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26、ライバル宣言 (3)
しおりを挟む1時間のお昼休憩になり、 観客も各々立ち上がって、 持参したクーラーバッグを開けたり食べ物を買いに動き出したりしている。
だけど、 ザワついている会場の中で、 私は凍ったみたいにその場から動けずにいた。
コタローが負けた…… 足のせいで。 私のせいで。
謝りに行こうか…… でも、 私が試合を観に来たって知ったら怒るだろうな。
そもそも、 謝ったからって今更どうしようもない。
試合は終わってしまったのだから。
ふと周囲から人が減ったのに気付いて、 このままここにいては逆に目立つと思い、 とりあえず1階に下りることにした。
下の廊下の両側にはズラリと防具や竹刀が置かれていて、 その前で道着姿の生徒が座り込んで、 オニギリを頬張ったり談笑したりしている。
やっぱり汗臭い。 男の世界って感じだ。
色葉先輩なんか『掃き溜めに鶴』じゃん、 なんで剣道部なんだよ。
テニス部とか手芸部でいいじゃん……。
そう考えながら廊下を見渡していたら、 遠くの方でパイプ椅子に座っているコタローの姿を発見してギクリとした。
パイプ椅子に深くもたれて、 壁に後頭部をくっつけ、 右腕で目元を覆ったまま天井を仰いでいる。
悔しそうに歪んだ口元…… いや、 もしかしたら、 まだ痛みがあるのかも知れない。
だって足元には、 掃き溜めの鶴…… じゃなくて、 色葉先輩が、 あの日と同じようにしゃがみ込んでいる。
色葉先輩は廊下で片膝をついて、 立てた方の膝にコタローの足を乗せ、 何かをスプレーしていた。
テレビのコマーシャルとかで見たことがある。 痛み止めとかクールダウンとかいうヤツだ。
彼女は剣道部のマネージャーなのかな。
いや、でも道着を着てるし、 やっぱり彼女も試合に出ているんだろう。
彼女は部員みんなの面倒を見てるんだろうか…… それともコタローだけ?
いや、 そんなのどっちでもいいけどさ…… いや、 良くない。
なんで良くない?!
色葉先輩がテーピングしながら、 コタローのふくらはぎの辺りを指先で一撫でする。
途端にコタローが体を仰け反らせて足をビクッと上げ、 大声で何かを言っている。
笑い合う2人と、 それを微笑ましく見守る部員たち。
ーー おおっ、 青春ですねぇ……。
『色葉先輩、 何するんスか。 くすぐったいっスよ。 やめて下さいっスよ! 』
『あらあら天野くん、 くすぐられるのは苦手なの? カワイイわね。 ウフフ』
……なんちゃって。
ーー ハハッ…… バカみたい。
自分で実況しといてアホらしくなってきた。
ーー ああ、 これ…… 見ちゃいけなかったヤツだ。
うん…… 見なきゃ良かった。
…… 来なければ良かった。
コタローが来るなって言ったのは…… 見られたくなかったのは…… こういう事なのかも知れない。
「コタローは昔からくすぐられるのが苦手なんだよ! バカ! 」
ーーって、 その事ももう、 色葉先輩は知ってるのか。
口の中で小さく呟いて、 体育館を後にした。
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