9 / 181
血に染まった道で聞いた名
しおりを挟む
市へ行かなくなって2週間以上。今日はちゃんと菓子を買って帰らなければ。また子供達が拗ねてしまう。
獣道を抜け、気づけば奥まで来ていた。この辺りは初めてだ。
最近、賊が少ない。一見すると良いことのように見えるこの事実からセラは嫌な予感を感じていた。
進んでいくと丘が見えた。丘の上には小城があった。城の近くはまずい。敗残兵の弟を探しているなど言えるはずもなければ、害があると見做されれば拘束されかねない。人影が見え、慌てて踵を返し、来た道を戻る。だがあの城はどこか変だ。
手入れされている城には見えなかった。だが確かに見えたのは人影だった。早く抜けた方がいい。そう思い足を早めたのだが。
「止まれ!!」
賊の象徴のようなくすんだ灰のチュニックにベルトの金具。
元軍人か。
しかし顔を隠しもせず堂々とした賊だ。
「何者だ」
「ただの旅人ですが。見逃してはもらえませんか?」
敗残兵ならば弟のことを聞きたいがどうにもここを早く抜けた方がいい気がした。
「旅人?剣に馬まで乗ってか。悪いがここに入ってきたやつは城まで連れて行くことになっている。旅人なら運が悪かったな。」
なるほど。これは円満な解決は無理そうだ。そう思い、フードを脱いだ。
「なんだ、いい女じゃないかーーーー」
男が言い終わるよりも早く、空を切る音が裂き、男の腕は飛んでいた。
「ぐあぁぁぁぁ!!貴様っ....!」
片手でなお立ち向かってくる男を切り落としながら見えてくるのは向かってくる賊の集団だった。
....8人と言ったところか。大方騒ぎを聞きつけて加勢に来たのだろう。
「何だ、ロッシュの野郎の悲鳴が聞こえて来てみたら女1人にやられたのかよ」
「情けねえ。こんな上玉、中々手に入らねえのによぉ」
にやにやと笑いながら死んだ仲間を貶す賊。
見たところ元軍人だけではないようだ。多勢に1人。勝利を確信し余裕をかましているのかもしれないが。
生憎こんなことには慣れている。
「一つ聞きたい。」
「何だ?お嬢さん」
「お前たちはブルータル辺境伯の敗残兵か?」
「俺はそうだな。それがどうした?」
「辺境伯軍の医療班に16歳前後のブロンドの髪にブラウンの瞳。そして薬草に詳しいライという人物はいなかったか?」
「ああ、いたなあ。」
驚くほどあっさり言い放つ男に思わず言葉を失った。
「いた....?」
「ああ、いたぜ?ちょうど怪我をした時にそいつが手当してくれたんだよ。そいつがどうかしたのか?」
「.....あの戦の後、その男はどうなった。」
「確か最後まで前線の兵たちを治療してたな。さっさと逃げりゃいいのに。愚かなやつだぜ。」
「........死んだのか?」
「お前、今から自分がどうなるか分かってんのか?......まあいいさ、折角だし教えてやるよ。死んではないはずだ。どいつかに連れられて西の方へ逃げてるところを見たからな。どっかの村か医者なら王都にでも辿り着いてんじゃねえか?」
まさか。こんなところで情報が手に入るとは。
痺れを切らした男が急くように捲し立てた。
「なあ、もういいだろ?質問に丁寧に答えて何やってんだか。大人しく一緒に来るなら痛い目には遭わないぜ?」
欲に満ちた目。元軍人も賊に染まったか。
「遠慮しておこう。」
断りを入れ、男を切った。切られた男は何が起きたのかも理解できず倒れていった。
「ルッツ!このっ....!」
四方から向かってくる賊。切り、蹴り、飛ばす。確実に数は減っていたはずだった。
シュパッ!
しまった。ある程度腕の立つものが混じっていたらしい。
利き手でなかったのが幸いか。流れる血を止める間もなく向かいくる剣戟を受け流す。繰り出された斬撃をしゃがみ込んでかわし、顎を蹴り上げた。飛ぶ男を切り、息を吐く間もなく馬に飛び乗って駆けた。
(一刻も早くここを抜けなくては....)
王都中枢はこの賊の存在を把握しているのだろうか。手入れのなされていない城に、元軍人と野良が混じった賊。数も少なくはなさそうだった。
「はあっ.....」
ここまで来れば流石に追ってこないだろう。
「このまま村に帰ったらエレンになんて言われるかな」
苦笑いしながら見ると腕の出血は止まらず、衣は赤に染まっていた。
止血を済ませ、もたれかかると感じる木のざらついた感触。
『ああ、いたさ』
『最後まで前線の兵たちを治療してたな』
傷ついた人間を放って逃げ出すような腰抜けに成長しなくてよかった。
恐らく生きている。それならもう十分じゃないだろうか。
無性に、あの口に溶ける菓子が食べたくなった。
獣道を抜け、気づけば奥まで来ていた。この辺りは初めてだ。
最近、賊が少ない。一見すると良いことのように見えるこの事実からセラは嫌な予感を感じていた。
進んでいくと丘が見えた。丘の上には小城があった。城の近くはまずい。敗残兵の弟を探しているなど言えるはずもなければ、害があると見做されれば拘束されかねない。人影が見え、慌てて踵を返し、来た道を戻る。だがあの城はどこか変だ。
手入れされている城には見えなかった。だが確かに見えたのは人影だった。早く抜けた方がいい。そう思い足を早めたのだが。
「止まれ!!」
賊の象徴のようなくすんだ灰のチュニックにベルトの金具。
元軍人か。
しかし顔を隠しもせず堂々とした賊だ。
「何者だ」
「ただの旅人ですが。見逃してはもらえませんか?」
敗残兵ならば弟のことを聞きたいがどうにもここを早く抜けた方がいい気がした。
「旅人?剣に馬まで乗ってか。悪いがここに入ってきたやつは城まで連れて行くことになっている。旅人なら運が悪かったな。」
なるほど。これは円満な解決は無理そうだ。そう思い、フードを脱いだ。
「なんだ、いい女じゃないかーーーー」
男が言い終わるよりも早く、空を切る音が裂き、男の腕は飛んでいた。
「ぐあぁぁぁぁ!!貴様っ....!」
片手でなお立ち向かってくる男を切り落としながら見えてくるのは向かってくる賊の集団だった。
....8人と言ったところか。大方騒ぎを聞きつけて加勢に来たのだろう。
「何だ、ロッシュの野郎の悲鳴が聞こえて来てみたら女1人にやられたのかよ」
「情けねえ。こんな上玉、中々手に入らねえのによぉ」
にやにやと笑いながら死んだ仲間を貶す賊。
見たところ元軍人だけではないようだ。多勢に1人。勝利を確信し余裕をかましているのかもしれないが。
生憎こんなことには慣れている。
「一つ聞きたい。」
「何だ?お嬢さん」
「お前たちはブルータル辺境伯の敗残兵か?」
「俺はそうだな。それがどうした?」
「辺境伯軍の医療班に16歳前後のブロンドの髪にブラウンの瞳。そして薬草に詳しいライという人物はいなかったか?」
「ああ、いたなあ。」
驚くほどあっさり言い放つ男に思わず言葉を失った。
「いた....?」
「ああ、いたぜ?ちょうど怪我をした時にそいつが手当してくれたんだよ。そいつがどうかしたのか?」
「.....あの戦の後、その男はどうなった。」
「確か最後まで前線の兵たちを治療してたな。さっさと逃げりゃいいのに。愚かなやつだぜ。」
「........死んだのか?」
「お前、今から自分がどうなるか分かってんのか?......まあいいさ、折角だし教えてやるよ。死んではないはずだ。どいつかに連れられて西の方へ逃げてるところを見たからな。どっかの村か医者なら王都にでも辿り着いてんじゃねえか?」
まさか。こんなところで情報が手に入るとは。
痺れを切らした男が急くように捲し立てた。
「なあ、もういいだろ?質問に丁寧に答えて何やってんだか。大人しく一緒に来るなら痛い目には遭わないぜ?」
欲に満ちた目。元軍人も賊に染まったか。
「遠慮しておこう。」
断りを入れ、男を切った。切られた男は何が起きたのかも理解できず倒れていった。
「ルッツ!このっ....!」
四方から向かってくる賊。切り、蹴り、飛ばす。確実に数は減っていたはずだった。
シュパッ!
しまった。ある程度腕の立つものが混じっていたらしい。
利き手でなかったのが幸いか。流れる血を止める間もなく向かいくる剣戟を受け流す。繰り出された斬撃をしゃがみ込んでかわし、顎を蹴り上げた。飛ぶ男を切り、息を吐く間もなく馬に飛び乗って駆けた。
(一刻も早くここを抜けなくては....)
王都中枢はこの賊の存在を把握しているのだろうか。手入れのなされていない城に、元軍人と野良が混じった賊。数も少なくはなさそうだった。
「はあっ.....」
ここまで来れば流石に追ってこないだろう。
「このまま村に帰ったらエレンになんて言われるかな」
苦笑いしながら見ると腕の出血は止まらず、衣は赤に染まっていた。
止血を済ませ、もたれかかると感じる木のざらついた感触。
『ああ、いたさ』
『最後まで前線の兵たちを治療してたな』
傷ついた人間を放って逃げ出すような腰抜けに成長しなくてよかった。
恐らく生きている。それならもう十分じゃないだろうか。
無性に、あの口に溶ける菓子が食べたくなった。
10
あなたにおすすめの小説
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます
白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。
たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ
仮面の下の秘密とは?
大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?
ハートリオ
恋愛
イブはメイド。
ある日主人であるブルーベル様の記憶が2つある事に気付き、時間が巻き戻されていると確信する。
しかも巻き戻り前は美しく優秀だったブルーベル様。
今はオジサン体型でぐうたらで。
もうすぐ16才になろうというのに婚約者が見つからない!
巻き戻された副作用か何か?
何にしろ大迷惑!
とは言え巻き戻り前は勉強に鍛錬に厳しい生活をしていた彼。
今回の方が幸せ?
そして自分の彼への気持ちは恋?
カップルは男性が年上が当たり前の世界で7才も年上の自分は恋愛対象外…
あれこれ悩む間もなくイブはメイドをクビになってしまい…
借りてきたカレ
しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて……
あらすじ
システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。
人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。
人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。
しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。
基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる