73 / 100
73、 2人の準備期間
しおりを挟む「あっ、 また離れた」
掲示板に張り出されたクラス分けを見て、 思わず声が出た。
「えっ、 マジかよ。 俺、 今朝起きた時にばあちゃんの仏壇にお願いしてきたのに」
「おばあちゃんが『浮かれてんじゃないよ』って言ってるんじゃないの? 」
「マジか、 ばあちゃん厳しいな」
武道場でコタローの朝練を済ませてから掲示板の前にやって来た私たちは、 今年こそ同じにという願いも虚しく、 またもや別々のクラスになってしまった。
これで中学3年間ずっと一緒になれなかったという事になる。
「ちぇっ、 俺さ、 アレやりたかったのにな」
「アレって? 」
「隣の席で、『教科書忘れたから見せて』って2人で机をくっつけるやつ」
「同じクラスになったって隣の席にならなきゃ出来ないじゃん。 そもそも教科書を忘れちゃダメじゃん」
「でも、 どうせお前、 一度は忘れるだろ? 」
「忘れるのってコタローじゃなくて私の方の設定?! そんなの嫌だよ、 カッコ悪い」
「え~っ、 今まで散々忘れてきたくせに」
コタローは『ちぇっ』とか言いながらも、 私のポニーテールを指先でプラプラ揺らして楽しそうに笑っている。 私の髪は猫じゃらしかっ!
「しょうがないな、 そんじゃ高校生活でリベンジだな。 高校に行ったらアレやろうぜ、 屋上で彼女の手作りのお弁当を食べるってやつ」
「え~っ! 私が同じ高校に行く前提? しかもお弁当まで作らされてる! 」
「そんじゃ俺が作るよ。 お前って卵焼き、 甘い派だったよな。 俺の好みでダシ風味でもいい? タコさんウインナーもオマケにつけてやるよ。 ほら、 同じ高校に通ったら絶対に楽しいぜ」
「コタロー、 何気に同じ高校に行く流れに持ってってない? 」
「うん、 さりげなく誘導してみたけど、 どう? 滝高に行く気になった? 」
「『どう?』ってね~! 」
「私はタコさんウインナーよりもカニさん派です」
背後で急に声がしてビクッとしたら、 京ちゃんがぴょこんと顔を覗き込んできた。
「あっ、 京ちゃん、おはよう! 今年は同じクラスになれたねっ! 」
2人で『やったね!』と手を合わせる。
「なんだよ~、 ズルいな。 京ちゃんは1年生の時もハナと一緒だっただろ。 俺と代わってくれ」
「絶対に変わりません!……てか、 あなたたち、 さっきから見てたら朝から甘いなっ! 甘々だわっ! コレが『両想いの魔力』ってヤツか。 ビックリだわ! 」
京ちゃんの言葉で私は真っ赤になって俯いたけれど、 コタローは何故か勝ち誇ったようにフフンと胸を張っている。
「いいだろ~、 両想い。 京ちゃんにはいろいろ心配をかけたよな。 ホント感謝しかない。 お陰様でハナがようやくデレの扉を開いたぜ」
ーー でっ、 デレの扉ってどこだよっ! 何色でどんな形なんだっ?!
アホなことを言っているコタローは放置して、 私は京ちゃんに向き直る。
「京ちゃんにはご心配をお掛けしました。 お陰様で仲直り出来ました」
「本当に2人にはジレジレさせられたよ。 でも、 ようやく2人がくっついて私も嬉しいよ。 コタローもさ、 クラスが違ってたっていいじゃん。 これからはカレカノなんだから堂々とイチャイチャしちゃいなよ! 」
京ちゃんがコタローの背中をバンッ! と叩くと、 コタローはキョトンとした顔で答える。
「いや、 京ちゃん、 まだ彼氏じゃないし、 付き合ってない」
「はぁ? 何言ってるの? ハナから聞いてるよ、 コタローが告ったんでしょ? 」
「告ったけど付き合ってないんだよ。 でも両想いなんで、 そこんとこヨロシク」
「はぁ?! 」
京ちゃんは、 言葉のあとに(怒)マークが付いていそうな感じの低い声音で『はぁ?!』と言って、 続いて私に『どうなってるの? 』という視線を向けてきた。
京ちゃんにはコタローが部屋から帰った直後にメールして、『私が告りそうになったらコタローに告られて、 両想いになった』と伝えてある。
我ながらバカっぽい文面だと思うけれど、 実際、 私とコタローに起こった出来事を簡潔にまとめると、 やっぱりこういう事で間違ってないはずだ。
ちなみに、 その文章に続いて送った、『一緒に滝高に行こうって言われた』という文の返事は、『それはかなりハードル高いね』だった。
私もそう思う。 切実に。
A組のコタローと分かれて京ちゃんと3-Dの教室に入ると、 京ちゃんは不満げにプウッと頬を膨らませて唇を尖らせた。
「ハナ、 私はビックリです」
「えっ? 」
「ハナからの報告とさっきのイチャつきっぷりから、 2人はカレカノになったものだと思ってたんだけど」
「…… ああ。 だけど、 コタローが待ってくれるって言ったから…… 」
「ああ、 もう! コタローは相変わらずハナに甘いなっ! 勢いで押しちゃえば良かったのに! 」
「ハハッ、 私も勢いで告る直前まで行ったけど、 コタローにストップをかけられたんだ」
「コタローが?! 」
京ちゃんは怪訝な顔をしてるけど、 私は今ではコタローの考えが何となく分る気がする。
私の気持ちが固まるまで待ってくれているというのもあるだろうけど、 コタロー自身のケジメみたいのもあるんじゃないかな…… と思うんだ。
前にコタローが言っていた。
コタローの中には理想の形っていうのがあって、 自分はまだまだそこまで到達してないんだって。 自分への誓いがあるんだって。
『その時になったら試合にも呼ぶから待っていろ』と告げたコタローが、 とうとう私を試合に呼んでくれた。
それはきっと、 コタローの中で理想の形が完成しつつあるっていうことなんだ。
コタローにとっては8月の全国大会がその時なんだ。
だったら私はそれまでに自分で出来る限りのことをして、 コタローの大切な日を、最高なものにしたいって思う。
だから……。
「京ちゃん、 お願いがあるんだけど…… 」
これはコタローにとっても私にとっても、必要な準備期間なんだ。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる