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52、 対価交換、終了 (2)
しおりを挟む部屋のドアに向かって拒絶の言葉をぶつけたあと、 そのまま枕に顔を押し付けて、 自己嫌悪に陥った。
後悔するくらいなら、 あんなに酷い言葉を言わなければいいのに。
コタローは何も悪くないのに……。
嘘をついていたことがバレたのが、 身悶えするほど恥ずかしくて、 情けなさで一杯になって、 行き場のないその感情を、 コタローに向かって爆発させた。
ーー 最低だ…… 私。
その時、 カチャリとドアが開く音がして、 しばらくしてから、 ギシッとベッドが軋んだのが分かった。
ーー ああ、 そうだ。 コタローはこういうヤツだった。
「…… 私、 入っていいって言ってない」
枕に顔を埋めたまま、 くぐもった声でそう言ったら、 返事は思いのほかすぐ近くから聞こえてきた。
「…… 入ってもいい? 」
「…… ダメ」
「…… お部屋に入ってもよろしいでしょうか? お嬢様」
「………… ダメって言った」
「でも、 もう入っちったし」
「もう…… だったら聞くな! 」
ガバッと起き上がって枕を掴むと、 力任せに振り下ろす。
だけど、 その枕はボフッという気の抜けた音と共にコタローに掴まれて、 あっけなくベッドの横に追い遣られてしまった。
ーー 悔しい! 恥ずかしい! 逃げたい!
布団の中に逃げ込もうとしたら、 手首を掴まれて、 グイッと引き寄せられる。
そのまま両手を捕えられ、 顔を隠すことも出来なくなった私は、 真っ赤な顔を曝け出すしかなかった。
「ハナ…… ロールケーキって、 4ヶ月も前だよな」
「…………。 」
「お前、 どうして…… 」
「うるさいっ! 」
「お前さ、 もしかして…… 」
「うるさいっ! うるさい、 うるさい、 うるさいっ! 」
最後までコタローに言わせちゃいけない。
その先の質問はさせちゃいけない。
私はその答えを…… 絶対に言いたくない。
「もう嫌だ…… 」
蚊の鳴くような声で呟いたのは、 涙の粒がポトリと落ちるのと同時だった。
「ハナ…… 」
「もう嫌…… もうやめる。 対価交換もチョコレートも」
狼狽えたのは、 私の涙にか、 言葉にか…… 。
コタローの瞳がユラリと揺れて、 唇がわずかに開いた。
「俺は…… 嫌だ、 やめたくない」
「…… 私はやめたい…… やめる! 」
最後はしゃくりあげながら、 声にならない声で訴えた。
一度溢れ出した感情は自分でも止められなくて、 嗚咽は次第に大きくなり、 最後は「わーーっ」と幼児のように大声で泣きだした。
「ハナ、 聞いて」
「嫌だ! 」
コタローの言葉にも耳を貸さず、 首をイヤイヤと横に振る。
「ハナっ」
「嫌っ! 」
「聞けよっ! 」
次の瞬間、 泣きわめく私の口は、 コタローの唇によって乱暴に塞がれた。
私がビックリして目を見開いたら、 コタローの方がもっとビックリした顔をして、 パッと手を離した。
「ごめん…… ハナ…… 俺…… 」
コタローはゆらりと立ち上がって、 唇をギュッと噛んだ。
そのまま幽霊みたいな足取りでフラフラと歩いて行くと、 ドアの前で立ち止まって、
「分かった…… 対価交換は終了な」
掠れた声でポツリと言い残して、 ドアの向こうに消えて行った。
コタローが振り返らなかったから、 その表情は見えなかったけれど、 なんだか泣いていたような気がした。
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