54 / 100
54、 コタロー惨めになる
しおりを挟む「ねえ天野くん、 今度一緒に滝高の学園祭に行かない? 」
放課後、 道着に着替え終わってストレッチを始めようとしていたら、 色葉先輩に声を掛けられた。
剣道部の3年生は8月の全国大会までで引退だったけれど、 色葉先輩だけは今もこうしてちょくちょく顔を出してはマネージャー業務を手伝ってくれている。
それは色葉先輩が、 剣道の実績と、 常に学年上位の成績を認められて、 私立滝山高校への推薦入学をほぼ確実にしているからだ。
「滝山高校の学園祭…… ですか? 」
「そう。 この前、 滝高の剣道部の見学に行ったらね、 顧問の濱口先生が、『天野くんも是非連れておいで』って」
滝山高校は有名大学への合格率が高いことで有名な進学校で、 演劇部や吹奏楽部が全国大会に出場するなど、 文科系の部活が強いことでも名が知れ渡っている。
最近は運動系の部活にも力を入れ始めていて、 数年前に武道場を新設したというのは有名な話だ。
「俺も滝高には興味があったんで、 見学に行きたいとは思ってたんですけど…… 2人ではちょっと…… 」
「あら、 前に私と友達になってくれるって言ったわよね。 友達と学園祭に行っちゃダメなの? それともあの幼馴染のハナちゃんに叱られるの? 」
「いや、 ハナに叱られるとかじゃなくて…… 」
『俺がハナに誤解されたくないんですよ』と言おうとしたら、
「そうよね、 あの子は関係ないわよね。 彼女自身が『関係ない』ってハッキリ言ってたもの。 それに、 あなた達が別れたっていうのは有名ですもんね」
「えっ、 別れた?! 有名って…… 」
別れるも何も、 俺とハナはそもそも付き合うところまで行ってないのに、 いつの間にそんな噂が出回ってたんだ……。
だからなのか。
最近下駄箱にラブレターが入っていたり、 武道場の前のギャラリーが増えたのは。
「…… ったく、 勘弁してくれよ」
思わず愚痴がこぼれる。
これ以上ハナを刺激しないようにと距離をとってる最中なのに、 違う方向から精神攻撃をされたら、 アイツがますます離れてしまう。
「色葉先輩、 俺やっぱり学園祭には…… 」
「えっ、 学園祭?! 俺も行きたいッス! 」
「俺も! 色葉先輩、 俺も行っちゃっていいですか?」
「ええ、 もちろんよ。 みんなで待ち合わせて行きましょうよ」
断りを入れようとした時に、 他の部員もわらわらと集まってきて、 色葉先輩がニコニコしながら詳細を説明し始める。
「天野くんも剣道部を見に行くでしょ? 濱口先生に伝えておくわね」
「…… はい」
俺はため息を一つ吐いてから、 計画を立てている仲間の輪に加わった。
俺とハナの関係はと言うと、 あの日を境に1万光年くらい距離が離れてしまっている。
もちろん実際には家が隣同士なのは変わらなくて、 ただ、 心の距離だけがぐんぐんと広がっているという状態だ。
あの事件の翌週、 自転車で家を出ようとしたら、 同じく家を出ようとしていたハナと玄関前で鉢合わせした。
「ハナ…… おはよう」
「…… おはよう」
ーー 良かった、 とりあえず無視はされなかった。
「あのさ、 金曜日は…… 」
謝りの言葉を言う前に、 ハナはフイッと視線を逸らして自転車に跨った。
あの件には絶対に触れられたくないと言うことなんだろう。
いつもなら並んで登校するところだけど、 ハナの強張った表情が、 それを拒絶していた。
だから俺は、 少し遅れてハナの後ろから自転車を走らせた。
ハナはゆっくりだから、 ちょっとスピードを上げれば、 すぐに追いついてしまう。
小さな背中とピョコピョコ揺れるポニーテールを遠目に見ながら、 追い付くことも、 追い抜くことも出来ないまま、 ノロノロと自転車を漕ぎ続ける。
ーー ハハッ…… これじゃ俺、 マジでストーカーみたいだな。
いつもなら楽しい時間だったはずが、 苦痛以外の何ものでも無い。
たった5分の通学時間が、 その日は永遠のように感じた。
自分が惨めで情けなくて、 鼻の奥がツンとした。
思わず喉から笑いが込み上げる。
その翌日から俺は、『早朝練習』という名目で、 1時間早く家を出ることにした。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる