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探らぬ契り
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5日後、訪れた市でかの音は聴こえてこなかった。何か事情があって来られなかったのかもしれない。そう思い再び訪れてみたがやはりセラの姿はなかった。
(まさか....本当に逃げたのか?)
そんなはずはないとも言い切れなかった。
身分差にも気づいているだろう。何かを抱えた理性的な瞳、幸せを感じることへは恐怖すら感じられた。
場所を変えたのかと他の場所も回ってみた。レオを避けているのなら時間帯や曜日を変えたことも考えられる。
(もし見つからなければ?)
近くの村に住んでいると言った。村をしらみ潰しに探せば見つかるかもしれない。
自分でもはっきりしない執着の理由。美しい音や容姿。影を落とす伏せられた目。華奢な身体の内側から発せられる強さ。その全てを、ただ知りたいと思う。
(あの時と同じ轍は踏まない。)
屋敷に早帰りはするものの一転して殺気立っているレオに使用人たちはどう接するべきかを測りきれないようだった。
「今日も市へ行かれるのですか?」
執務中にそう聞くのは側近のクシェルだった。市へ出る理由も知っているのは彼だけだ。
「ああ。そのつもりだが。」
「1週間以上見つからないとか。」
「何が言いたい?」
「たかが村娘でしょう。殿下がそこまで心を砕くべき相手ではありません。」
「たかが...か。そうなんだろうな。だがな、クシェル。俺はあの女に会ってから退屈を感じない。」
「その女のおかげで家に帰り仕事をするようになったのは素晴らしいですが、いなくなっただけでこれほど荒れるのであれば意味がありません。」
「まさかいきなり逃げられるとは思わないだろう?」
「どうせまた押したんじゃないですか?貴族のご婦人なら嬉しいかもしれませんが、村娘にとったら分不相応だと思われても不思議ではありません。」
「変装はしているがな。」
「身分の高さは隠せてません。ましてやゲルプナーシュをいきなり持っていくなど...王族ですと言っているようなものですよ。」
「喜んでいたのにな。だがあれはただの村娘ではないぞ。」
「何故そう思われるのです?」
「立ち振る舞いはそう簡単に変わるものではない。俺はあれほど品のある村娘は見たことがないな。」
「仮にその村娘が平民でなかったとして、厄介ごとがあるのは確実です。」
「そうだろうな。」
「軽く言わないでください。貴方様は仮にも王弟という立場なのですから。」
「....お前までそんなことを言うとは残念だ。
お前らがどう思おうが構わん。俺はセラを手に入れる。どんな手を使ってもな。」
「本人が望まなければ?」
「望めるようにしてやる。望ませて、俺が必要だと思えるようにするだけだ。クシェル、俺が行けない時はお前が出向け。」
「何故私まで。下のものに任せればいいでしょう。」
「お前以上に信頼できる奴はおらん。」
「そう言えば私が断れないことをご存知のようですね。」
「ああ、事実だからな。頼んだぞ。」
「はぁ.....これ以上荒れられてはたまりません。お受けします。」
2週間経っても、セラが現れたと言う報告はなかった。焦りが募り、そろそろ市は諦めるべきかと思ったその日、待ち焦がれた音が聞こえてきた。流れる祈りの曲は哀しみに満ち、彼女が泣いているのではないかと心配になった。
「セラ」
「レオ様....」
振り返ったセラは幽霊でも見たかのような顔をしていた。その顔を見て、彼女が逃げようとしたことを確信する。
「忙しかったのか?」
「少し急患がいまして....来られてたんですか?」
「ああ。逃げてしまったんじゃないかと不安でたまらなかったんだ。」
「それは....申し訳ありませんでした。」
「謝るな。今日来ただけで十分だ。あっちに行くか?」
ついてくるセラはいつもより緊張しているようだ。逃げた罪悪感が残っているのだろうか。
「座れ」
隣を叩くと硬い動きでセラは腰を下ろした。
菓子を差し出そうとしたその動作はセラの声によって遮られた。
「毎日来ておられたのですか?」
「ん?ああ、俺自身が来れない日はあったが。」
「私は旅人だと申したでしょう。いついなくなってもおかしくありません。」
「ああ、そうだな。だが俺は逃げるなとも言った。」
「私より腕のいい楽師などいくらでもいます。」
「そうかもな。それでもお前と同じやつはいない。」
「それは...」
「分かったら大人しく食べろ。何を抱え込んでるかは聞かない。旅を続けているのにもそれなりに理由があるんだろう?束の間の休息だとでも思えばいい。」
そこまで言って、やっとセラは頷いた。
菓子を口にしたセラの顔が前回と同じように綻んだ。
「美味しい...」
笑う陰に目尻が光ったのは気のせいだろうか。
時折見せる冷たさと諦めの混じった瞳。聞かないと言った以上不要な詮索はするつもりはないがーーーー
「何歳なんだ?」
「え?」
「歳。笑えば18に見えるし話すとないと思うが25に見える。」
「20です。」
20。若くとも大人だ。多くの女は結婚し子供がいてもおかしくない年齢。
「家族はいるのか?」
「一緒に暮らしているものはおりません。」
離れた場所にはいるということか。家族のことを聞いた瞬間硬くなった。あまり聞かない方が賢明だろう。
「ハープは誰に習ったんだ?教えたものもいい腕だったのだろう。」
「母に少し...レオ様は楽器は演奏されないのですか?」
「俺か?リュートは少し弾くが。聴く方が好みだな。」
「リュートもハープとはまた違った響きで良いですね。」
「急患と言ったな。薬師が何かか?」
「少し知識があるだけです。医者には程遠い。」
「まだまだ医療の知識があるものは少ない。そういったものが現れたら村としては助かるだろうな。」
「おかげで出る時苦労しそうです。」
そう言って少し遠い目をする。見える寂しさは何を思ってだろうか。
「セラ」
「なんでしょう?」
「まだ、行くなよ。俺はまだお前のことを何も知らない。」
「私もレオ様のことを何も知りませんよ。」
「なら知ればいい。知って、それでも逃げたいなら逃げればいい。」
「身分も明かさないのに?」
「.....お互い探られたくないことは探らない契約でも結ぶか?」
「それもいいかもしれませんね。」
ふっと笑うセラの横顔は美しかった。
(まさか....本当に逃げたのか?)
そんなはずはないとも言い切れなかった。
身分差にも気づいているだろう。何かを抱えた理性的な瞳、幸せを感じることへは恐怖すら感じられた。
場所を変えたのかと他の場所も回ってみた。レオを避けているのなら時間帯や曜日を変えたことも考えられる。
(もし見つからなければ?)
近くの村に住んでいると言った。村をしらみ潰しに探せば見つかるかもしれない。
自分でもはっきりしない執着の理由。美しい音や容姿。影を落とす伏せられた目。華奢な身体の内側から発せられる強さ。その全てを、ただ知りたいと思う。
(あの時と同じ轍は踏まない。)
屋敷に早帰りはするものの一転して殺気立っているレオに使用人たちはどう接するべきかを測りきれないようだった。
「今日も市へ行かれるのですか?」
執務中にそう聞くのは側近のクシェルだった。市へ出る理由も知っているのは彼だけだ。
「ああ。そのつもりだが。」
「1週間以上見つからないとか。」
「何が言いたい?」
「たかが村娘でしょう。殿下がそこまで心を砕くべき相手ではありません。」
「たかが...か。そうなんだろうな。だがな、クシェル。俺はあの女に会ってから退屈を感じない。」
「その女のおかげで家に帰り仕事をするようになったのは素晴らしいですが、いなくなっただけでこれほど荒れるのであれば意味がありません。」
「まさかいきなり逃げられるとは思わないだろう?」
「どうせまた押したんじゃないですか?貴族のご婦人なら嬉しいかもしれませんが、村娘にとったら分不相応だと思われても不思議ではありません。」
「変装はしているがな。」
「身分の高さは隠せてません。ましてやゲルプナーシュをいきなり持っていくなど...王族ですと言っているようなものですよ。」
「喜んでいたのにな。だがあれはただの村娘ではないぞ。」
「何故そう思われるのです?」
「立ち振る舞いはそう簡単に変わるものではない。俺はあれほど品のある村娘は見たことがないな。」
「仮にその村娘が平民でなかったとして、厄介ごとがあるのは確実です。」
「そうだろうな。」
「軽く言わないでください。貴方様は仮にも王弟という立場なのですから。」
「....お前までそんなことを言うとは残念だ。
お前らがどう思おうが構わん。俺はセラを手に入れる。どんな手を使ってもな。」
「本人が望まなければ?」
「望めるようにしてやる。望ませて、俺が必要だと思えるようにするだけだ。クシェル、俺が行けない時はお前が出向け。」
「何故私まで。下のものに任せればいいでしょう。」
「お前以上に信頼できる奴はおらん。」
「そう言えば私が断れないことをご存知のようですね。」
「ああ、事実だからな。頼んだぞ。」
「はぁ.....これ以上荒れられてはたまりません。お受けします。」
2週間経っても、セラが現れたと言う報告はなかった。焦りが募り、そろそろ市は諦めるべきかと思ったその日、待ち焦がれた音が聞こえてきた。流れる祈りの曲は哀しみに満ち、彼女が泣いているのではないかと心配になった。
「セラ」
「レオ様....」
振り返ったセラは幽霊でも見たかのような顔をしていた。その顔を見て、彼女が逃げようとしたことを確信する。
「忙しかったのか?」
「少し急患がいまして....来られてたんですか?」
「ああ。逃げてしまったんじゃないかと不安でたまらなかったんだ。」
「それは....申し訳ありませんでした。」
「謝るな。今日来ただけで十分だ。あっちに行くか?」
ついてくるセラはいつもより緊張しているようだ。逃げた罪悪感が残っているのだろうか。
「座れ」
隣を叩くと硬い動きでセラは腰を下ろした。
菓子を差し出そうとしたその動作はセラの声によって遮られた。
「毎日来ておられたのですか?」
「ん?ああ、俺自身が来れない日はあったが。」
「私は旅人だと申したでしょう。いついなくなってもおかしくありません。」
「ああ、そうだな。だが俺は逃げるなとも言った。」
「私より腕のいい楽師などいくらでもいます。」
「そうかもな。それでもお前と同じやつはいない。」
「それは...」
「分かったら大人しく食べろ。何を抱え込んでるかは聞かない。旅を続けているのにもそれなりに理由があるんだろう?束の間の休息だとでも思えばいい。」
そこまで言って、やっとセラは頷いた。
菓子を口にしたセラの顔が前回と同じように綻んだ。
「美味しい...」
笑う陰に目尻が光ったのは気のせいだろうか。
時折見せる冷たさと諦めの混じった瞳。聞かないと言った以上不要な詮索はするつもりはないがーーーー
「何歳なんだ?」
「え?」
「歳。笑えば18に見えるし話すとないと思うが25に見える。」
「20です。」
20。若くとも大人だ。多くの女は結婚し子供がいてもおかしくない年齢。
「家族はいるのか?」
「一緒に暮らしているものはおりません。」
離れた場所にはいるということか。家族のことを聞いた瞬間硬くなった。あまり聞かない方が賢明だろう。
「ハープは誰に習ったんだ?教えたものもいい腕だったのだろう。」
「母に少し...レオ様は楽器は演奏されないのですか?」
「俺か?リュートは少し弾くが。聴く方が好みだな。」
「リュートもハープとはまた違った響きで良いですね。」
「急患と言ったな。薬師が何かか?」
「少し知識があるだけです。医者には程遠い。」
「まだまだ医療の知識があるものは少ない。そういったものが現れたら村としては助かるだろうな。」
「おかげで出る時苦労しそうです。」
そう言って少し遠い目をする。見える寂しさは何を思ってだろうか。
「セラ」
「なんでしょう?」
「まだ、行くなよ。俺はまだお前のことを何も知らない。」
「私もレオ様のことを何も知りませんよ。」
「なら知ればいい。知って、それでも逃げたいなら逃げればいい。」
「身分も明かさないのに?」
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