはニッコリと微笑んだ。
それは営業スマイルだが、今のガストンにとっては死神の微笑みに見えただろう。
「ひぃっ……!」
ガストンの顔色が土色に変わる。
彼は報酬を受け取るどころか、自分の荷物すら忘れて、脱兎のごとくギルドの裏口へと走っていった。
「あ、逃げた」
「すげえ……あのガストンを口先だけで追い払ったぞ」
周囲の冒険者たちがどよめく。
マリーは大きく息を吐き、へなへなと椅子に座り込んだ。
「はぁ……怖かった……」
彼女は手の中のメモを握りしめている。
心臓が早鐘を打っているが、それ以上に達成感があった。
理不尽な暴力に、情報という武器で打ち勝ったのだ。
「マリーさん、大丈夫か?」
俺が近づくと、彼女はパッと顔を上げた。
「あ、はい! 大丈夫です! ……あの、これ」
彼女はメモを俺にチラリと見せた。
俺は首をかしげる。
「なんですか、それ?」
「……ううん、なんでもないです」
彼女はメモを大事そうにポケットにしまった。
そして、小声で呟く。
「(やっぱり、妖精さんは見ててくれたんだ。私が困ってると、必ず助けてくれる……)」
彼女はカウンターの下で、小さくガッツポーズをした。
その顔には、以前のような頼りなさはなく、少しだけ自信が宿っていた。
俺は苦笑いしながら、その場を離れる。
妖精じゃない。ただの密告だ。
だが、彼女が「自分は守られている」と信じて強気になれるなら、それでいい。
受付嬢が弱気だと、依頼の処理も滞るからな。
俺はガストンが忘れていった安物の剣をギルドの遺失物係に届けながら、次の仕事(クエスト)を探し始めた。
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