40 / 100
40、 コタロー後悔する (1)
しおりを挟む「う~ん、 量を取るか質を取るか…… ねえコタロー、 この特売のやつと極上の松阪肉と、 どっちがいい? 」
「そんなもん両方買っとけよ。 どうせ全部ペロッと食べちゃうって」
「そんなに沢山買って誰が食べるのよ! 」
「ん…… 俺が食う。 育ち盛りだから」
「えっ! それ以上背が伸びたら、 今度キスする時に背伸びしても届かな…… 」
途中まで言って、 顔を真っ赤にして口ごもる。
ーー おいおい、 今日もカワイイなっ! コイツ!
せっかくなら最後まで言い切って欲しかったぜ。
まあ、 途中まででもしっかり俺の脳内レコーダーに録音済みだけどな。
自分で言ったセリフに照れたのか、 俺の希望通り2種類の牛肉を2パックずつカートに放り込んで、 そのままスタスタと隣の鶏肉コーナーへと移動する。
必死で肉を物色しているハナの後ろを、 ショッピングカートを押して、 黙ってついて行きながら、 俺は今日の学校での出来事を思い出していた。
ーー ああ、 失敗した。 大失敗だよなぁ……。
「はぁ…… 」
ピョンピョン揺れるポニーテールを見つめながら、 思わず深いため息が溢れる。
ーー 何が『練習を見ながら待っとく? 』だよ。 『勇姿を見てて』だよ。 そもそもあんなとこに呼んじゃいけなかったんだよな……。
そう、 ずっと慎重に、 大切に守ってきたことを、 俺は自ら破ってしまったんだ……。
ハナは一見とても自由で強気に見えるけれど、 それは俺みたいに気心が知れた人間限定だ。
案外人見知りだし小心者で、 相手の気持ちを優先して後ろに引いてしまうような所がある。
だからサジ加減を間違えると一気に俺との距離を取ろうとする恐れがあるから、 その手の危険分子はなるべく排除するよう、 幼い頃から心掛けてきた。
例えば俺に寄ってくる女子。
自分で言うのもなんだけど、 俺は昔から結構モテる方だった。
顔は好みがあるから何とも言えないけれど、 背が高かったし勉強も運動も出来たから、 そこそこ目立ったんだと思う。
それと決め手は、 俺のハナに対する献身ぶり。
アイツが机から消しゴムを落としたら、 本人より先にしゃがみ込んで素早く拾い上げ、 鉛筆の芯が折れたと言えば、 すぐさま鉛筆削りでジョリジョリ削ってやる。
教科書を忘れたと言ったら自分そっちのけでアイツに貸すし、 貸した教科書に下手くそな落書きをされても怒らない。 むしろ永久保存版だ。
そんな風にハナのために必死で頑張ってきたことが、 逆に『文武両道な上に優しくて面倒見のいい男』と認識されて、 女子の中で美化して見られるようになってしまった。
ある日、 塾の休憩時間にトイレから戻ってきたハナが言った。
「ねえコタロー、 あの子たちが、 コタローに話があるんだってさ」
ハナが指差した方を見ると、 塾で一緒に授業を受けている女子3人組が、 ドアの近くに固まってチラチラ見ている。
仕方なく廊下に出て話を聞いたら、 今度一緒にスケートに行かないかというお誘いだった。
「悪いけど、 そういうの興味ない。 あと、 こういう事にハナを使うのやめてくれる? 気分悪い」
思いっきり無愛想に答えたら、「サイテー! 」って言われたけど、 それで結構。
こっちはハナを振り向かせることだけに集中したいんだ。 邪魔すんな。
それにしても、 女子トイレでハナが頼みごとをされるのは阻止しようがないな…… 対策を考えないと……。
そう思いながら元の席に戻ると、 ハナが屈託なく、「何だったの? 」と聞いてきた。
「ああ、 さっきの問題で分からないところがあったらしい。 公式を教えたらすぐに解決したよ。 塾長の息子って大変だわ」
「そっか…… コタローは教えるのが上手だもんね」
ーー お前限定だけどな。
そうやって、 『幼馴染』の俺が男であることも、 他の女子の存在も意識させることなく、 2人でいるのが当たり前であるように、 ハナが俺の側にいることを、 息をするように自然だと思えるように……必死でそう努めてきたんだ。
だから、 道場に見学にも来させなかった。
先輩にしごかれて汗をダラダラ流してる必死な姿を見られたくないというのもあったけれど、 ああいう風にたまに見学に来るキャピキャピした女子だとか、 部活仲間の女子とのやり取りとかを見られたくなかったんだ。
案の定、 ほら、 ああやってすぐに調理室とかに逃げちゃうだろ? コイツって……。
だから今回は、 俺に魔が差したんだと思う。
だってさ、 色葉先輩にあんな事を言われたらさ……。
それは、 夏休みのことだった。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる