前世が見えちゃうんですけど…だから、みんなを守ります(本編完結・番外編更新)

turarin

文字の大きさ
17 / 32

浄化の旅7

しおりを挟む
  「智美、智」

 夫の声。優しい人。大好き。

 頑張って入学した大学で出会った。最初から教員を目指していた智美と違い、健太郎は研究者を目指していた。
 色んな授業で一緒になり、徐々に仲良くなった。スラッとして顔がちっちゃくて、180センチ以上あって、モデルみたいだった。
 何で私?って何度も思った。どっちかって言うと無口で私ばっかりしゃべってた。ニコって頷いてくれるだけで幸せが溢れた。
 健太郎はもてていた。色々あったけど追及しなかった。大好きだったから。

「好きだよ。おれ、智美といると一番安心する。ホッとするんだよ。理屈じゃないんだ。愛してる。」

 初めて、朝まで一緒に過ごした。この世にこんな幸せある?って思った。

 大学を卒業し、教員になり、結婚した。
 健太郎は大学院に残り研究を続け、論文を書いていた。経済的には智美が支えていたようなものだが、苦労には思わなかった。
 仕事も家事も、健太郎も好きだったから。

 30を過ぎた頃、漸く論文が通り、准教授の職に就けた。幸運だった。
 大学での、研究、授業に加えて、本も出版し、健太郎の世界は広がって行った。
 学生との繋がり、飲み会、出版社とのつきあい、取材………etc

 智美の暮らしは変わらなかった。ただ、健太郎との時間が減っただけ。
 時々、不安や、不信感に苛まれる事もあった。
 でも、健太郎が好きだったし、夫が自分を愛してるのもわかっていたから、何とかやり過ごした。
  
 そう言えば、あの頃、変な電話や、ピンポンダッシュみたいなのが時々あって、健太郎と話したこともあったっけ。

「なんかさ、最近、誰かうちの周り見張ってるような気がするんだよね。無言電話とかさ、ピンポンするのに出ると誰もいないとか。
 警察に相談したほうがいいかなあ。気持ち悪いよね。」
  
「………………そうなの?うーん、もうちょっと様子見てさ、続くようなら考えよっか」

「智、可愛いから心配だからなぁ…」

 悩ましげに眉をひそめて答える健太郎。
 そしてすっと立ち上がってぎゅっと私を抱きしめる。あったかい。幸せ。
 私なんて特に可愛くないのにって思いながら嬉しいのだった。  
  

 あの寒い冬の夜。歩道橋の上ので月を見ていた。

 思い出した。若い女が叫びながら私に突進してきた。すぐ後ろに健太郎がいた。なんか龍二くんも見えた。

 そして、私は死んだんだ。
  
 ねぇ、健太郎。あれは誰だったの?
 殺されるくらいなら、別れてあげたよ。だって私、健太郎のこと大好きだから。


 汗びっしょりで、目が覚めた。驚いたことに、真っ白なもっふもっふの毛皮の上に寝ていた。

「えええ~!?」








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。 しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。 周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。 エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。 ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。 貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。 甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。 奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

処理中です...