6 / 100
6、コタロー驚く
しおりを挟む「う~ん、 最高! 『きなこもち』もいいけど、 これはこれで良いね~ 」
俺が渡した『みるくもち』味のチョコを頬張りながら、 今日もハナは目尻を下げて、 これ以上無いというような最上級の笑顔を見せる。
ーー うん、 可愛い。 昨日も頑張った甲斐があったな。
「それじゃ、 ご褒美ちょうだいよ」
「あっ…… うん」
俺が少し体を屈めて目をつぶると、 ゆっくりと近付いてくるハナの気配と甘ったるい香り。
唇にチュッと柔らかいものが触れて、 それはいつもと同じように一瞬で離れていく。
「オッケー、 今日の対価はいただきました」
「…… はい」
小4で始まって、 今はもう中2の春。
もう4年も経つというのに、 ハナは今だにこの行為の後に照れたような顔をする。
ーー うん、 今日も照れてる、 照れてる。
「ハナ、 行くよ」
トントンと階段を3段ほど下りたところで振り返って名前を呼んだら、 頬を赤らめたまま、 黙ってついてきた。
うん、 やっぱり可愛い。
俺はこの瞬間のために、 毎日チョコを運び続けている。
***
それが始まったのは、 確か小4になってすぐの春。
直接のきっかけはハナが虫歯になったことだったけれど、 本当の始まりはその前に、 ハナと俺のクラスが別々になった事からだった。
「そう言えば私さ、 学級副委員長に選ばれたわ」
塾の時間の前に俺の部屋で一緒に宿題を済ませてたら、 ハナが唐突に、 そう切り出した。
「はあ?! なんでハナが? お前そんなに成績良くないだろう? 」
「違うんだってば。 みんなで委員会決めしてた時に後ろの京ちゃんと喋ってたらさ、 先生が『花井さん、 そんなに話すのが好きなら学級委員をやってもらおうか』って」
「お前、 お喋りは得意でも、 人をまとめるキャラじゃないじゃん! 」
「うん。 だから委員長は優等生の熊井くんだよ。 私は『副』」
「副でも何でも、 お前には無理だろ。 断る勇気を持てよ! 」
「『私には絶対ムリ!』って言ったってば。 そしたら熊井くんが、『僕に任せて』とか『一緒に頑張ろう』とか爽やかに言うからさ。 たぶん熊井くんがどうにかしてくれるから、 私は何もしなくてもお任せで大丈夫だよ」
「大丈夫って…… お前…… 」
なんで後ろ向いてお喋りなんかしてんだよ。
なに勝手にクラス副委員なんかになってんだよ。
なんで熊井にお任せなんかするんだよ。
なんで勝手に…… 俺以外のやつに頼ってんだよ、 バカヤロウ。
午後4時25分、 塾に移動する時間だ。
俺はハナが立候補するって言ってた放送委員になった事を言い出せないまま、 カバンを持って立ち上がった。
ハナのくせに…… 俺の知らないとこで、 俺のいない世界を楽しんでんじゃねえよ。
1
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる