鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道

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第23話 毒の手紙と、ペーパーナイフ

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「わぁ……! 私に手紙ですか?」

 休憩時間、マリーが顔を輝かせた。
 同僚の職員から渡されたのは、ピンク色の可愛らしい封筒だ。
 最近、マリーは仕事が早くなり、トラブル対応も的確になったことで(全て俺の裏工作のおかげだが)、冒険者たちからの評判がうなぎ登りだった。
 ファンレターの一つや二つ届いても不思議ではない。

「いいですね、マリーさん。モテモテじゃないですか」
「か、からかわないでください! でも……嬉しいです」

 彼女は頬を染めて、封筒を大事そうに受け取った。
 俺は近くで茶を飲みながら、何気なくその封筒を「鑑定」した。

 【封書】
 【差出人:匿名(恨みを持つ者)】
 【内容物:『赤痺れ茸』の乾燥粉末(微粒子)】
 【仕掛け:封筒の内圧が高められており、開封と同時に粉末が顔に向かって噴出する構造】
 【注記:吸い込めば即座に喉が焼け付き、三日三晩声が出なくなる。皮膚に触れるだけで激しい炎症を起こす】

 ……ファンレターじゃなかった。
 たちの悪い嫌がらせだ。おそらく、先日撃退したガストンの仲間か、彼女の出世を妬む誰かの仕業だろう。
 マリーが無防備にこれを開ければ、彼女の喉は潰れ、受付嬢としての仕事ができなくなる。

「早速、読んでみますね!」

 マリーはウキウキしながら、デスクの上のペーパーナイフに手を伸ばした。
 そのナイフで封を切った瞬間、毒の煙幕が彼女を襲う。

「あ、マリーさん。ちょっと待った」

 俺は椅子から立ち上がり、自然な動作で彼女の手からペーパーナイフを取り上げた。

「え? 何ですか?」
「そのナイフ、汚れてますよ。さっきリンゴの皮を剥くのに使ったでしょう? 果汁がついたままだと、大事な手紙が汚れちゃいます」

 嘘だ。ナイフはピカピカだ。
 だが、マリーは素直に「あ、そうでしたっけ?」と手を止めた。

「俺が綺麗にしますから。ついでに開けちゃいますね」
「えっ、でも……」
「手が汚れてるといけないんで。俺の手なら汚れてもいいですから」

 俺は有無を言わせず封筒も取り上げた。
 そして、手元にあった手拭いを水差しで湿らせる。
 ビチャビチャになるまで濡らした布で、ペーパーナイフの刃を包み込む。

 ここからが勝負だ。
 俺はマリーに背を向け、「汚れを拭き取るふり」をしながら、湿った布越しにナイフを封筒の隙間に差し込んだ。

 通常なら、乾いたナイフで切れば、紙の弾力で粉が舞う。
 だが、水分をたっぷりと含んだ布で封筒の口を完全に塞ぎながら、ゆっくりと切開することで、飛び出そうとする微粒子を全て水で吸着させる。

 ズブッ、ズズズ……。

 湿った音がする。
 開封口が開くのと同時に、プシュッと内圧が解放されるが、毒の粉は舞い上がることなく、全て濡れ雑巾(俺の手拭い)に吸い取られ、ドス黒いシミとなって封じ込められた。

 【状態:毒粉の無力化完了】

 俺は布を慎重に畳んで毒を閉じ込め、中身の便箋だけをピンセットのように指先で摘み出した。
 便箋にも少し粉がついていたが、それも湿った布で拭き取って無害化する。

「はい、どうぞ。綺麗に開きましたよ」

 俺は中身の紙だけをマリーに渡した。
 毒の粉を吸い取って変色した手拭いは、素早くポケットに隠す。

「あ、ありがとうございます……。親切ですね」

 マリーは少しキョトンとしていたが、笑顔で便箋を受け取った。
 そして、中身を読む。

『チョウシニ ノルナ ブス』

 汚い字で、たった一行。
 悪意の塊のような文面だ。

「……え?」

 マリーの表情が凍りついた。
 期待していたファンレターからの落差に、彼女の手が震える。

「ひどい……私、何か恨まれるようなこと……」

 涙目になるマリー。
 だが、俺は少しホッとしていた。
 精神的なショックはあるだろうが、物理的なダメージ(喉の破壊)は防げたからだ。
 言葉の暴力は痛いが、声が出なくなるよりはマシだ。

「気にすることないですよ。有名税みたいなもんです」

 俺は軽く慰める。
 マリーはしょんぼりと肩を落とした。

「でも……怖いです。もし、もっと危ないものが入っていたら……」

 彼女の勘は鋭い。実際に入っていたのだから。

「大丈夫ですよ。俺がいる時は、俺が先にチェックしますから」
「……本当ですか?」
「ええ。俺は荷物番ですから、荷物の検品は得意なんです。怪しい手紙は、俺が全部『処理』します」

 物理的に、な。
 俺がそう言うと、マリーは涙を拭って、少しだけ微笑んだ。

「ありがとうございます……。貴方がいると、本当に安心します。まるで、悪いものを全部追い払ってくれるみたい」

 彼女は便箋をくしゃりと丸めてゴミ箱に捨てた。

「そうですね。負けません。私には、貴方という最強の『検品係』がついていますから!」

 彼女は立ち直りが早い。
 俺への信頼度がまた上がってしまったようだ。
 「検品係」という新しい役職が増えたが、まあいいだろう。
 彼女が毒で倒れて、ギルドの窓口が麻痺するよりはずっといい。

 俺はギルドを出て、裏路地のゴミ捨て場に向かった。
 ポケットから取り出した毒まみれの手拭いを、火魔法(着火石)で焼却処分する。
 黒い煙が上がり、毒の成分が熱分解されて消えていく。

 ……やれやれ。
 ペーパーナイフ一本で防げる陰謀など、可愛いものだ。
 俺は灰になった手拭いを踏み消し、次の依頼へと向かった。
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