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5、イチゴのアレとファーストキス
しおりを挟む「ねえねえ、 コタロー」
集団登校で縦一列に並んで歩きながら、 先頭の班長の目を盗んで後ろのコタローの横にススッと並ぶ。
「ねえ、 アレ持ってきた?」
小声で囁くようにそう言いながら、人差し指でコタローのポケットを覗き込もうとしたら、 片手でパシッと弾かれた。
「勝手に人のポケット触んな」
「いいじゃん、 ケチ。 ちょっとアレ見せてよ」
「はあ? アレ? 」
「そう、 アレだよ。 例のアレ」
「なんだよお前、 アレアレ詐欺か」
コタローが横目でチロッと残念な子でも見るような視線を送ってくるから、 温厚な私も流石にキレた。
「ハア?! あんた自分が言ったこと忘れたの?! あんたが楽しみにしとけって言ったんじゃん! ピンクのイチゴの…… むぐっ」
コタローの手で口を塞がれてモゴモゴしてたら、 騒動に気付いた6年生の班長からフエをピピッ! と吹いて注意された。
渋々元の位置に戻り、 目の前の3年生の黒いランドセルを見ながら歩き出す。
「…… ハナ、 ごめん、 ウソだよ 」
「えっ?」
「からかっただけ。 ちゃんと取ってきたから。 イチゴの…… アレ」
「ウソっ、 本当に?! 」
バッと振り返ったら、 コタローがニヤッとしながら頷いた。
「俺の部屋にある。 放課後うちに来いよ 」
「やった~! でかしたコタロー! あんたはやれば出来る子だと思ってた! 」
再びコタローの横に並んでランドセルをバンバン叩いてたら、
ピピッ!
またしても班長にフエを鳴らされた。
***
「ほら、 コレだろ? お前が欲しかったの」
コタローが机の引き出しから取り出したのは、 紛れもなく私が昨日指差していたイチゴのチョコ。
コタローの手のひらからそれを受け取ると、 薄ピンクの包みを開いて取り出す。
私の人差し指と親指に挟まれたそれは、 包みと同様、 可愛らしいピンク色で、 香りだけでも既にイチゴ味だと教えてくれている。
「凄いね、 コレどうやって取ってきたの? 絶対に無理だと思ってた。 よくバレなかったね」
「頼んだお前がソレを言う? …… じいちゃんとこに行くって言って出てきたんだよ。 横に置いてある踏み台を開くときにガチャって音がしたけど、 じいちゃんが下りてこなかったからセーフだった」
「そっか…… ありがとう。 食べてもいい? 」
「ハハッ、 どうぞ」
一口で食べるのは勿体無い気がしたので、 とりあえず半分だけ齧ってみる。
途端に口の中に、 少し酸味のある甘さが広がった。
「ん~っ! まろやかな甘さ! 美味しい! 」
イチゴチョコの中にはマシュマロといちごみるくクリーム。 ふんわり軽いマシュマロとミルキーなクリームが絶妙なハーモニーを奏でている。
「ハナ、 美味いか? 」
「うん、 想像以上。 コタロー、 ありがとう! 」
「どういたしまして」
コタローは目を細め、 まるで自分もチョコを食べてるみたいに甘くてシアワセそうな表情で見つめている。
あまりにもジッと見られると罪悪感が……。
「…… コタローも食べてみる? 」
「ううん、 俺はいいから食べちゃえよ」
「なんか私ばっか食べてて悪いね」
「いいよ、 俺にはご褒美があるから」
「へえ~っ、 なんかいいことでもあるの? 」
「うん、 ハナにキスしてもらうから」
ぐっ!
思わず鼻からチョコが出そうになった。
「あれってマジなの? 」
「マジに決まってるじゃん」
「でもさ、 それって必要? そんな事してなんか意味あるの? 」
「ある。 対価交換として当然の権利だ。 俺はそのチョコのために親に嘘までついて危険を冒したんだからな。…… なんなの? お前は約束を守る気も無いのにチョコを食べたわけ? 」
うぐっ……。
返す言葉もない。
コタローの言う通りだ。
昨日約束したことをコタローはちゃんと実行した。
だったら次は私の番だ。
「よしっ! 約束は守るよ。 キスしよう! さあ来い! 」
「なんか相撲を取るみたいな言い方だな」
コタローがクスクス笑いながら、 椅子から立ち上がる。
「お前からしろよ、 ご褒美なんだから」
目の前で腰を屈められて覚悟を決めた。
…… よしっ、 行くぞ!
素早く顔を寄せたら、 唇がコタローの唇の端に触れた。
「あっ、 ズレた! 」
思わず大声を出したら、 コタローが「お前、 ムードが無いな」と苦笑した。
約束を実行するのにムードが必要なのかは知らないけど、 とりあえず私たちの最初の対価交換は、 こうして成立したのだった。
でもさ…… コレって普通、 ファーストキスって言うんじゃない?
いいのか? 私。
そしてコタロー、 お前もこれでいいのか?
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