【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん

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60、 決戦の金曜日 (1)

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 その日の放課後は、 家に帰る足取あしどりがやけに重くて、『今すぐ38度くらいの熱が出ちゃわないかな』……とか、『お腹が痛くなった』はもう使えないよね …… なんて考えながら、 キコキコと自転車のペダルをいでいた。

 家に着いたところで、 塾の前の掃除そうじをしている風子ふうこさんと目が合って、 

「あら花名はなちゃん、 お帰りなさい。 あとで準備、 よろしくね」

 なんて言われてしまったから、 もう逃げも隠れも出来なくなった。 
 万事休ばんじきゅうす。


 うちの親や風子さんたち周囲の大人は、 私とコタローがずっとギクシャクしているのに気付いているけれど、 それを口には出さないし、 聞いてもこない。

 今までだって些細ささい喧嘩けんかめ事は何度もあったし、 それでも2人の間で泣いたり怒ったりしながら解決してきた。
 だから今回もそうするものだと思っているんだろう。

 特に、 うちの親のコタローに寄せる信頼は絶大ぜつだいだ。


 今回の件でも、 変に口を挟まず放任ほうにん主義に徹してくれているのは、 ある意味非常にありがたい。

 ……けれど、 そのぶん気をつかってくれるという事も無いので、 今日みたいに2人が顔を合わせる機会を、 容赦ようしゃなくブッ込んでくるのだ。



 午後5時に塾の玄関から中に入ると、 2つの教室では小3と小4の授業の真っ最中だった。
 邪魔にならないよう足音を忍ばせて、 奥の自習室へと向かう。

 いつもは3列並んでいる長机のうち2つがくっつけてあり、 上に折り紙やラッピング用ティッシュ、 ハサミやのり、 輪ゴムなど、 必要物品が揃えて置かれているのは去年と同じ。 
 風子さんが準備しておいてくれたのだろう。

 コタローと京ちゃんは部活が終わってから来るので、 あと20分くらいは掛かるはず。

 私は折り紙とハサミを手に取ると、 一足先に作業を始めることにした。



 ーー 2人とも遅いな……。

 教室の時計を見上げると、 時刻は午後5時28分になっていた。

 午後5時に部活が終わると言っても、 すぐには終われないだろうし、 後片付けもあるだろう。
 それでも、 そろそろここに到着してもいい頃だ。

 コタローは着替えもあるから、 たぶん来るのは京ちゃんが先になるはず……。

 そうであってくれるといいな…… と思った。
 いきなりコタローと2人きりは、 やっぱり気まずい。


 1人で黙々と切った折り紙をつないでいると、 部屋のドアがバタンと開いた。
 京ちゃんだと思って顔を上げたら、 そこにいたのはコタローだった。

 自分の部屋で着替えてきたらしく、 白い長袖Tシャツに黒いスキニーパンツのカジュアルな服装で、 ドアノブに手を掛けたまま、 気まずそうに立っている。


「あの…… 京ちゃんはまだ来てないよ」
「…… 知ってる。 指をケガしたから今日は来れないってメールがあった」
「えっ?! 」

 慌てて椅子に掛けた上着のポケットからスマホを取り出して確認すると、 確かに5時ちょっと過ぎに、 京ちゃんから連絡が来ていた。

『料理中に指をヤケドしたので今日は帰ります』


 ーー ええっ、 京ちゃ~ん!

 コタローが先に来たら気まずいどころか、 京ちゃんが来ないって……。

 だけど、 ここで帰ったらあからさま過ぎる。
 なるべく普通。 なるべく平常心で……。


 机の反対側に座ったコタローを見ると、 髪がしっとりとれていることに気付いた。
そういえば、 首にタオルが掛けられている。


「コタロー、 髪が濡れてるよ」
「あっ…… うん。 部活の後で汗臭いと思ったから、 家でシャワーを浴びてきた」

「ちゃんと乾かさなきゃダメだよ。 いくら暖房が効いてるって言ったって真冬なんだからさ。 風邪ひくよ」

「ああ…… でも、 お前が待ってると思ったし」
「えっ? 」

「京ちゃんが来ないってことは、 お前が1人で作業してるってことだろ。 早く来て手伝いたいじゃん」

「あっ…… ああ、 うん…… 」


 ーー そのために、 髪もろくに乾かさないで駆け付けて来たのか…… 優しいな。

 それに比べて、 気まずいとかズル休みしたいとか思ってた私ってクズだ。


 自己嫌悪におちいりながら、 黙って手元だけを動かすと、 コタローも私が切っておいた折り紙を手に取って、 繋ぎ始める。


「ハナ」
「はっ、 はいっ! 」

 うわっ、 思いっきり声がうわずった!

「1人でここまでやったの? 頑張ったじゃん」
「う…… うん」

 コタローはなんか普通。 私だけ意識してるみたい。

 コタローは色葉先輩と付き合ってるから、 私の事はもう気にならないのかも知れない。

 多分そうなのかな…… って覚悟はしていたけれど、 実際平気そうにしているコタローを目の前で見て、 思った以上にショックを受けている自分がいる。

ーー 平常心、 平常心……。


「なあ、 ハナ」
「はっ、 はい! 」

 コタローは折り紙を手早く輪にして次々と繋げながら、 手元から目を離さずにスルリと告げた。


「…… 俺、 色葉先輩とは何もないよ」
「…… えっ? 」


ーー えっ、 だって……。

 一緒の登下校は?
 滝高の学園祭は?
 武道場でのい引きは?

 そして…… どうしてわざわざ私にソレを言うの?


 のりをコトリと机に置いて顔を上げたら、 真っ直ぐに見つめてくるコタローと視線がぶつかった。
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