30 / 32
番外編 ディーンとリリー1
しおりを挟む
僕は未だに夢をみる。悪夢だ。
頭の中が、メイリンのことでいっぱいだ。何をしていても、彼女のことしか考えられない。彼女に触れたくて、口付けたくて、それから、もっと………。
彼女に口づける。深く、深く、そして身体じゅうに僕の跡をつける。幸せすぎて心も、身体もどんどん高まる。本能のままに動く。
「愛してる。愛してる。大好きだ、メイリン。」
何度、彼女に言ったことか。誰に見られようが、アルバートも同じくメイリンを愛してようが、何でもよかった。リリーのことは、忘れていた。ただメイリンだけが僕の全てだった。おかしい。そんなはず無いのに…
汗まみれで飛び起きた。ああ…またこの夢か……僕は魅了にかかっていた。
浄化の旅で、スーザンに強力な治癒魔法をかけられて、魅了は解けた。まるで嘘みたいに。
全て忘れていたらよかったのに…自分が獣のようにメイリンを貪ったこと、愛を告げたこと、学園中いたるところで交わったこと、側近のクリスに部屋の見張りをさせたこと………もう、取り返しがつかない。魅了が解けて以来、僕の『僕』はうんともすんとも言わなくなった………こんなこと、誰にも言えない。天罰が下ったのだと思う。
最初にあのクッキーを食べたのはいつだったか…勧められるままに喜んで食べていた記憶しかない。皇族にはあるまじきことだ。
クリスは僕に愛想が尽きたようで、一応側近候補ではあるが、前ほどは一緒にいない。僕が即位したら、彼は宰相になるだろう。信頼を取り戻さなくてはならない。幼い頃からずっと一緒で、親友と思ってきたのに……アルバートもあれ以来ずっと落ち込んでいる。気持はよくわかるが、傷を舐め合う気にはならず、それについて話すことはない。
リリー!僕の大好きなリリー。本当にごめん。
僕とリリーが会ったのは5歳の時だ。お友達づくりと称して一月に一度、同年代の貴族令息や令嬢達とのお茶会が王宮で開催される。そこに彼女はいた。貴族には珍しい黒髪にスミレみたいな紫の瞳。端のテーブルに一人でつまらなそうに座っていた。他の子達みたいに僕に話しかけに来ない。何度かお茶会をしても彼女と話す機会は無く、名前を知ることも出来なかった。彼女の傍に行きたくても、僕の周りは僕の側近や婚約者になりたい子息達で溢れていて身動きが取れなかった。
そんな僕に、千載一遇のチャンスが訪れた。王宮の図書館で彼女を見かけたのだ。急に声をかけることもできず、書棚の陰からこっそり彼女を見守った。彼女は何の本を読んでいるんだろう。
窓からのそよ風に黒髪がさやさやと揺れ、午後の白い陽射しに彼女の白磁の頬が艶々と光っていた。本に没頭する伏せた瞳には長いまつ毛が被さって、綺麗な紫の瞳は見えない。僕は我を忘れて彼女に見惚れた。
彼女がふっと顔をあげ、僕と目が合った。焦った。
「何、読んでるの?」
とっさに言葉を発する。平静を装い、彼女の席に近づき、本をのぞき込む。心臓がバクバクした。
「あ、殿下………ガリバリー旅行記です。ガリバリーの冒険が面白くて、ちゃんと故郷に帰れるのか、ワクワクしながら読んでいます。」
「あ、僕も、それ読んだよ。面白かったなあ。ところで、君、名前何ていうの?茶会に来てたよね?」
「あ、失礼しました。ショコラ公爵家のリリーと申します。」
「よくここには来るの?」
「はい、わが家にはない本がたくさんあるので。」
「僕も、よくここには来るから、また会うかもね。」
「はい。」
それから、毎日図書館に通って、たくさんおしゃべりをした。茶会のキャピキャピした令嬢達と中身のない話をするより、彼女と本の話をするのはすごく楽しかった。
そして、遂にショコラ公爵家に婚約の打診をした。婚約が決まった時は天にも昇る気持ちだった。それから10年以上、王太子と王太子妃教育を共にうけ、嬉しいことも辛いことも分かち合ってきた。この国をどんな国にしたいか、彼女とともに夢をもって語り合った。
ただ、僕は照れくさくて、彼女に気持ちをなかなか告げられなかった。彼女と一生一緒にいると決めていたのに、それを言えなかった。
そんな時、メイリンに会ってしまった。あんなにリリーには言えなかった言葉を、僕は、メイリンに、何度も、何度も言った。あんなにどきどきしてリリーには触れることすら出来ないのに、メイリンとは……僕は……。
リリーはもう話すらしてくれない。あれ以来リリーと2人で会ったことも無い。僕達はもうダメなのだろうか。明らかに僕は不貞行為をした。でもそれは魅了のせいだった。リリーはもう許してくれないのだろうか。公爵家の方からは婚約破棄は言い出せないはずだ。それを笠に着て僕はまだリリーにすがっている。
スタンピードが落着き、メイリンはスーザンの殺害未遂で投獄された。そう言う女だったのだ、魅了のせいとはいえ、僕が心から愛を告げた女は。
スーザンとチャーリーの婚約が決まったのを機に、僕はリリーにきちんと話そうと思って、王宮に彼女を呼んだ。断られるかと思ったが、意外にも彼女はやって来た。
頭の中が、メイリンのことでいっぱいだ。何をしていても、彼女のことしか考えられない。彼女に触れたくて、口付けたくて、それから、もっと………。
彼女に口づける。深く、深く、そして身体じゅうに僕の跡をつける。幸せすぎて心も、身体もどんどん高まる。本能のままに動く。
「愛してる。愛してる。大好きだ、メイリン。」
何度、彼女に言ったことか。誰に見られようが、アルバートも同じくメイリンを愛してようが、何でもよかった。リリーのことは、忘れていた。ただメイリンだけが僕の全てだった。おかしい。そんなはず無いのに…
汗まみれで飛び起きた。ああ…またこの夢か……僕は魅了にかかっていた。
浄化の旅で、スーザンに強力な治癒魔法をかけられて、魅了は解けた。まるで嘘みたいに。
全て忘れていたらよかったのに…自分が獣のようにメイリンを貪ったこと、愛を告げたこと、学園中いたるところで交わったこと、側近のクリスに部屋の見張りをさせたこと………もう、取り返しがつかない。魅了が解けて以来、僕の『僕』はうんともすんとも言わなくなった………こんなこと、誰にも言えない。天罰が下ったのだと思う。
最初にあのクッキーを食べたのはいつだったか…勧められるままに喜んで食べていた記憶しかない。皇族にはあるまじきことだ。
クリスは僕に愛想が尽きたようで、一応側近候補ではあるが、前ほどは一緒にいない。僕が即位したら、彼は宰相になるだろう。信頼を取り戻さなくてはならない。幼い頃からずっと一緒で、親友と思ってきたのに……アルバートもあれ以来ずっと落ち込んでいる。気持はよくわかるが、傷を舐め合う気にはならず、それについて話すことはない。
リリー!僕の大好きなリリー。本当にごめん。
僕とリリーが会ったのは5歳の時だ。お友達づくりと称して一月に一度、同年代の貴族令息や令嬢達とのお茶会が王宮で開催される。そこに彼女はいた。貴族には珍しい黒髪にスミレみたいな紫の瞳。端のテーブルに一人でつまらなそうに座っていた。他の子達みたいに僕に話しかけに来ない。何度かお茶会をしても彼女と話す機会は無く、名前を知ることも出来なかった。彼女の傍に行きたくても、僕の周りは僕の側近や婚約者になりたい子息達で溢れていて身動きが取れなかった。
そんな僕に、千載一遇のチャンスが訪れた。王宮の図書館で彼女を見かけたのだ。急に声をかけることもできず、書棚の陰からこっそり彼女を見守った。彼女は何の本を読んでいるんだろう。
窓からのそよ風に黒髪がさやさやと揺れ、午後の白い陽射しに彼女の白磁の頬が艶々と光っていた。本に没頭する伏せた瞳には長いまつ毛が被さって、綺麗な紫の瞳は見えない。僕は我を忘れて彼女に見惚れた。
彼女がふっと顔をあげ、僕と目が合った。焦った。
「何、読んでるの?」
とっさに言葉を発する。平静を装い、彼女の席に近づき、本をのぞき込む。心臓がバクバクした。
「あ、殿下………ガリバリー旅行記です。ガリバリーの冒険が面白くて、ちゃんと故郷に帰れるのか、ワクワクしながら読んでいます。」
「あ、僕も、それ読んだよ。面白かったなあ。ところで、君、名前何ていうの?茶会に来てたよね?」
「あ、失礼しました。ショコラ公爵家のリリーと申します。」
「よくここには来るの?」
「はい、わが家にはない本がたくさんあるので。」
「僕も、よくここには来るから、また会うかもね。」
「はい。」
それから、毎日図書館に通って、たくさんおしゃべりをした。茶会のキャピキャピした令嬢達と中身のない話をするより、彼女と本の話をするのはすごく楽しかった。
そして、遂にショコラ公爵家に婚約の打診をした。婚約が決まった時は天にも昇る気持ちだった。それから10年以上、王太子と王太子妃教育を共にうけ、嬉しいことも辛いことも分かち合ってきた。この国をどんな国にしたいか、彼女とともに夢をもって語り合った。
ただ、僕は照れくさくて、彼女に気持ちをなかなか告げられなかった。彼女と一生一緒にいると決めていたのに、それを言えなかった。
そんな時、メイリンに会ってしまった。あんなにリリーには言えなかった言葉を、僕は、メイリンに、何度も、何度も言った。あんなにどきどきしてリリーには触れることすら出来ないのに、メイリンとは……僕は……。
リリーはもう話すらしてくれない。あれ以来リリーと2人で会ったことも無い。僕達はもうダメなのだろうか。明らかに僕は不貞行為をした。でもそれは魅了のせいだった。リリーはもう許してくれないのだろうか。公爵家の方からは婚約破棄は言い出せないはずだ。それを笠に着て僕はまだリリーにすがっている。
スタンピードが落着き、メイリンはスーザンの殺害未遂で投獄された。そう言う女だったのだ、魅了のせいとはいえ、僕が心から愛を告げた女は。
スーザンとチャーリーの婚約が決まったのを機に、僕はリリーにきちんと話そうと思って、王宮に彼女を呼んだ。断られるかと思ったが、意外にも彼女はやって来た。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。
石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。
その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。
実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。
初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる