前世が見えちゃうんですけど…だから、みんなを守ります(本編完結・番外編更新)

turarin

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番外編 ディーンとリリー1

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 僕は未だに夢をみる。悪夢だ。

 頭の中が、メイリンのことでいっぱいだ。何をしていても、彼女のことしか考えられない。彼女に触れたくて、口付けたくて、それから、もっと………。

 彼女に口づける。深く、深く、そして身体じゅうに僕の跡をつける。幸せすぎて心も、身体もどんどん高まる。本能のままに動く。
「愛してる。愛してる。大好きだ、メイリン。」
 何度、彼女に言ったことか。誰に見られようが、アルバートも同じくメイリンを愛してようが、何でもよかった。リリーのことは、忘れていた。ただメイリンだけが僕の全てだった。おかしい。そんなはず無いのに…

 汗まみれで飛び起きた。ああ…またこの夢か……僕は魅了にかかっていた。
 浄化の旅で、スーザンに強力な治癒魔法をかけられて、魅了は解けた。まるで嘘みたいに。

 全て忘れていたらよかったのに…自分が獣のようにメイリンを貪ったこと、愛を告げたこと、学園中いたるところで交わったこと、側近のクリスに部屋の見張りをさせたこと………もう、取り返しがつかない。魅了が解けて以来、僕の『僕』はうんともすんとも言わなくなった………こんなこと、誰にも言えない。天罰が下ったのだと思う。

 最初にあのクッキーを食べたのはいつだったか…勧められるままに喜んで食べていた記憶しかない。皇族にはあるまじきことだ。

 クリスは僕に愛想が尽きたようで、一応側近候補ではあるが、前ほどは一緒にいない。僕が即位したら、彼は宰相になるだろう。信頼を取り戻さなくてはならない。幼い頃からずっと一緒で、親友と思ってきたのに……アルバートもあれ以来ずっと落ち込んでいる。気持はよくわかるが、傷を舐め合う気にはならず、それについて話すことはない。


 リリー!僕の大好きなリリー。本当にごめん。

 僕とリリーが会ったのは5歳の時だ。お友達づくりと称して一月に一度、同年代の貴族令息や令嬢達とのお茶会が王宮で開催される。そこに彼女はいた。貴族には珍しい黒髪にスミレみたいな紫の瞳。端のテーブルに一人でつまらなそうに座っていた。他の子達みたいに僕に話しかけに来ない。何度かお茶会をしても彼女と話す機会は無く、名前を知ることも出来なかった。彼女の傍に行きたくても、僕の周りは僕の側近や婚約者になりたい子息達で溢れていて身動きが取れなかった。

 そんな僕に、千載一遇のチャンスが訪れた。王宮の図書館で彼女を見かけたのだ。急に声をかけることもできず、書棚の陰からこっそり彼女を見守った。彼女は何の本を読んでいるんだろう。

 窓からのそよ風に黒髪がさやさやと揺れ、午後の白い陽射しに彼女の白磁の頬が艶々と光っていた。本に没頭する伏せた瞳には長いまつ毛が被さって、綺麗な紫の瞳は見えない。僕は我を忘れて彼女に見惚れた。

 彼女がふっと顔をあげ、僕と目が合った。焦った。
「何、読んでるの?」
 とっさに言葉を発する。平静を装い、彼女の席に近づき、本をのぞき込む。心臓がバクバクした。

「あ、殿下………ガリバリー旅行記です。ガリバリーの冒険が面白くて、ちゃんと故郷に帰れるのか、ワクワクしながら読んでいます。」
「あ、僕も、それ読んだよ。面白かったなあ。ところで、君、名前何ていうの?茶会に来てたよね?」
「あ、失礼しました。ショコラ公爵家のリリーと申します。」
「よくここには来るの?」
「はい、わが家にはない本がたくさんあるので。」
「僕も、よくここには来るから、また会うかもね。」
「はい。」

 それから、毎日図書館に通って、たくさんおしゃべりをした。茶会のキャピキャピした令嬢達と中身のない話をするより、彼女と本の話をするのはすごく楽しかった。

 そして、遂にショコラ公爵家に婚約の打診をした。婚約が決まった時は天にも昇る気持ちだった。それから10年以上、王太子と王太子妃教育を共にうけ、嬉しいことも辛いことも分かち合ってきた。この国をどんな国にしたいか、彼女とともに夢をもって語り合った。

 ただ、僕は照れくさくて、彼女に気持ちをなかなか告げられなかった。彼女と一生一緒にいると決めていたのに、それを言えなかった。

 そんな時、メイリンに会ってしまった。あんなにリリーには言えなかった言葉を、僕は、メイリンに、何度も、何度も言った。あんなにどきどきしてリリーには触れることすら出来ないのに、メイリンとは……僕は……。

 リリーはもう話すらしてくれない。あれ以来リリーと2人で会ったことも無い。僕達はもうダメなのだろうか。明らかに僕は不貞行為をした。でもそれは魅了のせいだった。リリーはもう許してくれないのだろうか。公爵家の方からは婚約破棄は言い出せないはずだ。それを笠に着て僕はまだリリーにすがっている。

 スタンピードが落着き、メイリンはスーザンの殺害未遂で投獄された。そう言う女だったのだ、魅了のせいとはいえ、僕が心から愛を告げた女は。

 スーザンとチャーリーの婚約が決まったのを機に、僕はリリーにきちんと話そうと思って、王宮に彼女を呼んだ。断られるかと思ったが、意外にも彼女はやって来た。


















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