天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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第10ー8話 新時代の傑物

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高天原で行われる「出生の儀」はもはや大宴会となっていた。


天上界中から集まる虎白に馴染みのある者達が酒を飲み、食事をしている。


楽しげな会話の中で虎白は子供を授かっていた。


鵜乱と春花が虎白と共に安産の女神であるコノハナの前に立つと桃色の煙が実態となり始めていた。


珍しく緊張した様子を見せていたのは春花だった。


いつも能天気で何も考えていないのではないかと思ってしまう春花だったが、今日は何が起きるのかわかっている様だ。


春花は母親になるのだ。


鵜乱が春花の手を優しく握ると桃色の煙は遂に実態となった。




「まあ!! 凄いですわ。」
「お、お、おー!?」




緊張している春花だが産まれてきた我が子に驚きを隠せずにいた。


コノハナから手渡された子供は鵜乱の様に羽を生やしている。


しかし春花の様に横に長い耳を懸命に動かしている姿は彼女らの遺伝子が混ざった素晴らしい生命だった。


可愛らしい体を動かして母親の耳を触ろうとしている。



「空璃(くうり)!!」




それがこの子の名前だ。


どうやら空璃は女の子だ。


虎白が「珍しい名前だな」と話すと鵜乱が笑みを浮かべて空璃を抱いていた。


「素敵な名前でしょう」と話すと春花に空璃を手渡して虎白の顔をじっと見ていた。





「私と春花はずっと空で繋がっていましたわ。 美しい瑠璃色の空はいつだって私達の愛と絆を見守っていたのですわ。 何度も死にかけましたの。 でも空は必ず救ってくれましたわ。」





白陸空軍を束ねてきた鵜乱と春花はその大空で様々な経験をしてきた。


美しさを見せる反面、危なさもある大空。


我が子にも空の様な存在になってほしいと願っている。


美しくも時には誰かのために強い存在になってほしいと。


空璃はそんな親からの期待を受けている。


まだ何もわかっていない小さな天使は鵜乱に抱かれたまま、眠ってしまった。


するとレミテリシアが真剣な眼差しで歩いてきた。


隣にはアニャを連れている。


虎白が2人を見ると「用意はいいのか?」と尋ねた。





「ああ。 私はアニャを守ると既に決めている。 我が子も授かるさ。」




アニャは白陸に加わって日が浅いが、レミテリシアとは既に多くの時間を共にしている。


元々は北側領土の小国であるローズベリーの皇女であったアニャは内戦に巻き込まれて家族も民も失った。


その際に外交官及び駐屯軍の指揮官として派遣されていたのがレミテリシアだった。


ユーリとゾフィ、ゾフィアを有する赤軍との熾烈な激戦を生き延びたアニャだったが既に心は深く傷つき弱っていた。


だが親友のハミルの支えもありレミテリシアに保護される形で白陸入りを果たした。


それから毎日の様にレミテリシアはアニャを気遣っては共に時間を過ごしていた。


最初は義務の様に接してたレミテリシアではあったが、いつの日かそれは義務から愛に変わっていたのだ。


だが結ばれつつあった2人の愛情をさらなる試練が襲ったのは先日のオリュンポス事変だった。


アニャの唯一無二の親友であるハミルが人知れず殺された事だった。


伝令の神であるヘルメスの高速移動を前に苦戦していた所は日本神族のミカヅチに救われた。

ヘルメスにとどめを刺して能力を継承したのはアニャだった。


だがそんな事より深い心の傷が癒えなかった。


オリュンポス事変が終結して現在に至るまでアニャはろくに眠れずにいた。


その間もレミテリシアと虎白は時間さえあればアニャの側にいた。


コノハナの前に立つアニャの目の下にはくまがあるが表情は明るかった。


心配そうに見つめる虎白に笑顔を見せると「わらわの我が子・・・」と小さくつぶやいた。





「アニャ・・・本当に平気か?」
「大丈夫さ。 わらわはもう誰も失わない・・・」




誰かとの別れを皆が乗り越えてここにいる。


虎白はその時痛感した。


アニャも例外ではない。


皆が経験したのだ。


そう考えると虎白はアニャの小さな体を抱きしめずにはいられなかった。


赤い髪が虎白に絡みつく様に風になびいている。


虎白に抱かれて涙を目に浮かべているアニャだったが前だけを見ていた。



「虎白・・・ありがとう。 わらわとレミの子供を授かろう。」




そしてアニャの白い腕に授けられた女の子をヴァイオと名付けた。


ギリシア出身のレミテリシアが名付けた。


由来はギリシア語のバイオスから来ている。


意味は「生命」だ。


多くの生命との別れを繰り返したアニャに新たな生命がここにあると忘れさせないためでもあった。


同時に生命の尊さと愛おしさを理解してもらいたいという真面目な性格のレミテリシアらしい命名だった。


アニャの腕に抱かれるヴァイオはまだ薄いが赤い眉毛が見える。


瞳も赤い彼女はまさにアニャの子供だ。


安心した表情のレミテリシアは虎白に「感謝している」と話した。


今ではアニャを支えている強い女となったレミテリシアだが、彼女もまた大切な命との別れを経験した。


唯一無二で誰よりも尊敬して愛していた姉であるアルテミシアとの別れだ。


その大切な姉の命を奪った者こそが、目の前で今は夫となっている虎白だ。


怒りに震え、復讐を図ったが虎白の白王隊の前に大敗した。


そして何故か自分だけが生還してしまった。


虎白から何度も「もういいんだよ」と抱きしめられたが、その温もりに安堵する事はなかった。


自分を抱くその腕で姉を殺したのだから。


だが無気力なまま生きていくうちにレミテリシアは気がついた。


虎白がどれだけの命を背負って戦っているのか。


姉を殺したのもこの終わりなき残酷な戦争のせいなのだと。


すると虎白の温もりが初めて愛なのだと気がついた。


「感謝している」と話したレミテリシアの顔を見る虎白の目には涙が溢れそうになっていた。





「馬鹿言うな。 俺の方だ・・・一緒にいてくれてありがとうな・・・」




すると背中に背負うレミテリシアの双剣が音を立てていた。


これはどんなにめでたい日であろうが手放す事はない。


何故ならこの剣には姉の魂が宿っているからだ。


アルテミシアも祝福しているのだ。


涙を流す虎白に「姉さんに笑われるぞ」と返した。



「ああそうだな・・・アルテミシアとの約束だからよ。」





メテオ海戦でアルテミシアが敵である虎白に最期に残した言葉は「妹を頼む」だった。


その言葉を聞いた虎白は今日まで彼女との約束を守り続けた。


そして心からレミテリシアを愛していた。


姉の魂が宿っている双剣が音を立てる中で虎白とレミテリシアは強く抱き合った。


アニャとヴァイオが見届ける中で。


すると同じく大切な者の魂を武器に宿している存在が近づいてきた。




「素晴らしいな命とは。 きっと父上も喜んでいるだろうな。」





隣で陽気に鼻歌を歌っているサラを見て笑う呂玲はヴァイオを見て感動していた。


そして次は我が子だと力強い足取りでコノハナの前に立った。


サラはこんな大事な日でも日課のライブ配信をしていた。


虎白が呆れた表情で「今ぐらいいいだろ」と話すとレミテリシアにカメラを渡して「記念なんだから撮っておいて」と頼んでいた。




「あ、ああ。」
「うんうん!! 呂玲と虎白との間の子供だよー!! 楽しみねーうんうん!!」




決定的な瞬間というわけだ。


レンズの先でその瞬間を見守る何万人ものユーザー達もそれを楽しみしているのだ。


ヴァイオを抱きたいレミテリシアだったが、カメラを持って呂玲とサラの子供が産まれる瞬間をじっと待っていた。


桃色の煙が実態となって姿を現した子供は女の子だ。




「来たー!!!! レイラね!! レイラちゃんママよー!! うんうん!!」




飛び上がる勢いでレイラを抱きしめるサラは直ぐにカメラに我が子を写していた。


コメント欄が物凄い勢いで更新される中でサラは愛する呂玲と共にレイラの両頬にキスをした。


情報力を有するサラと武力を有する呂玲との間の子供。


レイラもまた傑物になるのだろう。


そんな上機嫌のサラもかつてはミカエル兵団の工作員として冥府に潜入して仲間の大半を失ったり、捕虜にされて処刑される寸前にまでなった事がある。


だがいつだって虎白が守ってくれていた。


心底惚れ込んでいるサラは虎白に抱きつくと人前でもお構いなしに熱いキスをした。


誰もが乗り越えてきたのだ。


だが、皆がサラの様に明るく振る舞えるわけではない。


レイラを抱きしめたまま呂玲と共に椅子に座って眺めていると虎白の着物を掴んで顔をじっと見つめるロキータが尚香と共に来た。


サラとは正反対とも言える。


ロキータの身に起きた惨劇を考えればそれも当然なのかもしれない。


今は尚香と虎白の支えもあり、落ち着いているがロキータの心の傷は深刻だ。


虎白がロキータの頭をなでると、頬を舐めて返すと「子供産む」とだけ話した。





「大丈夫なのか?」
「うん。」




言葉こそ上手く出せないロキータだったが、虎白にはよくわかっていた。


どんな思いでここに立っているのかと。


彼女の故郷であるツンドラ帝国と白陸、秦国連合軍との戦争は今から30年以上も前になる。


当時まだ幼かったロキータは目の前で母親が殺された。


しかも実の兄の手によってだ。

だがそれでも虎白と尚香の支えで前を向き始めていた時に訪れたのがアーム戦役だ。


そこではまさかの事態が起きた。


姉のメルキータが虎白を裏切って包囲したのだ。


虎白と側近の莉久は死ぬ所であった。


メルキータは冥府軍の総大将ウィッチの策略にはまってしまった。


死にゆく愛する虎白を城壁の上から見下ろして笑うウィッチの高笑いがロキータの耳から消える事はなくなった。


そして姉のメルキータがその日以来、視界に入らなくなってしまった。


いくら目の前で謝罪してもロキータには見えも聞こえもしなくなってしまったのだ。


白陸軍の大軍医であるシーナの話では脳内でメルキータを拒絶しているがために見えも聞こえもしないのだという。


実の姉に対してもそこまでの拒絶をしてしまうほどの深い傷を負ってしまった。


感情表現が上手くできなくなってしまったロキータに寄り添い続けた虎白と尚香にはロキータが何を考えているのか理解できた。


目の些細な動きや耳や尻尾の動きから読み取っていた。


恋華が子供を授かると言い始めた時にもロキータの尻尾が今までにないほど上に上がった事を尚香は見ていた。





「ずっと子供がほしかったんだよロキータは。」
「うん。」
「そうか。 待たせたなロキータ。」
「うん。」





ロキータの瞳は輝いていた。


そして尻尾も上に上がっては左右に振っている。


精一杯の喜びの表現だ。


コノハナが桃色の煙を放つと形となった。


そしてロキータの手に命が手渡された。


じっと見つめるロキータは子供を見ていると頬を舐めた。




「ウォルフ。」




それがこの子の名前だ。


気高くあれと言うのか。


自身がハスキーの半獣族だからか。


ロキータが名付けた名前を背負ったウォルフはどの様に母親と向き合っていくのか。


気の強い尚香と狡猾な虎白の遺伝子を交えたウォルフはロキータと共に育っていく。


ウォルフを抱えたままロキータは尚香と共に皆の元へ歩いていった。




「ああして竹子達と我が子を見せ合えるまでに回復したんだ。」




虎白がそうつぶやいて安堵した表情を浮かべていると肩をがしっと掴んで得意げな表情を見せるウィルシュタインが顔を近づけていた。


隣ではスカーレットがおどおどとしている。


「さあ我が子を授かろうか?」と話すウィルシュタインはいつの間にかスカーレットを妻にとっていた。


戦神同士の2人は気が合うのだろうか。


しかしスカーレットの中にいるベルカこそが戦神でスカーレットは気の弱い女だ。


虎白が「スカーレットだからな?」とベルカに惚れたのかと尋ねるとウィルシュタインは自慢げに笑っていた。





「当然の事を言うな虎白。 このウィルはスカーレットの様なおしとやかな女を好む。 お前にとっての竹子と変わらぬな。」




ウィルシュタインは虎白の妻であるが物事を見る観点の広さや器の大きさは虎白に負けないほどの傑物であった。


オリュンポス事変でもスサノオに気に入られるなどその器量は証明されている。


スカーレットを愛していると話すウィルシュタインは虎白に肩を組むと「お前の事も愛しているぞ」と美しい顔を近づけていた。




「ほんとかよ。」
「でなければとっくに反乱を起こしているさ。」
「まあな。」




危険すぎるがために天上界の誰もが彼女を配下に置こうとはしなかった。


国主として領地を任せれば弱い隣国を全て飲み込んでしまう。


あまりに危険なウィルシュタインは長年孤独でもあった。


しかし虎白と秦国の嬴政との出会いは彼女の観点を大きく変えた。


絶大な力を持つ虎白も嬴政も決して恐怖政治を行わなかった。


ウィルシュタインは圧倒的恐怖と粛清による政治で強大なプロイト帝国という国を以前は持っていた。


第1の人生の話だが。


天上界に来てはミカエル兵団に危険視されて国は持てなかった。


一時は国主の配下になった事もあったが、冥府軍の侵攻などの混乱に乗じて国主を暗殺する事も珍しくなかった。


何よりも強くて賢いウィルシュタインは証拠を一切残さなかったために処罰もできなかった。


そんな厄介者のウィルシュタインも虎白と嬴政の政治を見て驚愕した。


民と兵士を大切に思い、家臣を家族の様に愛する姿勢は今までの自分には有り得ない光景だった。


その日を堺に虎白の近くで色々と学んだが、気がつけば虎白に惚れ込んでいた。




「遠くを見るお前の目はいい。 このウィルにはわかる。 未来を見ているその目がな。」
「お前は俺にとって妻でもあり、頼りになる存在でもある。」




虎白は国の運営に悩むとウィルシュタインと話し合う事も多かった。


自慢のダブルブレードで暴れる事が印象的な彼女だが、嬴政の秦国などを見てからは政治力も非常に高かった。


現にユーリと赤軍を配下に入れてからは国の運営をユーリに任せている。


それはユーリが紛れもない傑物である事も否定できないが、国の運営の基盤を全てウィルシュタインが整えていた事にもあった。


互いに信頼している虎白とウィルシュタインは気がつけば親友の様でもあり、良好な夫婦関係にもなっていた。


固い握手をする虎白とウィルシュタインを見て微笑むスカーレットもまた、危険な存在でもあった。


一見すると大人しい女だが一度血を見ると彼女の中に潜むベルカという戦神が暴れ始める。


しかしそれも今では孫策達の努力もあり、ベルカと共存できる様になっていた。


虎白の古くからの親友でもあったスカーレットは以前から虎白に好意を抱いていた。


スカーレットからすればようやく実を結んだという事だ。


微笑むスカーレットを見る虎白は「ウィルを頼むよ」と話した。





「馬鹿言うな虎白。 このウィルがスカーレットとベルカを任されているんだ。」
「ふふっ。 私は虎白ちゃんもウィルたんも大好きよ。」




微笑ましい会話を聞いていたコノハナは桃色の煙を実態に変えた。


そして手渡された我が子を見てウィルシュタインは第一声から「強い戦神になれ!!」と叫んだ。


驚く虎白を見もせずに「わかったな?」と声を上げた。


こんな唐突もない大声に赤子なら泣き叫ぶ所だ。


甲介はウィルシュタインの怒鳴り声に驚いて泣いていた。


しかしウィルシュタインの子供は泣かずにじっと母親の顔を見ていた。




「よろしい。 お前の名はアイルだ!! 紅恋を支える翼になれ!!」




アイルとは「翼」という意味だ。


ウィルシュタインが我が子に「王」や「皇帝」と名付けなかった事こそが何よりも白陸と家族を愛しているという証明にもなった。

アイルを見ている虎白も「こいつはヤバい奴になりそうだな」と我が子の未来を暗示したかの様に話していた。



今日はめでたい日だ。


虎白は次々に産まれた我が子達を見て一息ついていた。


しかし子供はあと1柱産まれる。


それは実に高貴なる血族として産まれてくるのだ。


虎白は不安げでもあった。


何よりも複雑な血族だからだ。


片方の親は皇国の狐として血族である。


そしてもう片方は赤き王の血族だ。


莉久とメアリーの子供だ。


しかしどうした事か莉久がこの場にいなかった。


首をかしげる虎白がメアリーの元へ行くと兄であるアルデンと楽しげに会話をしていた。




「莉久がいねえ。」
「あら。 莉久なら緊張して先程シーナに診てもらっていたわよ。」




鞍馬家を支える名家である玄馬家の娘である莉久ともあろうものが。

戦場では果敢に虎白のために動く莉久が今では緊張で倒れているというのか。


呆れた表情をした虎白は「本当に愛に弱いやつだな」と呆れながらも笑っていた。


そして医務室へ行くと酔い潰れた客人達が横たわってはシーナに話しかけていた。


美しいエルフと兎のハーフであるシーナに下心丸出しで話しかけている中で淡々と莉久を落ち着かせているシーナがいた。





「おい莉久始まるぞ!!」
「ヒャッ!! 今行きますだす!!」
「おいしっかりしろよ。」
「ヒャイッ!!」




白陸とスタシア王国の婚姻同盟という政治的理由で結婚したメアリーと莉久だったが、深く愛し合う一方で莉久の純粋すぎる恋愛観がために何もできていなかった。


手を繋いで花畑を散歩しても緊張のあまり狐の姿に変わって倒れ込むなど酷いものだった。


虎白を心底愛している莉久だったが、家臣という責任感がある事からまだ虎白とは夫婦らしい事もできた。


しかしどうしてかメアリーには弱かった。


見かねた虎白が莉久をお姫様抱っこして会場へと運んだ。




「ほら行くぞお姫様。」
「こ、虎白様・・・恥ずかしい・・・」
「もうとっくに醜態晒してんぞ。」
「ヒャッ!?」


高貴なる玄馬とヒステリカの血を引く子供が今産まれようとしている。


しかし莉久はふらふらと情けない様子で立っているのだった。


全ての子供達が揃う。


白陸と天上界の未来を担う新時代の傑物達が。
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