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室長の助言と王宮パーティー side A
しおりを挟む昨夜はあまり眠れなかった。気持ちは落ち込んでるけど職場に向かう。
扉を開けると室長がひとりで仕事をしていた。……まさか帰ってないわけではないわよね?
「昨日は作業途中に退出してしまい申し訳ありませんでした」
「気にするな。昨日も言ったがお前のお陰で探すべき情報の糸口が掴めたからな。あの後はそれ程かからなかった」
私の謝罪に対し、室長は手をひらひらさせながら面倒くさそうに言ったあと、何かに気づいたかのように私の顔をじっと見てきた。落ち着いた緑色の瞳と目があう。
「それにしても今日はひどい顔をしてるな。昨日は婚約者に会いに行ったんじゃなかったか?」
ひどい顔って、言い方……。まぁ、事実だし誤魔化しようがないわよね。
「行きましたが、怒らせてしまったようでした。時間に遅れそうだったのであのままの格好で行ってしまって……。それから、彼が贈ってくれた服も着ていけなかったので……」
思い出したらまた情けない気持ちになり、握った手に力が入る。私は仕事中は動きやすいように、ブラウスにボリュームの抑えた足首まで隠すロングスカート、髪はシンプルなポニーテール姿が多い。
確かに年頃の女性としては地味かもしれない。昨日、彼と一緒にいた華やかなご令嬢達を思い浮かべる。
「まぁ、今のも悪くないと思うがな……」
室長がボソリと何か言った。
「はい?」
聞き取れなかった。室長がまた面倒くさそうに手を振る。
「あー、相手が子供だってことだよ」
「同じ年です」
「子供かどうかは年齢は関係ないだろう。……まぁ詰まる所、婚約者はデートなのにお前がめかし込んで来なかったのに臍曲げたんだろ?気にするな」
「……はい」
「次に会うときはめいいっぱい着飾っていけ。それでいっぺんに機嫌が直る」
本当かしら、と思いながら室長のアドバイスに黙って頷いた。
夕方屋敷に戻ったら、彼からドレスが届いていた。オートクチュールだから事前に選んでくれたものだろう。白から黄色のグラデーションのプリンセスラインのドレスは繊細なシフォン生地が重ねてあり、とても華やかなものだった。
こういう感じを望まれてるのに、あの格好でデートなんて行ったら駄目よね……。私は彼に対して甘えすぎていたのかも。婚約者は家族とは違うのだから、ちゃんと気遣わないといけないわ。
私はすぐに水色の便箋を取り出し、ドレスのお礼と先日の謝罪の手紙をしたためた。
室長の言ってた彼のために着飾る日はすぐにやってきた。成人したばかりの貴族を集めた王室主催のパーティーだ。私達が婚約して初めての社交界になる。
着飾らせてとうっかり言った私は、朝からメイド達に揉みくちゃにされた。届いたばかりのドレスに婚約記念のサファイアのネックレス。髪はドレスにあわせてふんわりと可愛らしく仕上げられた。我ながらしっかりと着飾ったわ。
「会心の出来です」
マリが満足そうに笑う。私も微笑んでメイドの皆に礼を言い、貴族令嬢らしく姿勢を正して立ち上がった。
彼の待つ屋敷のエントランスに向かいながら、それでも急に怖くなった。またこの間のように冷たい目で見られたらどうしよう……。
結論としては杞憂だった。私を見ると彼はいつも通りの笑顔で駆け寄ってきて、階段を下りる私の手を優しくとってくれた。ほっとした。
「この間は無理をさせてしまってごめんね。今日は大丈夫?」
「はい。私の方こそごめんなさい。今日はよろしくお願いします」
私がそう言うと彼は嬉しそうに笑った。馬車の中でも終始上機嫌だった。
王宮の会場に着くと、お父様達をすぐに見つけた。お父様の白銀の髪って人混みのなか目立つのよね。私も同じ色だけど。
「お父様たちだわ」と彼に言うと「うん」と言いながらも別方向へ足を向けていた。私は思わずマナー違反と知りながら、エスコートしてくれている彼の腕を少しだけ引き、両親の元に挨拶に行った。
「お義父様とお義母様はどちらにいるかしら。ご挨拶したいわ」
「必要ないよ」
両親と少し話したあと私が言うと、彼は興味なさそうにこたえた。その声色が先日の夜のものと重なる。
「え?でも……」
「ほら、父も母も歓談中だよ。特に父は商談絡みかもしれないし、下手に割り込まない方がいいよ」
彼の視線の先を見ると、彼のご両親が少し離れたところでそれぞれ人に囲まれていた。お義母様の艶やかさはパーティーでも存在感が凄い。
「そうなの?でもご挨拶もしないなんて、いいのかしら」
「大丈夫だよ。それぞれ楽しんでるから」
彼はいつもの優しい笑顔で言ったあと、「それよりも」と大学の友人達のところに私を連れて行った。その後私はたくさん挨拶をすることになった。
疲れたなと内心思っていた時、学園時代の友人達が誘いに来てくれた。嬉しい!
久しぶりに会えた友人達はますます綺麗になっていたけど、学園の頃と変わらず取り留めのない話に花を咲かすことができた。楽しかった。
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