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珈琲
しおりを挟むカランコロン
入口につけたドアベルが鳴った。
「いやー参った。大雨だよ。」
そう言いながら男性が傘立てに傘を入れる。
うちの喫茶店の常連の岩井さんだ。
「いらっしゃい、岩井さん。外はそんなに降ってんのかい?」
「土砂降りだよ。さっきまではパラパラ降る程度だったんだけどさ、急に降ってきやがった。」
「そりゃあ大変だ。今タオル持ってくるから待っててくれ。」
そういうと私は店の裏に入った。
「いやいや、大丈夫。腕と裾がちょっと濡れただけだから。それより、いつものやつ頼むわ。」
店内から岩井さんの声が聞こえたが、構わずタオルを取りに向かい、タオルを持って店内に戻った。
「はい、タオル。」
私は岩井さんにタオルを渡そうとした。
その時、店内に岩井さん以外の人影が見えた。
それは若い男性だった。
スーツ姿だが手ぶらで少し疲れた顔をしている。
私は、いつドアベルが鳴ったんだろうと不思議に思いつつ、
「あれ、いらっしゃい。」
と声をかけた。
そして、岩井さんにタオルを渡しながら、
「あんたもタオルいるかい?」
と尋ねた。
だが、男性は首を横に振った。
たしかに全く濡れていないようだった。
「そうかい…。」
私はそう言ってタオルを置き、2人分のお冷を用意して運んだ。
「はい、お冷。」
「おう、ありがとう。」
「そんで、注文は岩井さんはいつものやつだったね。お客さんは決まったかい?」
男性に尋ねた。
男性はメニュー表のアイスコーヒーを指さした。
「アイスコーヒーね。他に注文は?」
男性は首を横に振る。
「あいよ。」
私はそう言ってカウンターに戻り、注文の品を用意し始める。
少しして、店内にコーヒーの香りが立ち込んだ。
「はい、アイスコーヒーとたまごサンド。」
そう言いながら私は岩井さんのテーブルに置き、
「はい、アイスコーヒー」
と言って男性のテーブルに置いた。
「あぁ、ありがとう。」
岩井さんはそう言ってたまごサンドを食べ始めた。
男性の方は飲み始める雰囲気は無かったが、そのうち飲むだろうと気にせず、岩井さんと雑談を始めた。
しばらく雑談を楽しんでいると、
「あっ!もうこんな時間!」
突然岩井さんが呟いた。
私はそれを聞き、時計を見た。
「本当だ。じゃあ、そろそろ帰るかい?」
「あぁ、そうする。会計たのむよ。」
「わかった。いつも通り730円だ。」
「あっ、兄ちゃんの会計も一緒にしてくれ。」
「えっ?」
私は少し驚いた。
男性もこちらを振り向く。
「いやさ、お兄ちゃんあんまり顔色良くないからさ…。若い子をちょっとでも助けてあげたいっていうじじい心よ…。」
岩井さんはそう言いながら男性のコーヒー代も合わせた1060円ちょうどをトレーに置いた。
「なるほどなぁ。でもそれなら私がお兄ちゃんの会計をタダにするからいいよ。」
「それは駄目だ。ちゃんと貰うもんは貰っとかねーと。」
「いや、でも…。」
「いいから、いいから。ご馳走さん。」
カランコロン
岩井さんはそう言うと店を出ていった。
私は店先まで見送ろうと思い後を追った。
途中、入り口の前で傘立てに岩井さんの傘が一本だけ立っているのを見つけ、その傘も持って行った。
「岩井さん!傘忘れてる!」
そう言いながら、私は岩井さんに追いつき傘を渡した。
「あぁそうだ。雨が降ってなかったから忘れてたわ。ありがとう。」
「いやいやこちらこそ、今日も来てくれてありがとね。」
「いやいやこっちこそありがとう。また行くから。」
そう言うと岩井さんは帰っていった。
その後私は店に戻った。
するとそこには誰もいなかった。
「えっ?」
私は少し驚きつつも、
「帰ったのか。お代は岩井さんが払ってくれたけど、一言くらい言ってから帰って欲しかったなぁ…。コーヒーもほとんど飲んでないし…。」
と小さくつぶやいてすぐにコーヒーを片付けた。
(答え)
若い男性が入ってきたとき、店主はドアベルに気づかなかった。いつ鳴ったのかと思っているので普通なら聞こえるのだろう。また、大雨の中来たにも関わらず全く濡れていない。傘立てには岩井さんの傘しかなく、手ぶらで傘を持っていないのに…。加えて、注文したコーヒーも飲まずいつのまにかいなくなっていた…。もしかすると、幽霊だったのかもしれない…。
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最初の方に山本と山田を間違えているところがあり、この人は山田?山本?となり内容が混乱しました。