王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
127 / 181

血のない戦、笑う宰相

しおりを挟む
血のない戦、笑う宰相
「晩餐会のお時間でございます。」
「ああ、すぐ向かう。」
「さて、ある意味戦ですね。」
「外交は血の飛ぶ戦場より厄介だからな。心してかかれよ。」
案内された部屋に入り、座っている者を見ればその異質さが分かる。
予想通り、王の左側に座るのは正妃ではない。宝飾品を纏い、舞姫出身というだけの美貌を持った女が座し、中央部には宰相、その隣にはアラリックではなくエスペラントが座っている。本来王の左列、宰相より上位の位置に座るべきはエスペラントだ。その位置は彼がこの外交において飾りであることを示している。
(アラリック支持派が多い中でこの席次.....宰相は余程示威したいと見える。)
案内された、王の右側の席に腰掛ける。他国の王族に対する最大の敬意が払われる位置。流石にここで礼を欠くつもりはないらしい。
「レオポルト殿下、ようこそコアルシオンへお越しくださいました。
カルディア王国とコアルシオン、両国の友好を望むものである。
今宵の晩餐、カルディアより賜った酒と共に楽しんで行かれよ。
では皆、杯を。」
一見すると普通の挨拶。だが声には覇気もなく紙に書いた言葉をそのまま読み上げたかのようだ。
「アマリエル、さあ飲みたまえ。食事も君が好むものだ。」
「まあ殿下、お酒はほどほどになさいませ。」
外交に来ているレオを無視して側妃の世話をする始末。これほどとは。
「遠路はるばる、このように戦の噂のある中で来られるのはさぞ不安だったでしょう。私は宰相のアンツェルーシュと申します。」
薄笑いを貼り付けたアンツェルーシュが話しかけてくる。王は最初から眼中にないらしい。
「お心遣い、感謝するが我が国としては一刻も早く友好を示し、戦を回避する必要があった。アラリック王子もそう思われていると聞いているが?」
「ええ、アラリック王子は平和主義ですからねえ。それに聡明だ。現王やエスペラント王子と違って。」
「彼らは平和主義ではないと?」
「そうは申しておりません。物事を視るという意味ですよ。早くアラリック王子とお話になりたいのでは?」
「そう急いてはいない。滞在はあと7日ほどある。そのうちに話す機会もあろう。」
「最終日にはお二人での晩餐の機会も用意してあります。ゆっくりとお楽しみください。お二人とも妻子のおらぬ身でしょう。....いや、殿下はもうすぐですかな?」
確信する。セラを狙ったのはこの男だ。
「何の話だ?私もアラリックも周りにそう急かされる年になってきた。敵わないな。」
「やはり妃は重要ですからな。アラリック王子にはお母上のような堅実な妻を娶ってもらいたいものです。」
この男の言うことが全て嘘に聞こえる程度には嘘臭い。
「エスペラント王子、お久しぶりです。10年ほど前にお会いして以来でしょうか。」
「ああ....そうでしたね。あまり記憶にありませんが。」
「私がアラリック王子と話している間、王子は絵を描いておられた。今も描かれているので?」
「ええ、まあ。周りにはやめろと言われてばかりですが。」
「王子の描く絵は芸術的に優れたものばかりだ。王宮を彩るのに良いのでは?」
「私は....絵は描きたいですが、外交などは苦手なので。そういったことはアラ.....」
話していたエスペラントをアンツェルーシュが遮った。
「エスペラント王子は創作活動をしながらでも国の行く末を考えておられる。素晴らしい王子です。」
「そのようだな。」
実際、エスペラントの絵はレオも見たことがある。王子、それも第一王子として生まれたことを不憫に思う程には才に溢れた絵を描いていた。
「それにしてもレオポルト王弟殿下がこれほどの器量をお持ちの方とは知りませんでしたわ。」
場を一切気にせぬ女の声が空気を裂いた。
「いえ、それほどでもないですよ。お酒はお口に合いましたか?」
「ええ、それはとても。こんな器量の良い方と飲むお酒は味も良くなると言うものです。」
「ご冗談を。王自ら妃に注がれた酒です。味が悪いわけがない。」
「あら、連れない方ね。コアルシオンでしか採れない宝石というのはご存知?」
「ええ、存じております。」
「ご興味はあって?」
「そうですね。一度見てみたいと思ったことはあります。」
「でしたら見せてあげるわ。晩餐会の後いらして頂戴。勿論殿下も一緒ですから噂など立ちませぬわ。」
女の意図が読めない。レオを誘うつもりなのか、それとも宝石に意味があるのか。
(.....飛び込んでみるか。)
「王もいらっしゃるのでしたら。ご厚意感謝いたします。」
「いいのよ。楽しみにしているわね。」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?

ハートリオ
恋愛
イブはメイド。 ある日主人であるブルーベル様の記憶が2つある事に気付き、時間が巻き戻されていると確信する。 しかも巻き戻り前は美しく優秀だったブルーベル様。 今はオジサン体型でぐうたらで。 もうすぐ16才になろうというのに婚約者が見つからない! 巻き戻された副作用か何か? 何にしろ大迷惑! とは言え巻き戻り前は勉強に鍛錬に厳しい生活をしていた彼。 今回の方が幸せ? そして自分の彼への気持ちは恋? カップルは男性が年上が当たり前の世界で7才も年上の自分は恋愛対象外… あれこれ悩む間もなくイブはメイドをクビになってしまい…

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

処理中です...