前世が見えちゃうんですけど…だから、みんなを守ります(本編完結・番外編更新)

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番外編 クリスとメイリン4

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  メイリンは泣いた。
  
 りんは、ずっと1人で頑張って、誰にも愛されなくたって1人で生きていくと決めていた。
 愛されなくて壊れた母さんを見ていた。母さんを愛さない、子どもを愛さない父さんを一生許さないと思っていた。父さんとそっくりの弟にはどう接すればいいか分からなかった。
 じいちゃんばあちゃんは、腫れ物に触るように接して来た。叱られたことはない。いつも完璧を目指していたから叱られるはずもなかったけど。

 ある日、疲れてしまった。
 何かきっかけがあったわけじゃない。だだ急にポキっと音がしたみたいに心が折れた。

 1人で生きていくって、どんな意味があるんだろう?こんなに頑張って、最後に何が残るんだろ?お金?家?業績?名誉?それってどんな意味があるの?楽しい?楽しいってなんだっけ?

 なんにもやりたくなくなった。いつも何だか悲しくて涙が出そうな気がしていた。辛かった。どうすればいいか分からなかった。

 そしたら、ある日、会社に健太郎さんがいた。
 その時は名前も知らなかったけど、どっかの大学の准教授で、今度うちの会社から本を出すって聞いた。かっこよかった、ひたすらに。今まで、男の子なんて目に入れた事も無かった。ただひたすら頑張ってきたから。

 目が合った。思わず会釈した。

「こんにちは。大丈夫?何か疲れてそうに見えるけど。疲れたら休むんだよ。人生長いからね。」

 にこっとしてくれた。もう倒れそうだった。微笑むと頬に縦皺がしゅって入るとこも最高だった。そして、今までそんなことを言われたこと無かった。一瞬で幸せになった。

 それから、もう、全力でアピールした。彼といれば幸せになれる、絶対に!もう悲しくなんてない。おしゃれもし、メイクもがんばり、太ってはいなかったけど、寝る前に体操もした。

 やがて本が出版され、記念パーティーの日がやってきた。今日しかない。今日が最後。

 りんの夢はかなった。
 夢のようなひとときだった。初めてだった。
 触れるだけじゃない口づけも、そうしていると、ドキドキしてきて、何だかもっともっとくっつきたくなることも…そして……自分じゃないみたいな自分。大好きな人の鼓動を、熱を感じる自分…。幸せすぎてこの日のために今まで生きて来たのだとさえ思った。


 これが不幸の始まりだった。
 その後、健太郎とは全く連絡が取れなくなった。連絡先は分かっているのに、連絡がつかないのだ。
 眠れなくなった。食べる気がしなくなった。
 誰もが自分を嘲笑っている気がしてきた。

「馬鹿な女。母親とおんなじ。愛されなくて可哀想」

 健太郎さんの家を訪ねた。妻らしい女性がいた。可愛い人だった。黙って逃げた。あり得なかった。私が健太郎さんと結婚するのに……

 声が聞こえるようになった

「馬鹿な女。みんな知ってるよ。健太郎さんの愛する人はあんたじゃないよ。」

「かわいそうに。愛されなくて。」

 電車に乗っていても、隣のおじさんが、ニヤッと笑って

「かわいそうに」

 と言うのだ。
  
  くるっていたなあ…と今なら分かる。健太郎さんは愛する奥さんがいた。私はそれが受け入れられなくて、病気になっちゃったんだ。
 母さんと一緒だ。
 母さんは幸せになれたんだね。

 でも、私は人殺しだから…









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