62 / 100
62、クリスマスプレゼント
しおりを挟むクリスマス目前の土曜日、 塾を早めに終わらせた今日は、 塾の生徒を招待してのクリスマス会が催されていた。
お手伝い要員である私たちは、 サンタのコスチュームに身を包み、 風子さんの手足となって飲み物を配ったり、 ゲームの進行を手伝ったりと、 大忙しだ。
風子さんに言われて3人でサンタのコスチュームを買いに行った時、 可愛いミニスカサンタのを買おうとしたら、 コタローにマジギレされて却下されてしまった。
だから今日の私たちは、 3人揃ってオーソドックスなおじさんサンタ。
ちぇっ、 せっかくコタローに可愛い姿を見せようと思ったのに。
午後6時から始まった会は、 小さい子から徐々に抜けていき、 午後8時半には終了した。
それから片付けが終わったのが9時近くで、 京ちゃんがお母さんの車で帰って行くと、 教室にはサンタの格好をした私とコタローと、 黒いゴミ袋2つだけが残された。
「さて……と、 このゴミ袋は俺が玄関に出しとくからさ、 ハナはもう帰っていいぞ。 お手伝い、 サンキューな」
「えっ、 あっ、 ちょっと待って! 」
急に私が叫んだものだから、 コタローの手が滑って、 持ち上げかけていたゴミ袋がドサリと床に落ちた。
「あっ、 ごめん! ちょっ…… ちょっと待ってね! 」
怪訝そうな顔をしているコタローを置いて部屋の隅に行くと、 私は手提げカバンの中から紙袋を取り出して、 コタローの前に立った。
「はい、 クリスマスプレゼント。 ちょっと早いけど、 当日に会えるかどうか分からないから」
「…………。」
コタローはしばらく黙って見つめてからその包みを手に取って、 中身を取り出した。
「これ…… 出たばっかの最新巻か」
「うん、 そう。 まだ読んでないでしょ? 」
それはコタローが買い続けている漫画の最新巻。
いつからそうなったのか記憶に無いけれど、 私たちのクリスマスプレゼントは漫画と決まっている。
たぶん、 私のお小遣いが足りなくて漫画の最新巻を買えなかった時に、 コタローが『クリスマスプレゼント』と言って買ってくれたのが始まり。
それ以来、 クリスマスの日に本屋で一緒に漫画を選んで贈り合うのが、 私たちの恒例行事。
どのみち両方の漫画を読めるので、 いいアイデアだったと思う。
買った漫画をどちらかの家で一緒に読んでそのまま放置して行くものだから、 今ではどの漫画がどっちの持ち物かも分からなくなって、 本棚の中には何冊か数字の抜けた単行本が無秩序に並んでいる。
今までは、 それで困らなかったし不便を感じることも無かった。
だって家に無くたって、 読みたければ隣の家に行けば良かったから。
だけど今年のクリスマスは一緒に本屋に行けないだろうから…… 私は1人で、 いつものように漫画を買って贈ることにしたんだ。
コタローは私が贈った漫画をじっと眺めていたけれど、 しばらくすると、「ちょっと待ってて」と本を私の手に押し付けて出て行ってしまった。
2分ほどして戻って来ると、「ほら、 コレ」。
私があげたのと同じ本屋の包みを差し出して来る。
ーー えっ?!
急いで中身を取り出してみたら、 コレまた私があげたのと同じ漫画の最新巻。
「俺も…… さ、 クリスマスプレゼントにと思って。 ハハッ、 2人して同じ事を考えてたのな」
「なんだよ…… 丸被りしちゃったじゃん…… 」
「ハハッ、 ホントだな」
「私…… 今年はコタローからプレゼントなんて貰えないと思ってた…… 」
「なんでだよ、 そんなこと言うなよ! 」
「だって…… 」
だって、 今年はコタローにいっぱい嫌な思いをさせた。
嘘をついた。
酷いことを言った。
いっぱい困らせた。
ーー だから、 サンタさんのプレゼントを貰う資格なんか無いって……。
「まあ、 とにかく…… プレゼント、 サンキュ」
「うん…… コタローも、 プレゼントをありがとう」
同じ漫画を手に見つめ合いながら、 2人してなんだか照れ笑いする。
「あのさ…… 」
コタローが片手で頭を掻きながら、 斜め上の方向を見て、 ボソリと言った。
「ほら、 別々に買いに行くとこうなっちゃうだろ? …… だからさ、 来年からはやっぱ、 クリスマスに一緒に選びに行こうぜ。 それで、 本屋の帰りにまた駅前のツリーを見て帰ればいいじゃん」
「……うん」
ーー コタロー、 それってさ……。
それって、 来年も再来年も、 クリスマスは一緒にいてくれるってことなの?
なんだか、 これからもずっと隣にいていいよって、 特別だよって言われてるみたいで…… 。
その言葉が、 今までで一番嬉しいクリスマスプレゼントになった。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる