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心を預ける場所はただ一つ
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心を預ける場所は、ただ一つ
「階段登って右奥……合ってるのかな」
もし間違っていたらどうしよう。セラは方向音痴には自信があった。
訳もわからないままドアノブを回してみたが鍵がかかっているようで途方に暮れた。やはり間違っているのだろうか。
なけなしの勇気を振り絞ってノックしてみる。するとドアが開いた。出てきたのは――――
「セラ?」
「レオ様……」
どれくらい、固まっていただろうか。ふいに腕を引かれ、唇を重ねられた。背後でドアが閉まる音がする。そんなことに気を取られることを許さない、そんなキス。
「あっ……やぁ……ん……」
「お前のそんな声……聞くの久しぶりだ。堪らない……」
口内をまるで味わうようになぞり、絡められる舌に身体がゾクリと震える。
「んんっ……や、ダメ……はぁっ」
ようやく解放されて呼吸を整える。熱を帯びた瞳。レオが、必死に抑えているのが分かる。その姿が、余計に色っぽいことを、彼は分かっているんだろうか。
沢山、不安があった。だけどそんなもの全て捨てても飛び込んでしまいたい衝動が勝った。
レオの胸に抱きつくと驚きながらも抱きしめてくれる。
「レオ様……」
「まさかここに来るなんて思わなかった。誰に聞いたんだ?」
「王が、階段を上がって右奥の部屋に褒美があるから行けと……」
「……なるほど、あの狸め。やってくれる。」
ふと、自分が馬を駆けて汗だくで来たことを思い出した。
思わず取った距離に不満そうなレオ。
「おい、何だ急に。」
「いえ、よく考えたら私馬を走らせてきて汗だくで……」
「……なんだそんなことか。血まみれのお前を抱くよりマシだ。」
血まみれ。その一言で不安が一気に蘇る。私が言うことをレオ様はきっと嫌うから。
「おい、どうした?急に無言になって。また何か勘違いしてるんじゃないだろうな。」
「……いえ、勘違いはしていません。」
「ならどうした?臭いなんか気にしないからこっち座れ。」
優しい顔、優しい声。出会った時から変わらない。何度この人に救われたんだろう。もし、これで嫌われたら私はきっとショックで寝込んでしまう。なんなら戦地に飛び出す本物の戦闘狂になるかもしれない。
それでも、自分が、言ったんじゃないか。私の恋人はとても寛容だと。
背中をさすってくれる大きな手。私を安心させようと、懸命に手を尽くしてくれる。
「……レオ様、もしかしたら私が話すことをレオ様は嫌うかもしれません。」
「お、おお?どんな内容だ?他の男を好きになった以外は受け入れる自信があるぞ。」
ほら。だから、勇気を出して。自分へ言葉を吐いて、意を決する。
「……エイマールの王子の元へ向かう途中、ある男と戦いました。その男は強くて、一瞬でも気を抜けば殺されていたでしょう。……でも、その男と戦っているうちに思考がクリアになりました。感覚も研ぎ澄まされ、そこに快感が生まれました。それに気づいた時、ショックでした。私は自分が戦いで楽しさを感じるなどと、思っていなかったのです。でもよく考えれば過去もそうでした。強い敵と戦う時、クリアになって生を感じる瞬間が好きだったのです……。レオ様は、こんな女はお嫌いですか……」
話しながら、いたたまれなくなった。最後などほぼ聞こえないだろう。膝に埋めた顔に、流れる沈黙が刺さる。
「……まず言わせて欲しいんだがさっきも言った通り他の男を好きになった以外の話で俺がお前を嫌うことはまずない。そこだけは勘違いするなよ。頼むから。」
膝から、顔を上げる。
「ほら、また泣きそうな顔して……お前のおかしな行動に俺の胃は痛むが俺の愛が変わるわけじゃない。ああもうこっち来い。」
乗せられた膝の上がなんだか懐かしい。でも、やっぱり顔を見るのは情けない気がした。
「セラ、こっち向け。」
頬に添えられる手。合う目から、逃げ出したくなる。
「俺は少し勘違いしていた。お前の飛び込み癖は育ちから来て本来は人を斬りたくないのに斬ってるんだろうと。だがそれは違った。お前は意外にも根っからの飛び込み癖があり戦好きだった。それだけだ。俺は戦は用意してやれんけどな。」
本当に何とも思ってないように、笑って言う彼。私の不安をいつも綺麗に洗い流してしまう人。
だけどね。
私は貴方のこと以外だったらこんなに不安にならない。なんだって何とかなるって思うから。全部、貴方だけ。
そう言ったら貴方は喜んでくれる?
レオの首に手を回して抱きしめる。この人が、生きてることを感じたくて。
「何だか、セレスティノ王子の気持ちが分かります……」
「なんなんだ急に……」
「シャッツェル王女はセレスティノ王子の性癖を受け入れて夫婦関係は至極良好だそうです。裏切ったのは、アーノルト王に性癖を知られ、シャッツェル王女を連れ戻されたくなかったからだとか。」
「……お前兄上に何か言ったのか。」
「……あまりにも同情心が沸いたので今回の功績を武器に温情をお願いしておきました。叶うことを願うばかりです。」
「……お前なあ、それ使って俺との結婚を望んでもよかったのに。」
「……王にも言われました。でもそれではダメなのです。私の出自がある以上、皆が納得する形でなければならないのです。」
恨みがましそうなレオ。コツンと額を弾いた彼は諦めたように息を吐いた。
「なら俺はさっさとコアルシオンに行って交易権を貰ってくるとしよう。いい加減触れられないと俺がおかしくなる。」
「……レオ様は、本当に私でいいのですか?」
「……そろそろ怒るぞ。」
「純粋な質問です。この世界には多くの女性がいます。レオ様はその多くを選べるお立場にいるのです。それでも、私がいいと、言われるのですか?」
「……ああ、そうだ。他の誰でもない。お前が俺の全てだ。……お前こそどうなんだ?舞踏会での話を俺は聞いてないぞ?」
「……人を好きになることが、人を傷つけることだとは知りませんでした。」
「誰かに言い寄られたか?」
「……オルヴェイン近衛隊長に少し。」
「は、オルヴェイン!?」
「はい。」
「なんでまたあいつが……というかあいつはお前の好みだろ。」
言い当てられる図星に動揺する。
「な、何故それをレオ様が……」
「情けないながらライに聞いた。寡黙な職人気質の男が好みなんだろう。」
「いや、それは。ちが……わなくはないですが。で、でもちゃんと断りました!私はレオ様以外興味なんて……んっ!……ゃ……」
「悪いな。必死に弁明する姿があまりにも可愛かった。」
「もう……私は必死なのに。」
「で?お前が不安に思ってることは他にはないのか?」
「ありません……」
「本当か?なら何でそんなに落ち込んでる。」
「いつも話す前どうしようもない程不安だったことをレオ様があまりにあっさり受け入れてしまうのでなんだか心の行き場がなくなるのです。」
「そうか。なら。」
もう一度ぎゅっと抱きしめられて胸に押し付けられる頭。
「ここに持って来い。間違っても他に持って行くなよ。俺のところだ。いいな?」
ああ、好きだと思う。もっと触れて、もっともっとと欲が湧いてしまうくらいには。
「はい。レオ様も、ちゃんと私のところに持ってきてくださいね。」
「そうしよう。……しかし、お前今日寝る部屋は貰ってるのか?」
「そういえば……何も聞いてませんね……」
再び訪れる沈黙。考えてることなんて、きっと同じだろうけど。
「私、王に聞いてきます。」
出て行こうとして、引かれる手。背後から回される手に、出られなくなってしまう。
「なあ、部屋が違うならそれでもいい。多分いい部屋を用意してくれてる。湯浴みでもして、そしたら……俺のところに来てくれないか?」
「で、でも……」
「何もしない。約束する。お前と結婚するまで、それだけは守るから。今回お前を何度も失いそうになった。1秒でも長く、お前を近くに感じていたい……ダメか?」
物凄く情けなくて正直に言うならセラだってきっと触れて欲しさに耐えるのが難しいと思う。ということはレオはその何倍も苦しいはずだ。それでも、一緒にいたいと、言ってくれている。
「……私は、レオ様と眠れるのは嬉しいです。」
「そうか。それなら部屋を聞いて来い。」
機嫌の良くなったレオに見送られて、部屋を出た。
「階段登って右奥……合ってるのかな」
もし間違っていたらどうしよう。セラは方向音痴には自信があった。
訳もわからないままドアノブを回してみたが鍵がかかっているようで途方に暮れた。やはり間違っているのだろうか。
なけなしの勇気を振り絞ってノックしてみる。するとドアが開いた。出てきたのは――――
「セラ?」
「レオ様……」
どれくらい、固まっていただろうか。ふいに腕を引かれ、唇を重ねられた。背後でドアが閉まる音がする。そんなことに気を取られることを許さない、そんなキス。
「あっ……やぁ……ん……」
「お前のそんな声……聞くの久しぶりだ。堪らない……」
口内をまるで味わうようになぞり、絡められる舌に身体がゾクリと震える。
「んんっ……や、ダメ……はぁっ」
ようやく解放されて呼吸を整える。熱を帯びた瞳。レオが、必死に抑えているのが分かる。その姿が、余計に色っぽいことを、彼は分かっているんだろうか。
沢山、不安があった。だけどそんなもの全て捨てても飛び込んでしまいたい衝動が勝った。
レオの胸に抱きつくと驚きながらも抱きしめてくれる。
「レオ様……」
「まさかここに来るなんて思わなかった。誰に聞いたんだ?」
「王が、階段を上がって右奥の部屋に褒美があるから行けと……」
「……なるほど、あの狸め。やってくれる。」
ふと、自分が馬を駆けて汗だくで来たことを思い出した。
思わず取った距離に不満そうなレオ。
「おい、何だ急に。」
「いえ、よく考えたら私馬を走らせてきて汗だくで……」
「……なんだそんなことか。血まみれのお前を抱くよりマシだ。」
血まみれ。その一言で不安が一気に蘇る。私が言うことをレオ様はきっと嫌うから。
「おい、どうした?急に無言になって。また何か勘違いしてるんじゃないだろうな。」
「……いえ、勘違いはしていません。」
「ならどうした?臭いなんか気にしないからこっち座れ。」
優しい顔、優しい声。出会った時から変わらない。何度この人に救われたんだろう。もし、これで嫌われたら私はきっとショックで寝込んでしまう。なんなら戦地に飛び出す本物の戦闘狂になるかもしれない。
それでも、自分が、言ったんじゃないか。私の恋人はとても寛容だと。
背中をさすってくれる大きな手。私を安心させようと、懸命に手を尽くしてくれる。
「……レオ様、もしかしたら私が話すことをレオ様は嫌うかもしれません。」
「お、おお?どんな内容だ?他の男を好きになった以外は受け入れる自信があるぞ。」
ほら。だから、勇気を出して。自分へ言葉を吐いて、意を決する。
「……エイマールの王子の元へ向かう途中、ある男と戦いました。その男は強くて、一瞬でも気を抜けば殺されていたでしょう。……でも、その男と戦っているうちに思考がクリアになりました。感覚も研ぎ澄まされ、そこに快感が生まれました。それに気づいた時、ショックでした。私は自分が戦いで楽しさを感じるなどと、思っていなかったのです。でもよく考えれば過去もそうでした。強い敵と戦う時、クリアになって生を感じる瞬間が好きだったのです……。レオ様は、こんな女はお嫌いですか……」
話しながら、いたたまれなくなった。最後などほぼ聞こえないだろう。膝に埋めた顔に、流れる沈黙が刺さる。
「……まず言わせて欲しいんだがさっきも言った通り他の男を好きになった以外の話で俺がお前を嫌うことはまずない。そこだけは勘違いするなよ。頼むから。」
膝から、顔を上げる。
「ほら、また泣きそうな顔して……お前のおかしな行動に俺の胃は痛むが俺の愛が変わるわけじゃない。ああもうこっち来い。」
乗せられた膝の上がなんだか懐かしい。でも、やっぱり顔を見るのは情けない気がした。
「セラ、こっち向け。」
頬に添えられる手。合う目から、逃げ出したくなる。
「俺は少し勘違いしていた。お前の飛び込み癖は育ちから来て本来は人を斬りたくないのに斬ってるんだろうと。だがそれは違った。お前は意外にも根っからの飛び込み癖があり戦好きだった。それだけだ。俺は戦は用意してやれんけどな。」
本当に何とも思ってないように、笑って言う彼。私の不安をいつも綺麗に洗い流してしまう人。
だけどね。
私は貴方のこと以外だったらこんなに不安にならない。なんだって何とかなるって思うから。全部、貴方だけ。
そう言ったら貴方は喜んでくれる?
レオの首に手を回して抱きしめる。この人が、生きてることを感じたくて。
「何だか、セレスティノ王子の気持ちが分かります……」
「なんなんだ急に……」
「シャッツェル王女はセレスティノ王子の性癖を受け入れて夫婦関係は至極良好だそうです。裏切ったのは、アーノルト王に性癖を知られ、シャッツェル王女を連れ戻されたくなかったからだとか。」
「……お前兄上に何か言ったのか。」
「……あまりにも同情心が沸いたので今回の功績を武器に温情をお願いしておきました。叶うことを願うばかりです。」
「……お前なあ、それ使って俺との結婚を望んでもよかったのに。」
「……王にも言われました。でもそれではダメなのです。私の出自がある以上、皆が納得する形でなければならないのです。」
恨みがましそうなレオ。コツンと額を弾いた彼は諦めたように息を吐いた。
「なら俺はさっさとコアルシオンに行って交易権を貰ってくるとしよう。いい加減触れられないと俺がおかしくなる。」
「……レオ様は、本当に私でいいのですか?」
「……そろそろ怒るぞ。」
「純粋な質問です。この世界には多くの女性がいます。レオ様はその多くを選べるお立場にいるのです。それでも、私がいいと、言われるのですか?」
「……ああ、そうだ。他の誰でもない。お前が俺の全てだ。……お前こそどうなんだ?舞踏会での話を俺は聞いてないぞ?」
「……人を好きになることが、人を傷つけることだとは知りませんでした。」
「誰かに言い寄られたか?」
「……オルヴェイン近衛隊長に少し。」
「は、オルヴェイン!?」
「はい。」
「なんでまたあいつが……というかあいつはお前の好みだろ。」
言い当てられる図星に動揺する。
「な、何故それをレオ様が……」
「情けないながらライに聞いた。寡黙な職人気質の男が好みなんだろう。」
「いや、それは。ちが……わなくはないですが。で、でもちゃんと断りました!私はレオ様以外興味なんて……んっ!……ゃ……」
「悪いな。必死に弁明する姿があまりにも可愛かった。」
「もう……私は必死なのに。」
「で?お前が不安に思ってることは他にはないのか?」
「ありません……」
「本当か?なら何でそんなに落ち込んでる。」
「いつも話す前どうしようもない程不安だったことをレオ様があまりにあっさり受け入れてしまうのでなんだか心の行き場がなくなるのです。」
「そうか。なら。」
もう一度ぎゅっと抱きしめられて胸に押し付けられる頭。
「ここに持って来い。間違っても他に持って行くなよ。俺のところだ。いいな?」
ああ、好きだと思う。もっと触れて、もっともっとと欲が湧いてしまうくらいには。
「はい。レオ様も、ちゃんと私のところに持ってきてくださいね。」
「そうしよう。……しかし、お前今日寝る部屋は貰ってるのか?」
「そういえば……何も聞いてませんね……」
再び訪れる沈黙。考えてることなんて、きっと同じだろうけど。
「私、王に聞いてきます。」
出て行こうとして、引かれる手。背後から回される手に、出られなくなってしまう。
「なあ、部屋が違うならそれでもいい。多分いい部屋を用意してくれてる。湯浴みでもして、そしたら……俺のところに来てくれないか?」
「で、でも……」
「何もしない。約束する。お前と結婚するまで、それだけは守るから。今回お前を何度も失いそうになった。1秒でも長く、お前を近くに感じていたい……ダメか?」
物凄く情けなくて正直に言うならセラだってきっと触れて欲しさに耐えるのが難しいと思う。ということはレオはその何倍も苦しいはずだ。それでも、一緒にいたいと、言ってくれている。
「……私は、レオ様と眠れるのは嬉しいです。」
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