【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん

文字の大きさ
5 / 100

5、イチゴのアレとファーストキス

しおりを挟む

「ねえねえ、 コタロー」

 集団登校でたて一列に並んで歩きながら、 先頭せんとうの班長の目を盗んで後ろのコタローの横にススッと並ぶ。


「ねえ、 アレ持ってきた?」

 小声で囁くようにそう言いながら、人差し指でコタローのポケットをのぞき込もうとしたら、 片手でパシッとはじかれた。


「勝手に人のポケットさわんな」
「いいじゃん、 ケチ。 ちょっとアレ見せてよ」

「はあ? アレ? 」
「そう、 アレだよ。 例のアレ」

「なんだよお前、 アレアレ詐欺さぎか」


 コタローが横目でチロッと残念な子でも見るような視線を送ってくるから、 温厚おんこうな私も流石さすがにキレた。


「ハア?!  あんた自分が言ったこと忘れたの?!   あんたが楽しみにしとけって言ったんじゃん! ピンクのイチゴの…… むぐっ」


 コタローの手で口をふさがれてモゴモゴしてたら、 騒動に気付いた6年生の班長からフエをピピッ! といて注意された。

 渋々元の位置に戻り、 目の前の3年生の黒いランドセルを見ながら歩き出す。


「…… ハナ、 ごめん、 ウソだよ 」
「えっ?」

「からかっただけ。 ちゃんと取ってきたから。 イチゴの…… アレ」

「ウソっ、 本当に?! 」

 バッと振り返ったら、 コタローがニヤッとしながらうなずいた。


「俺の部屋にある。 放課後うちに来いよ 」

「やった~! でかしたコタロー! あんたはやれば出来る子だと思ってた! 」

 再びコタローの横に並んでランドセルをバンバン叩いてたら、

 ピピッ! 

 またしても班長にフエを鳴らされた。


***


「ほら、 コレだろ? お前が欲しかったの」


 コタローが机の引き出しから取り出したのは、 まぎれもなく私が昨日指差ゆびさしていたイチゴのチョコ。 

 コタローの手のひらからそれを受け取ると、 うすピンクの包みを開いて取り出す。

 私の人差し指と親指に挟まれたそれは、 包みと同様、 可愛らしいピンク色で、 香りだけでもすでにイチゴ味だと教えてくれている。


「凄いね、 コレどうやって取ってきたの?  絶対に無理だと思ってた。 よくバレなかったね」

「頼んだお前がソレを言う?  …… じいちゃんとこに行くって言って出てきたんだよ。 横に置いてある踏み台を開くときにガチャって音がしたけど、 じいちゃんが下りてこなかったからセーフだった」

「そっか…… ありがとう。 食べてもいい? 」
「ハハッ、 どうぞ」


 一口で食べるのは勿体無もったいない気がしたので、 とりあえず半分だけかじってみる。
途端に口の中に、 少し酸味のある甘さが広がった。


「ん~っ! まろやかな甘さ! 美味おいしい! 」

 イチゴチョコの中にはマシュマロといちごみるくクリーム。  ふんわり軽いマシュマロとミルキーなクリームが絶妙ぜつみょうなハーモニーをかなでている。


「ハナ、 美味うまいか? 」
「うん、 想像以上。 コタロー、 ありがとう! 」
「どういたしまして」

 コタローは目を細め、 まるで自分もチョコを食べてるみたいに甘くてシアワセそうな表情で見つめている。

 あまりにもジッと見られると罪悪感が……。


「…… コタローも食べてみる? 」
「ううん、 俺はいいから食べちゃえよ」

「なんか私ばっか食べてて悪いね」
「いいよ、 俺にはご褒美ほうびがあるから」

「へえ~っ、 なんかいいことでもあるの? 」
「うん、 ハナにキスしてもらうから」


 ぐっ!

 思わず鼻からチョコが出そうになった。


「あれってマジなの? 」
「マジに決まってるじゃん」

「でもさ、 それって必要? そんな事してなんか意味あるの? 」

「ある。 対価交換たいかこうかんとして当然の権利だ。 俺はそのチョコのために親に嘘までついて危険をおかしたんだからな。…… なんなの? お前は約束を守る気も無いのにチョコを食べたわけ? 」


 うぐっ……。

 返す言葉もない。

 コタローの言う通りだ。
 昨日約束したことをコタローはちゃんと実行した。
 だったら次は私の番だ。


「よしっ! 約束は守るよ。 キスしよう! さあ来い! 」
「なんか相撲すもうを取るみたいな言い方だな」


 コタローがクスクス笑いながら、 椅子から立ち上がる。

「お前からしろよ、 ご褒美なんだから」


 目の前で腰をかがめられて覚悟を決めた。


 …… よしっ、 行くぞ!


 素早く顔を寄せたら、 唇がコタローの唇の端に触れた。

「あっ、 ズレた! 」

 思わず大声を出したら、 コタローが「お前、 ムードが無いな」と苦笑した。


 約束を実行するのにムードが必要なのかは知らないけど、 とりあえず私たちの最初の対価交換は、 こうして成立したのだった。


 でもさ…… コレって普通、 ファーストキスって言うんじゃない?

 いいのか? 私。

 そしてコタロー、 お前もこれでいいのか?
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...